キューブ 【2002,2003,2004,2005,2006,2007,2008】
“マジカルボックス”を標榜した2代目ハイトワゴン
バブル景気の崩壊からの立ち直りが遅れ、経営状態が逼迫していた1990年代後半の日産自動車。その最中の1998年2月に市場デビューを果たした小型ハイトワゴンのZ10型系キューブは、シンプルでボクシーなスタイルや使い勝手のいい室内空間が好評を博し、好調な販売成績を記録していた。
次世代型のキューブを企画するに当たり、開発陣は初代モデル以上に広くて快適なキャビンスペースの創出を目指す。商品コンセプトには、「コンパクトな外観からは想像できない広い室内空間と充実した収納装備を持ち、自分の道具として自由に使えるハコ」という意味を込めて“マジカルボックス”と掲げた。また、ルノーとの提携関係の構築(1999年)以後に打ち出していた内外装デザインを重視する方針も、開発に目いっぱい組み込まれた。
スタイリングは“NEW CUBIC DESIGN”の創造を狙いに、“アッと驚く個性的なデザイン”“使って楽しい機能的なデザイン”“クルマらしく愛着のわくデザイン”の表現を目指す。フォルム全体はカドを丸めたシカクを基本とし、その中に左右非対称のグラスエリアや親しみのあるフロントマスク、力強さを感じさせる前後フェンダーなどを組み込んで個性を主張する。パッケージングは従来比−20mmのコンパクトなボディ長を実現した上で、ホイールベースの延長(同+70mm)や前後オーバーハングの短縮を図り、最小回転半径4.4mの運転しやすいボディを実現した。
インテリアは、「ゆったりとしたソファに座り、お気に入りの家具やオーディオに囲まれながら、自分の部屋でくつろいでいるような感覚」を採り入れる。前後シートはクッションに厚みを持たせた上で肩までをサポートする形状を採用することで、座り心地の良さとホールド性を両立。同時に、前後ともに大型の格納式アームレストを内蔵して居住性を向上させた。また、運転席には40mmのラチェット式シートリフターを、後席には220mmのスライド機構を装備し、幅広い体格の乗員に対応させる。空間自体は、ロング&ワイドルーフの採用により開放感のあるヘッドルームを実現。さらに、使い勝手のいいラゲッジや多彩な収納スペースも用意した。
搭載エンジンは低燃費/低排出ガス/高出力&高トルク/低騒音/軽量コンパクトなどを高次元でバランスさせたCR14DE型1386cc直4DOHC16V(98ps/14.0kg・m)を採用する。組み合わせるミッションは、エクストロニックCVT-M6と電子制御4速AT(E-ATx)を設定。CVTはステアリングスイッチにより親指1本でシフトアップ&ダウンが行え、またコラムシフト先端にスポーツモードスイッチも追加した。
駆動機構はFFのほか、“e・4WD”をラインアップする。e・4WDはFFをベースに後輪をモーターで駆動する新機構で、基本システムは駆動を制御する“4WDコントロールユニット”にモーター/クラッチ/変速ギアからなる後輪駆動ユニット、モーター駆動用の電源を供給するジェネレーターで構成。前輪がスリップすると4WDコントロールユニットがジェネレーターに発電を指示し、その電力が車体後部に設置されたモーターを回して後輪に伝わる仕組みだ。FF/4WDの切り替えは、室内に設定したスイッチで操作。通常走行時には後輪駆動ユニットのクラッチを切り離すことでFFとし、経済的な走行を可能とした。また、e・4WDはプロペラシャフトやトランスファーが不要なため、室内空間を犠牲にすることなく4WD化が実現でき、さらに軽量化による燃費の向上にも貢献する。サスペンションに関しては、フロントに防振インシュレーター付きサブフレームを組み込んだストラット式を、リアに新設計のH型トーションビーム式を採用した。
2代目となるキューブは、Z11の型式を付けて2002年10月に発売される。キャッチフレーズは、広くて自由に使えるキャビンを強調して“Cube My room”と冠した。グレード展開は、上位からEX/SX/BX(FFのみ)を設定。ボディカラーは全8色、インテリアカラーはエクリュ(シート地スウェード調トリコット)/モカ(同ジャージ)/グラファイト(同ジャージ)の3タイプを用意し、計24通りのカラーバリエーションの中から好みの仕様を選択することができた。
市場に放たれた2代目キューブは、左右非対称のオリジナリティあふれるスタイルや外観から想像するよりも広くて使いやすい室内空間、そしてオシャレな内外装のカラーリングなどが好評を博し、販売台数を大いに伸ばしていく。発売月には月間販売目標の7000台を超える9141台を記録。翌11月には、ホンダ・フィットとトヨタ・カローラに続く第3位の1万1522台に達した。
2代目キューブの市場での高い人気を維持しようと、開発陣はデビュー後も様々な改良や車種ラインアップの増強を実施する。
注目を集めたものを見ていこう。2003年9月にはボディ長およびホイールベースの延長などを行って3列式シート仕様とした「キューブ・キュービック(cube3)」を発売。3900mmのコンパクトな全長ながら7名の乗車定員を確保した使い勝手のいいモデルとして、ファミリー層から人気を集めた。2003年12月になると、オーテックジャパンが手がけた特別仕様車のキューブ/キューブ・キュービック「トラビス」がデビュー。“週末の行動範囲をさらに広げるトレッキング・ボックス”をコンセプトとしたSUVテイストあふれる内外装の演出が脚光を浴びる。2004年5月には、英国系ブランドのCONRAN(コンラン)グループとコラボレートしたキューブ/キューブ・キュービック「+CONRAN」を発売。また、同年8月には専用フロントバンパー&グリルや専用サイドシルプロテクター、専用カーボンブラック内装などを装備したキューブ/キューブ・キュービック「Agiactive」(アジャクティブ)をリリースした。
2005年5月になると、シリーズ全体のマイナーチェンジが実施される。最大の注目点はHR15DE型1498cc直4DOHC16Vエンジン(109ps/15.1kg・m)搭載車を追加したことで、これによりキューブ/キューブ・キュービックの走りの余裕がアップした。2006年6月には再びキューブ「+CONRAN」を期間限定で発売。2007年1月には内外装の一部変更などを行い、また同年6月には特別仕様車のキューブ「KAGAYAKI Edition(カガヤキ エディション)」を発売した。
綿密な改良や多様なバリエーション展開でユーザーからの注目を浴び続けた2代目キューブ。その一目で分かる個性的なスタイルやリラックス感あふれるインテリアの世界観は、2008年11月に登場する3代目のZ12型系にも鋭意、継承されていったのである。