ステップワゴン 【1996,1997,1998,1999,2000,2001】

ファミリーカーの新基準を樹立した3列シートミニバン

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家族の幸せを追求したエポックカー

 ホンダは、数々の常識を覆すエポックモデルを世に送り出してきた。時計のように精密なDOHCエンジンを積んだSシリーズ、高性能で軽自動車を一新したN360、そしてコンパクトカーの新基準を樹立したシビック……。ホンダというメーカーの価値は、自由な発想でクルマを革新してきたことにある。1996年に市場に送りだしたステップワゴンは、ファミリーカーの基準を変えた1台だ。

 ステップワゴンはオデッセイ、CR-Vに続く“クリエイティブムーバー”の第3弾として登場した。クリエイティブムーバーとは、ユーザーの生活を革新し新たなライフスタイルを創造するクルマに対しホンダが名付けたネーミングだった。いささか大袈裟な名称だがステップワゴンには、そのネーミングに相応しい大きな可能性があった。

 ステップワゴンは、理想のファミリーカーを目指して開発されたクルマだった。従来ファミリーカーと言うと2列シートのセダンやハッチバックが一般的。ホンダで言うとアコードやシビックといったモデルを指した。確かにセダンやハッチバックは日常的な使い勝手に優れ、ユーザーのどんな使用用途にも無難に対応した。ファミリーカーとして過不足のない存在と言えた。

 しかし理想のファミリーカーかと問われると、いくつかの疑問符が付いた。たしかにそこそこの広さの室内空間はあるものの、例えば5人家族の場合、全員にとって快適な広さとはいえなかった。また稀なケースとは言え大きな荷物は積めなかった。そのユーティリティと、クルマがもたらす可能性は、購入前から予想がついた。要するに“このクルマを買うといままでと違う生活が始まる”というワクワク感に乏しかったのである。ステップワゴンは、なによりこの“ワクワク感”を大切にした。

斬新だった“乗る人誰もが主役”の発想

 従来のファミリーカーは、家族をテーマにしていても主役は前席に座るお父さんとお母さんだった。しかしステップワゴンは後席に座る子供たちも主役だった。開発コンセプトは「どこに座っても快適で楽しく、どこかに出掛けたくなるクルマ」。具体的には家のリビングルームのようにくつろげ、家族での会話が弾み、所有することで家族の行動半径が拡がるクルマ、ライフスタイルがアクティブに変化するクルマを目指した。

 開発陣が苦心して作ったのは“大きな箱”だった。ホンダには伝統的にマンマキシマム・メカミニマムという開発メソッドがあるが、文字通りステップワゴンはメカニズム系を最小限にまとめ、乗員のためのスペースを最大限に採っていた。スタイリングはまさに箱という印象のボクシーな1.5ボックス。5ナンバー枠に収めた全長4605×全幅1695×全高1830mmのボディのほとんどは室内スペースだった。しかもFFレイアウトのメリットを生かした低床フロア設計により室内高も1335mmと十分。大人でもちょっと首をすくめれば室内を自由に移動できるほどの余裕があった。

 箱のなかにゆったりと3列シートを配置し、リクライニングや2-3列シートの回転対座、そしてフルフラット機構などの多彩なアレンジを可能にすることで乗員の誰もが快適で、しかも楽しい室内に仕上げていた。従来の3列シートのワゴンは商業バンから派生したモデルが主流だった。しかしステップワゴンは発想そのものが違っていた。それだけに室内に無駄なスペースはなく、楽しげな印象に溢れていた。まさに家族のための部屋と呼べる空間が拡がっていたのだ。単に室内が広いだけでなく、シートそのものの座り心地やサポート性を追求し、長時間のドライブでも疲労を最小限に抑えていたことも画期的だった。それまでの3列シート車のシートは小ぶりなものが多く、意外に疲れたのだ。

家族との大切な時間を演出した逸材

 ステップワゴンは走りも一級品だった。エンジンは実用域のトルク特性を重視したB20B型の1972cc・DOHC16Vで、スペック的には125ps/5500rpm、18.5kg・m/4200rpmと平凡だったものの実はパワフルだった。約1.5トンの車重を感じさせない軽快なパフォーマンスを見せ、燃費も良好だった。しかもフロントがストラット式、リアがウィッシュボーン式の足回りはしなやかで乗り心地も抜群だった。

 ステップワゴンのキャッチコピーは「こどもといっしょにどこいこう。」まさにそう思わせる理想的なファミリーカーだった。ステップワゴンは、文字通り動くリビングルーム。乗り込むだけで家族との大切な時間が共有でき、どこかに出掛けたくなるクルマだった。とはいえステップワゴンには特別な技術はどこにも使われていない。革新的なファミリーカーとしたのは開発陣の自由な発想、なによりホンダスタッフの家族への愛情が奇跡を起こしたのだ。

ネーミングは1970年代の名車に由来

 ステップワゴンのネーミングにはルーツがあった。1972年9月に登場したステップバンである。ステップバンは当時のライフをベースにしたマルチユースフルな軽商用車で。FFレイアウトの乗用車のコンポーネンツを利用して作られた日本初のマルチユースモデルだった。

 特徴的な1.5ボックスのボディは緻密なパッケージングにより広い室内空間を誇った。新車当時はさほど注目されなかったが、生産終了後にその魅力が再発見され、RVとして高い人気を博した個性派である。アメリカ西海岸で流行していたバンをドレスUPしてRVとして楽しむ“バニング”の、日本での格好の素材がステップバンとなったのだ。ステップバンは多様な可能性を持った自由なクルマだった。新世代のファミリーカーを目指したステップワゴンがネーミングのルーツとしたのは、その自由な空気がオーバーラップしたからに違いない。