NⅢ360 【1970,1971】

静粛性と快適性を身に付けた熟成のエヌ

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1970年、第三世代モデル登場!

 1966年の東京モーターショーでデビューを飾り、軽自動車シーンを根底から変えたホンダN360シリーズの最終発展型が1970年1月に登場したNⅢ360である。NⅢ360というネーミングは、1966年10月デビューの初期型、1969年1月登場の進化版であるNⅡ(NⅡの正式ネーミングは初期型と共通のN360)に続く第三世代のN360であることを示している。

 NⅢは、持ち前の走りの良さと合理的なパッケージングによる広い室内というN360の美点をそのままに、欠点だった騒音を徹底的に抑え込んだのが特徴だった。スタイリングは、新造形フロントマスクが目をひく。しかしキャビンやリア回りは基本的にNⅡモデルと共通。2995×1295×1340mmのボディサイズにも変更はなかった。走行安定性の向上を目指してリアのトレッドのみ5mmワイド化され1110mmとなっている。

上級車と同等の静粛性を実現

 静粛性の改善は新開発の遮音・吸音材を多用することで実現していた。すでにNⅡ時代にエンジンマウントやボディ剛性の見直しが図られ、初期型とは比較にならないほど快適になっていた。NⅢはそのレベルを一段と引き上げた。加速時こそ364ccの空冷2気筒ユニットを目一杯回さなければならないため騒々しかったが、クルージング状態になると静かさはサニーやカローラと遜色なかったという。新開発トランスミッションも静粛性にプラスをもたらした。NⅢは4段フルシンクロメッシュ機構付きを組み合わせていた。NⅡまでのモーターサイクル流のドグクラッチ方式コンスタントメッシュ機構ミッションと比較しギアノイズが大幅に低くなっていたのだ。さらに新開発ミッションはシフトフィール&操作性ともに大幅にリファインしていた。静粛性面だけでなく、運転のしやすさもNⅢの大きなセールスポイントだった。

 シングルキャブレター仕様で31ps/8500rpm、3.0kg・m/5500rpm。CV型ツインキャブレター仕様で36ps/9000rpm、3.2kg・m/7000rpmを発揮する4ストローク空冷2気筒ユニットのスペックはNⅡ時代と共通。ただし数字上は同一ながらトルクのフラット化が図られドライバビリティは一段と向上していた。ちなみにツインキャブ仕様は、1.5万円のエキストラコストを払えばスタンダードから最上級のカスタムまで、全グレードで選ぶことができた。ユーザーの使い方に応じてエンジンを自由に選べたのは先進的といえた。トップスピードは31ps仕様が115km/h、36ps仕様は120km/h。指定燃料はツインキャブの36ps仕様でもレギュラーだった。

マイルド指向の“タウン”が示した変身

 フロントがストラット式、リアがリーフリジッド式の足回りもNⅢは一段と安定性を増していた。フロントのコイルばねを不等ピッチのプログレッシブタイプとすることで通常時はソフトな感触を、高速時にはしっかりとした安定性を得られるように調律し、後輪のリーフスプリングの設定やマウントブッシュも見直しを図ったのだ。初期型のN360は“4名乗りのモーターサイクル”と評されるほどダイレクトだが、いささか落ち着きに欠ける挙動を示した。しかしNⅢは軽自動車クラスのなかでもっともしっかりとした印象の足回りになっていた。

 1970年9月になるとNⅢ360のキャラクターを一段と鮮明にした新シリーズが加わる。市街地での使い勝手に徹底的にこだわったタウンである。タウンは低速性能を重視した27ps/7000rpmの専用エンジンを搭載し、快適性を重視したベンチシートや新造形のインスツルメントパネルを採用した新感覚モデルだった。一段としなやかな乗り心地を実現するためフロントのサスペンションは、コイルばねをソフトな設定にすると同時にテンションロッド換えてトーショナル・スタビライザーを組み込んでいた。ちなみにトップスピードは105km/h。街乗り車としての魅力を磨き込んだタウン・シリーズは、ホンダの変身を予感させるモデルだった。

ミニより上質な駆動系。室内の空間利用はミニに軍配

 ところで、限られた寸法のなかで広い室内空間を実現したFF2ボックス・ベーシックカーとしてNⅢを含めたN360シリーズと英国のミニは似た印象がある。両車を比較すると駆動系の作りはN360系がやや上質。N360系はインナーアウターともに等速ジョイント(インナーがバーフィールド型/アウターはダブルフック型)を採用したのに対し、ミニはアウターだけが等速ジョイント(ダブルフック型)で、インナーはラバー緩衝式のクロスジョイントで済ませている。

 ただし室内の広さはミニが上。N360系はミニと比較して全長で55mm、ホイールベースでは40mm短いだけ。ただし室内の有効スペースは数字以上にミニが広い。ミニは大人4名が無理なくくつろげるが、N360シリーズでは窮屈。とはいえN360シリーズの1590mmの室内長は、当時の軽自動車のなかで最も広いものだった。