クルー・サルーン 【1993~2003】

機能を追求したオーナードライバー向けFR4ドア

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タクシー用に開発された機能重視のプロツール

 開発コンセプトが明快なクルマは成功作が多い。クルー・サルーンはその1台である。クルー・サルーンは、タクシー用に開発されたクルーのオーナードライバー向けモデルだ。クルーはタクシーに求められる、広く快適な室内、信頼性の高いメカニズム、そして優れた取り回しという3要素を追求した、いわば“プロツール”だった。

絞り込みのほとんどないサイドウィンドー回りとたっぷりとしたルーフ高がもたらす広々とした室内は印象的なほど。左側のリアドア幅を右側より50mmほどワイドにしていたこともあって、乗降性を含め後席の居心地は格別なものがあった。オーソドックスなFRレイアウトにこだわり、リアサスペンションにあえてリジッドの5リンク式を採用したメカニズムも魅力的だった。目新しさこそ薄かったが熟成されたものだけが持つ深い味わいがあったのだ。それでいてボディサイズは意外なほどコンパクトにまとめていた。スリーサイズは4595×1695×1460mmと余裕で5ナンバーサイズに収まるレベル。ほぼ同等の室内空間を持つセドリック&グロリア・セダンの4690×1695×1425mmと比べひと回り小さく、しかも最小回転半径は5mと1.5リッター車並みの小回り性を持っていた。適度なボディサイズのなかで上級セダンを凌ぐほどの豊かな室内空間と、FRレイアウトならではの滑らかな走り、そして狭い道に迷い込んでも安心な取り回し性を持つクルーは貴重な存在だった。

時代が求めた質実剛健サルーンの発展

 1993年7月にタクシーなどの営業車としてデビューしたクルーは高い人気を集めタクシーの定番モデルとなる。クルーの人気を支えたのは、言うまでもなく機能を重視した質実剛健なクルマ作りだった。この質実剛健さは先進さ、豪華さを求めるなかで、多くのクルマがいつしか失ってしまったものと言えた。時代はバブル景気が弾け、実質機能を求める傾向が強まっていた。街を颯爽と走るタクシーのクルーの姿を見て、一般ユーザーからもクルーを求める声が上がったのは当然の流れだった。

 日産自動車は、1994年1月にクルーのオーナードライバー向けモデル、クルー・サルーンを市場に投入する。クルー・サルーンはクルー本来のキャラクターを大切にしながら、走りの余裕をプラスしたモデルだった。

滑らかな6気筒エンジンでスポーティな走りを実現

 最も大きな進化ポイントはパワーユニットで、タクシー用クルーがLPG仕様と、4気筒ディーゼルの経済性を重視したパワーユニットを搭載していたのに対し、排気量1998ccの直列6気筒OHCのRB20E型を採用していた。RB20E型は直列6気筒ユニットのベースエンジンとはいえ、静粛性&滑らかさは一級品で、130ps/5600rpm、17.0kg・m/4400rpmとパワフルだった。クルー・サルーンは合理的な設計によって車重が比較的軽かったこともあり走りは意外なほどスポーティな印象があり、とくに5速MT仕様は腕に覚えのあるドライバーにとって魅力的な存在だった。

 クルー・サルーンは1994年5月には経済性に優れた直列6気筒のRD28型ディーゼル(94ps)をラインアップに加え、1995年2月には運転席エアバッグを標準装備化、1999年8月になるとボディの衝撃吸収性を高めるなどのリファインを施し完成度を一段と高める。実質機能を重視するオーナードライバーの格好の相棒として、独自のマーケットを作り上げたのだ。質実剛健なクルマ作りは、かつて日産自動車のアイデンティティの根幹だった。クルー・サルーンが地味な存在ながら高い支持を集めたのは、ユーザーがクルー・サルーンの姿に古き佳き日産の姿を見たからかもしれない。