アルシオーネVX 【1987,1988,1989,1990,1991】

航空機作りの伝統が息づく前衛4WDクーペ

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スバル初のボクサー6エンジン搭載

 1987年7月に登場した初代アルシオーネの上級グレード、VXはスバルの高度な技術力とクルマ作り哲学を象徴するフラッグシップだった。スバルの前身は、名戦闘機「隼」などを生み出した中島飛行機である。飛行機作りには、最良のメカニズムと高い信頼性、そして無駄を削った高度な合理性が不可欠になる。アルシオーネVXは、飛行機作りの思想が投影された意欲作だった。

 アルシオーネVXの独自性は、パワーユニットと駆動システムが象徴していた。ボンネット下に潜むのは、スバル初のボクサー6エンジンER27型。クランクシャフトを中心に左右のピストンを180度の角度で対向させた伝統の方式と、エンジンの振動特性に優れた6気筒レイアウトを組み合わせた新開発ユニットである。軽量なオールアルミ製で、幅広い領域でスムーズかつ力強い加速を生み出すフラットなトルク特性、アクセルに敏感に反応する高感度レスポンス、そしてウルトラスムーズな回転フィールを目指していた。燃料供給装置は気筒ごとにインジェクターを配置した電子制御インジェクション。排気量は2672cc。注目のパワースペックは、150ps/5200rpm、21.5kg・m/4000rpmである。

 ボクサー6エンジンというとドイツの高級スポーツカー、ポルシェ911を想起するが、アルシオーネVX用ボクサー6はポルシェ911用に負けない力作だった。単にパワフルなだけでなく、アクセルの踏み込みに応じて様々に表情を変え、まるでドライバーに語りかけるような独特のフィーリングを持っていた。

世界初トルクスプリット式4WDの先進性

 駆動システムも最先端だった。エンジンパワーを路面に伝えるのは、ACT-4とネーミングされた量産車世界初の電子制御アクティブトルクスプリット式4WD方式。ACT-4はトランスミッション(4速AT)の後部に配置したMP-T(マルチプレート・トランスファー)の油圧をパルス制御することによって、走行状況や路面の変化、そしてアクセル開度に応じて最適な前後トルク配分をコンピューターがアクティブにコントロール。つねに理想的な走りを約束するシステムである。

スバルは乗用4WDを実用化したパイオニアだった。4WDの利点について当初こそ悪路や雪道などの優れた走破性と認識されていたが、アルシオーネVXが登場する1987年当時は、ハイパワーモデルに卓越のスタビリティを与えるメカニズムとして注目されていた。世界中の自動車メーカーがスポーツモデルへの4WD導入を模索していたのだ。その中でスバルはスポーツ4WDシステムの模範回答としてライバルに先駆けてACT-4を生み出した。ACT-4は車速とスロットル開度による基本駆動力制御をベースに、発進時制御、コーナリング制御、スリップ制御、1速ホールド制御、ABS作動時制御など、さまざまな制御を組み合わせ、高度なスタビリティと安全な走りを実現する。

Cd値0.29。世界最先端のエアロフォルム

 アルシオーネVXは、スタイリングにも主張があった。2+2クーペ・フォルムは、空気抵抗の低減を徹底的に追求していた。エアロフォルムは、飛行機作りにおいては必須条件のひとつである。空気抵抗が低ければ、同一のパワーでも優れたパフォーマンスを生み出せ、さらに造形に工夫を凝らせば高速走行時のスタビリティも向上する。アルシオーネVXはボディの基本フォルムはもちろん、ドアミラーやフラップ式ドアハンドル、アンダーフロア形状にいたるまで空力特性を吟味。Cd値は世界トップ級の0.29をマークした。ライバルを確実にリードするエアロフォルムの持ち主だった。

 アルシオーネVXは室内造形も前衛的だった。ステアリングコラム周囲にライト/ワイパー/空調などの主要スイッチを配置し、ステアリングを握ったままでコントロール出来るように工夫していた。アルシオーネVXほど、メカニズムはもちろん、スタイリングからインテリアまで、技術者のこだわりを感じるクルマはなかった。販売成績という面では少数派にとどまったが、スバルのアイデンティティをアピールするショーケースとして、大きな意味を持った逸材だった。隠れた名車である。