アルシオーネSVX 【1991,1992,1993,1994,1995,1996】

イタリアンフォルムの上級4WDクーペ

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プロトタイプが1989年モーターショーに登場

 「最高」を意味するXの文字を採り入れ、スバル製のクルマであることを示すSV(Subaru Vehicle)と組み合わせて車名としたアルシオーネSVXが、本格的なグランツーリスモのコンセプトモデルとして最初に登場したのは、1989年の第28回東京モーターショーであった。

 当時のスバルレンジの量産車とは全く関係ない、純粋なショーモデルではあったが、各部分の造り込みや現実的なデザインなどから、アルシオーネの後継モデルとなるであろうことは誰の目にも明らかであった。SVXは、モーターショーから2年が経過した1991年9月になって、スバル・アルシオーネSVXとして発売される。

デザインは巨匠G・ジウジアーロが担当

 1989年にモーターショーで展示された時から、スタイリングはイタリアン・カロッツェリアの巨匠であるジョルジェット・ジウジアーロによるものだった。車体寸法などに一切の制限を付けずに完成された先進のクーペスタイリングは、いかにもジウジアーロらしい高い完成度を持っていた。観る者の意表を突いたスタイルであったが、ロングノーズ&ショートデッキのスタイリングの中に5人乗りを可能とするなどパッケージングは緻密で、2ドアクーペとして極めて完成度の高いものであった。先代のアルシオーネが、まるで折紙細工のように直線とシャープなエッジを持ったものであったのに比べ、新型のアルシオーネSVXでは曲面豊かなボリューム感溢れるものとなっていた。

 ボディ外板の素材は亜鉛メッキ鋼板であり、プレスによる量産を前提にしていたわけだが、スバルの量産技術の進歩はこうした微妙な曲面までも実現可能としていた。スタイリング上の大きな特徴は、全体のかたまり感を強調するために、サイドウインドーをルーフ部分にまで回り込ませた曲率の大きなガラスが使われたことで、後部ウインドウも含めて、その全体をドア内部に収納することができず、苦肉の策として曲率の小さな一部が開閉出来るようにしていた。スバルではこれを「ミッドフレーム・ウインドウ」と呼んでいた。薄いルーフと共に、開放感に溢れた室内を実現するための工夫だった。スタイリングは空力特性に優れていた。低いノーズとハイデッキ処理のリアエンドの効果もあり、空気抵抗係数はCd=0.29といわれた。量産型としては十分に優れた値である。

斬新キャノピーキャビンにガラスメーカーが苦心

 アルシオーネSVXの重要なデザイン要素であるガラスで構成するキャノピーキャビンは生産化にあたって大きなネックになった。フロントガラスの傾斜角度が24.5度もあり、サイドウインドーも複雑な3次元曲面になっているからだ。スバルの担当者がガラスメーカーに相談するとSVX用に新たに製造設備を作らなくては実現不可能として、二の足を踏むメーカーばかりだったという。その中で積極的に協力体制を構築してくれたのが日本板硝子。

 同社の京都工場に専用の生産設備を作りSVXのキャノピーキャビンを製作した。日本板硝子はガラスを型の上で圧力をかけて曲げる特殊なプレス工法を開発したのである(通常のクルマ用ガラスは熱を加えて軟化させたガラスを枠に置き、ガラス自体の重さで所定の曲率に曲げる重力式)。またサイドのガラス開口部のサイズは、アクシデント時に大柄なパッセンジャーでも脱出できる大きさに設定している。開発にあたって実際に脱出試験を繰り返しサイズを決定したという。

シートは本革とエクセーヌの2種

 アルシオーネSVXはインテリア表現も新しかった。市販モデルはモーターショーに展示されたプロトタイプとは違い、大分現実的なものとされていたが、この種の高性能GTに相応しい華やかさを持っていた。運転席正面のメーターナセルから中央のコンソールまでが一体化した造形やオーディオのカバーなどSVX独自のデザインをいくつも指摘することができた。

 シートと内装は本革張りとエクセーヌ(ファブリック)張りの2種、ルーフの上側に移動するサンルーフはオプション設定とされた。ちょっぴり残念だったのはデザイン自体はいいが細部の樹脂パーツの質感がそれほど高くなかったこと。当時のスバルはまだSVXのような高級スポーツモデルを作り慣れていなかったのだ。

新開発フラット6+4WDの融合

 搭載されるエンジンは、輸出向け(主にアメリカで売られた)のレガシィに搭載されていた水平対向4気筒SOHC、排気量2200ccに2気筒を加えて水平対向6気筒とし、シリンダーヘッドをDOHC及び4バルブ化して24バルブとした新開発ユニット。排気量は3318ccとなり、最高出力は240ps/6000rpm、最大トルクは31.5kg・m/4800rpm。駆動方式は電子制御のアクティブ・トルクスプリット式4輪駆動システムを持つフルタイム4輪駆動方式。トランスミッションは電子制御4速オートマチックでマニュアル仕様の設定はない。

 サスペンションは前後ストラット式の独立懸架で、ブレーキはサーボ機構付き4輪ベンチレーテッドディスクで4チャンネル4センサーを持つABSが組み込まれる。タイヤは225/50R16サイズと当時としては大径サイズのものが標準装備されていた。車重は4WDシステムの装備などで重くなり1620kgもあった。それでもリミッターを解除すると最高速度は200km/hを優に超えたというから、グランツーリスモ(GT)としては十分以上である。

 価格は標準仕様というべきバージョンEが333万3千円、本革張りの内装とシートを持つ高級仕様のバージョンLが399万5千円となっていた。国産車の中では、日産フェアレディ300ZXの345万円、トヨタのスープラ2500GTツインターボの379万6千円、マツダ・サバンナGTリミテッドの323万円というところが性能面でも直接のライバルとなっていた。

アメリカ市場に先行デビューした国際派

 イタリアン・カロッツェリアの雄ジョルジェット・ジウジアーロによる魅力的なスタイリング、スバル伝統の水平対向エンジンの最高峰となる3.3リッター6気筒DOHC、電子制御トルクスプリット型フルタイム4WDシステム、完璧な快適装備、国産車としてはトップレベルの高性能、そして内容からすれば十分にリーズナブルな価格……。

 アルシオーネSVXは、当然高い人気を獲得するはずであった。しかしながら、日本のバブル景気は去り、新しく登場した高級GTが売れるマーケットは失われてしまっていた。欧米でも景気の動向は日本と同様だった。出遅れたSVXは、その先進性と高性能を讃えられながらも遂に市場に独自のポジションを確立することができないまま、1996年12月に生産が中止された。
 全生産台数は輸出向けを含めて2万3750台と伝えられる。デビューするのが遅すぎたメジャーリーガーというところであった。