イデオ(コンセプトカー) 【2001】
ヒトとクルマの新しい関係を提唱したネットビークル
2001年の東京モーターショーに出品されたイデオ(ideo)は、IT時代のヒトとクルマの関係、可能性を追求した意欲作だった。イデオは、クルマを単なる移動手段としてではなく、「情報によってヒトと街をつなげる新たなインターフェイス=ネットビークル」と捉えた点が斬新だった。
イデオにとって「街を走る」ことは「情報をブラウズする」こと。すなわち、イデオは閉ざされた車室内の環境と外の世界とつなぐメディアとして機能していた。街から発信される無数の情報を効率よくキャッチし、街とのコミュニケーションが楽しめるライブビークルに仕立てていたのである。メーカーでは「イデオでドライブすることは、バーチャルの世界をネットサーフィンする感覚で、実際の街が放つ情報の海をブラウジングすること」と説明し新しさを表現した。
具体的にイデオの新しさは、情報を伝達するインターフェイス=スーパーサラウンドスクリーンと豊富な情報量にあった。室内には通常のインスツルメントパネルに替わって、横1170×縦280mmの特大スクリーンが拡がっていた。そのスーパーサラウンドスクリーンにさまざまな情報を表示したのである。
通常の「シティ・ブラウジング」モードでは、インターネットのネットサーフィン感覚で街にあふれる情報を次々に表示。例えばエンターテインメント情報に設定しておくと、映画館が近づいたときに上映作品、混雑状況、上映時間、駐車場の空き状況などが文字とグラフィック情報で自動的に現れる仕掛けだった。しかもステアリングに設置されたコントローラーで気になる情報をマークしておき、停車時にあらためて詳しい情報にアクセスすることもできた。遠くの位置にある情報は弱く小さく、それが近づくにつれて強く大きくなるなど表示にはさまざまな工夫が施され、まさに情報の海を散歩しているかのようなライブ感覚が味わえたのも特徴だった。
「エンハンスド・ナビゲーション」モードも斬新だった。実際の景色を眺めるよりも、ナビゲーション画面を見た方が楽しくなるような、現実感を強調したシーンが展開したのである。スーパーサラウンドスクリーンの助手席側に大きなナビゲーション画面を映し出し、自車位置を真上から眺めた二次元的なビューのほか、地球の丸みを強調し、街並みをデフォルメした三次元のバードビュー、まるで自車を追尾するヘリコプターから撮影したようなビューを見ることができた。さらに助手席側パッセンジャーがナビゲーション画面から情報を検索し、ドライバーサイドに転送するという情報の新しい共有形態も生みだしていた。
スーパーサラウンドスクリーンは安全性の向上にも貢献した。「ドライブアシスト&パーキング」モードにするとクルマに装備されたCCDカメラ(合計14個)を駆使して周囲の情報を収集。交差点では左右の状況、駐車時にはプランビューを映し出し、クルマの周囲の様子をリアルタイムでドライバーに伝え安全走行をサポートしたのだ。周囲にヒトや障害物を検知すると警告表示を出して注意を促したのも嬉しい配慮だった。
マーチ並みの全長3600mmのコンパクトサイズながら、タイヤを四隅に配置することで抜群の安定感を表現した意欲的なスタイリングはもちろん、和風建築からヒントを得た格子天井のようなグラストップや、障子の奥にほのかに見える行灯の明かりをイメージしたウェルカムランプなど、繊細でモダンな和のセンスと、最新IT技術が癒合したイデオは提案性に富んだコンセプトカーだった。メカニズムの詳細は明らかにされなかったが、ヒトと街を繋ぐインターフェイスという考え方で多くの来場者を魅了したワクワクする未来車だった。