ガゼール 【1983,1984,1985,1986】
マニアを魅了したFRスペシャルティ
1983年8月、日産のスペシャルティカーであるガゼールが、兄弟車のシルビアと共にフルモデルチェンジされ、第2世代となった。
アジアやアフリカに生息する大型カモシカの仲間の名を持つガゼール(Gazelle )は、1979年3月にシルビアのバッジ・エンジニアリング車種としてデビューしている。
バッジ・エンジニアリングとは、基本的に同一の車種を、系列の異なる販売ディーラーで別名で販売する手法。1930年代以降のアメリカや1950年代以降の英国などで盛んに行われた。生産および販売コストの低減に効果があった。シルビア/ガゼールの場合は、シルビアはサニー店系、ガゼールは日産モーター店系で販売されていた。
ガゼールは、シルビアと全く同一のシャシーコンポーネンツを使い、ボディスタイルや搭載されるエンジンも基本的に共通するものとなっていた。
ベースとなったのは、FR時代のバイオレットやブルーバードで、機能的なスタイリング、走る楽しみを実現する先進的なメカニズム、エレクトロニクスを多用した装備の充実という、3つのポイントを開発テーマとしていた。トヨタのセリカやホンダのプレリュードなど、多くのライバル達が犇めく市場で、その存在感を際立たせるために、ガゼール(とシルビア)ではシャープな直線を基調としたスタイリングが採用された。
2代目は電気モーター駆動によるリトラクタブル・ヘッドライトが大きな特徴。ボディのバリエーションはノッチバッククーペと巨大なリアゲートを持つハッチバッククーペの2種。定員は5名。サイズは全長4430mm×全幅1660mm×全高1330mm、ホイールベース2425mmで5ナンバーサイズに収まっていた。
インテリアデザインも外観の直線基調をそのまま採り入れたもので、2スポークのステアリングを中心に、アナログ式メーターとデジタル式メーターをグレードによって使い分ける。シート形状はスポーツ走行に備えたバケット型で居住性に優れる。
ガゼールはスペシャルティカーだけに、先進装備をライバルに先駆けて採用していた。ドライブガイドもそのひとつ。ドライブの目的地とクルマの現在位置をインプットすると、地磁気を利用してクルマの位置を確認。目的地までの方向と距離をインパネ上の専用ディスプレーに表示した。
言うなれば簡易ナビゲーションである。詳細な地図表示こそなかったが、それでも不案内な場所に誘導してくれるシステムとして話題を集めた。機能装備としては上級グレードに採用したヘッドランプワイパーがあった。リトラクタブル式としては世界初で、悪天候時でも汚れを瞬時にぬぐうことが可能だった。
搭載されるエンジンは4種あり、いずれも直列4気筒で、排気量1809cc(SOHC、自然吸気型100ps/5600rpmおよび115ps/6000rpm、ターボ付き135ps/6000rpm)と1990cc(DOHC、ターボ付き190ps/6400rpm)を設定。上級版の2リッター系はスカイラインRSターボと共通したFJ20E・T型を搭載していた。トランスミッションは5速マニュアルと4速オーバードライブ付きオートマチックがあるが、オートマチックはDOHCエンジンを除いた車種に限って設定される。駆動方式はフロント縦置きエンジンによる後ろ2輪駆動。4輪駆動仕様の設定はない。
サスペンションは前がストラット/コイル・スプリングと一般的だが、後はエンジンやグレードによってセミトレーリングアーム/コイル・スプリングと4リンク・コイル・スプリングによる固定軸が使い分けられる。ブレーキも4輪ディスクと前・ディスク、後・ドラムの組み合わせを使い分けていた。
ガゼールの価格はエンジンや装備の違いにより、143万1千円から254万円までと幅広かった。セリカやプレリュードに対抗するスペシャルティカーということから、市場での人気はそれなりに高かった。しかし、1986年2月のマイナーチェンジでガゼールの名がシルビアに統合されて消えた。販売系列の複雑化により、バッジ・エンジニアリングの意味が薄くなったのが大きな理由だった。