レックス・ワゴン 【1974,1975,1976】

まじめ設計のミニマムユーティリティ

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


伝統のRRレイアウトを持つミニワゴン

 1972年7月にスバルR-2の後継車として登場したレックスは、1973年3月に4ドアモデルを追加、同年10月にはエンジンを新開発4サイクルユニットに換装するなど積極的なリファインでユーザー層を拡大する。ワゴンは1974年2月のマイナーチェンジ時に商業車のバンとともにラインアップに加わったニューカマーだった。

 レックスはスバル360、R-2から引き続いてSUBARU伝統のリアエンジン・リアドライブ(RR)を採用していた。大人4名がゆったり乗れる優れたパッケージングの持ち主だったが、フロントエンジン形式のライバルと比較してラゲッジスペース面で弱点があった。狭いながらもフロントにトランクスペースを設けていたものの、それ以外にまとまった荷物を積むスペースがなかったのだ。正確に言うと、後席後方にも荷物を積めるスペースはあったのだが、リアゲートがなかったため活用するのが難しかった。荷物の出し入れをキャビン側から行わなくてはならなかったからである。

 新たに加わったワゴンは、新設計のリアゲートと折り畳み自在の後席によってユーティリティに磨きを掛けた新顔だった。スバル360時代にもリアゲートを持つカスタムが設定されていたが、そのレックス版がワゴンだった。

ラゲッジスペースはミニマム!?

 ワゴンを名乗るものの基本のボディ形状はベースとなったレックス2ドアと共通で、リアゲートだけがワゴンの個性だった。ワゴンはリアゲートに厚みを持たせ、実質的な荷室スペースを稼ぎ出していた。リアゲートのヒンジ部が外側に露出するなど、リアゲート回りのデザイン処理には後付感があったが、それも実質機能を重視するSUBARUらしかった。

 ラゲッジスペースの広さはミニマムだった。後席を倒した状態でも長さ1100×幅1100mmで、しかもリアにエンジンを搭載していたため、床面も高めだった。しかし邪魔なホイールハウスの出っ張りがなかったためフルに使えるスペースと言えた。長尺物の積み込みは無理だったが、週末の買い物や、ちょっとしたビジネスには十分な荷室だったのだ。しかもフロントのトランクも健在だったから、荷物によっての積み分けも自在だった。レックス・ワゴンはユーザーのアイデアしだいでなかなか使い勝手のいいクルマだったのである。

 ワゴンはモノグレードで、装備内容はセダンの上級グレード、スーパーLとほぼ同等だった。熱線吸収ブルーガラス、リアウィンドーデフォッガー、リクライニング機能付きハイバックシート、3ウェイベンチレーター、ブレーキモニター、ラジオなど豊富なアクセサリーを標準装備していた。

エンジンは低中速トルクを重視

 エンジンは排気量358ccの水冷2気筒4サイクルで、28ps.7500rpm、3.1kg・m//5700rpmを発揮した。31ps/8000rpm、3.0kg・m/6500rpmを発揮する他のセダン用とは異なる中低速トルクを重視した専用ユニットで、このエンジンは商業車のバンと共通だった。トランスミッションは4速マニュアルのみでオートマチックは設定されていなかった。

レックス・ワゴンの走りは550kgの車重に対して28psだから、目覚ましくはなかった。とはいえエンジンの吹き上がりがスムーズだったこともあり各ギアで目一杯回すと交通の流れをリードすることは可能だった。前後ともセミトレーリングアーム式のサスペンションはソフトな乗り心地が楽しめたし、燃費も29km/L(60km/h定地テスト)と優れていたから、気の置けない相棒としてぴったりの存在だった。派手さはないが、生活にぴったり寄り添い頼りになるパートナーだったのだ。

 イタリアの片田舎で見かける往年のフィアット500が風景の一部として溶け込んでいるように、レックス・ワゴンも使い込むほどに味を増し、風景の一部となった。それはSUBARUの良心が結実した、まじめさがストレートに表現されていたからだった。

「ちびコロジー」思想、それは現在にも通じるスマートな考え

 レックス・ワゴンが登場した1974年当時、SUBARUはSafty(安全への努力)/Space(空間の共存)/Smooth(スムーズな生活)/Saving(資源の節約)の4つの“S”を柱にした「ちびコロジー」思想を提唱していた。軽自動車作りの豊富な経験と実績を生かした、小さいことに価値を求める考え方である。

 レックス・ワゴンも1.3m×3mの空間にすっぽりと収まるミニサイズのなかで、なかみを充実させ、クルマ本来の扱いやすさ、便利さ、楽しさはもちろん、安全性や経済性にも磨きを掛けていた。いたずらな大型化や華美に走らず、技術とアイデアで生活を彩るコンパクトカーを作る思想は、21世紀の現在にも通用する考え方といえる。技術者集団のSUBARUは先進的な考えの持ち主だったのである。