プログレ 【1998,1999,2000,2001,2002,2003,2004,2005,2006,2007】

クラフツマンシップ迸る本物指向の「小さな高級車」

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既存のヒエラルキーに属さない「小さな高級車」

 1998年5月に登場したプログレは、「小さな高級車」という新たなジャンルに挑戦した意欲作だった。ユーザーの「大きさは5ナンバーサイズで、装備も性能も高級なクルマが欲しい」という声に応えたモデルで、車名のプログレはフランス語の「進歩・進取」に由来している。
 クルマはボディサイズが大きくなるほど上級・上質になるのが一般的である。それは日本だけでなく、欧米を含めたすべてのメーカーに共通する。クルマには、社会的な地位を反映するステータスシンボルとしての機能があり、その反映の結果として大きなクルマほど上級=高級車という図式が形づくられてきたからだ。プログレがデビューした1998年のトヨタを例に取れば、スターレットよりカローラ、カローラよりコロナ、コロナよりカムリ、カムリよりマークII、マークIIよりクラウン、クラウンよりセルシオのほうが上質という厳然としたヒエラルキーが存在した。そして上級になるほどボディサイズが大きくなっていた。プログレはこのヒエラルキーに属さない生粋のニューカマーだった。

コロナ級のボディサイズながら広い室内を創造

 プログレ・デビューの背景には、社会の成熟があった。大きなボディサイズは、周囲に対するインパクトという点で大きなアドバンテージを持っている。しかし外に対して立派さをアピールするのに抵抗を覚える層がしだいに増えていた。オーナー自身が深い満足を得られるのであれば、ボディサイズはむしろ小さいほうがいい。目立たないことに価値を感じる新たな層の誕生である。外に対する高級車ではなく、内面を磨きこんだ高級車を求めるユーザーはもはや少数派ではなかった。とくに熟年層や女性で、取り回し性に優れた小さな高級車を求める声が強まっていた。プログレは、コロナ・プレミオと同等のコンパクトなボディサイズに、クラウン・クラスの大排気量エンジンを搭載し、セルシオに匹敵する仕上げを施した新世代高級車だった。コンセプト的にはメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズに影響を受けており、すべてにわたる“本物志向”がそれを示していた。

 プログレのボディサイズは全長4500×全幅1700×全高1435mm。全長は5ナンバー規格上限の4700mmよりも200mmも短く、幅も5ナンバー規格の上限に収まっていた。狭い道でも持て余す心配のないボディサイズである。駆動システムは滑らかな走行フィールが得られる伝統的なFRレイアウトを採用する。コンパクトボディとFRレイアウトの組み合わせは、室内の広さという点では不利に働く。だが高級車を標榜するプログレにとって、狭く窮屈な室内空間はNGである。開発陣はホイールベースを2780mmと長く採り、前後のオーバーハングを切り詰めることで正統派サルーンに相応しい広い室内空間を実現した。プログレの室内寸法は長1950×幅1465×高1165mmとゆとりたっぷり。前席はもちろん、後席の広さも十分で、高級車らしく後席に大切なゲストを招くにも躊躇は必要なかった。贅を尽くした室内調度もプログレの自慢で、本革や本木目などの天然素材をふんだんに採用していた。

カーテンシールドエアバッグを世界初採用

 走りも高級だった。パワーユニットは排気量2997ccと2491ccの直列6気筒DOHC24Vで、2997ccが215ps/5800rpm、30.0kg・m/3800rpm、2491ccは200ps/6000rpm、25.5kg・m/4000rpmを発揮した。ともにパワーユニットは低・中速重視のゼッティングが施されており、スペック以上にパワフルな走りを披露した。快適性も超一級品。高速クルージング時でもセルシオ並みの静けさを誇った。メカニズム上のこだわりは安全性にも表れており、ABS、TRC(トラクションコントロール)、VSC(スタビリティコントロール)、ブレーキアシストを全車に標準装備し、上級グレードでは、世界初のカーテンシールドサイドエアバッグも採用していた。

 プログレは、従来のトヨタ・ラインアップにない独自のポジションを強調するため、あえてトヨタのブランドマークを装着していない。それだけ異色のモデルだったのだ。実際にドライブすると、開発コンセプトが納得できる新しさに溢れた高級車だった。ソフトな味付けの足回りによりスポーティな味わいは希薄だったが、クルマ全体にクラウン以上の精緻な印象があり、ミニ・セルシオという形容が最適だった。コンセプトが斬新だっただけに、販売成績面では大きな成功は得られなかったが、プログレで得た小さな高級車づくりのノウハウは、現在のレクサス・ブランドにしっかりと継承されている。