クラウン 【1983,1984,1985,1986,1987】
“いつかは”と憧れを持たせた高級サルーンの代表
1983年8月に登場した7代目のクラウンは「世界最高級のプレステージサルーン」をテーマに開発されていた。伝統の快適性を徹底的に磨き上げると同時に、先進の電子制御技術を積極的に盛り込み新たな走りを目指したのである。ちなみにこの7代目から2ドアHTがラインアップから外れ、パーソナルユースは4ドアHTが一手に引き受ける体制となった。
クラウンの2ヶ月前にモデルチェンジしたライバルのセドリック&グロリア(Y30系)が、新開発V6エンジンとターボ攻勢で新高級車像を提案したのに対し、7代目クラウンは熟成の味わいでユーザーを魅了する。エクステリアはもちろん、インテリアやメカニズムまですべてがクラウン流、しかしすべてをレベルアップすることで魅力を鮮明にした。
最もクラウンらしかったのはシャシー回りだ。静粛性を重視するクラウンは初代以来、伝統的なフレーム構造を継承していた。7代目もそれは同様だった。しかし上級モデルのサスペンションを4輪独立システムにグレードアップし走りを一新する。フロントがダブルウィッシュボーン式、リアがセミトレーリングアーム式の先進サスペンションである。まさに伝統と革新の融合。ちなみにフレーム方式と4輪独立サスペンションの組み合わせはクラウンが世界初だった。
パワーユニットもクラウン流だった。スムーズさを求め直列6気筒を主流に据えていたのである。しかも一部グレードにターボを設定したもののメインはあくまで自然吸気。ハイパワーを求める手法としてはDOHCメカニズムと先進の電子制御システムを採用していた。V6ターボの豪放パワーをセールスポイントにしていたライバルのセドリック&グロリアに対し、クラウンはあくまでシルキースムーズな直列6気筒にこだわったのだ。最強エンジンはソアラなどにも搭載され高い評価を得ていた排気量2759ccの5M-GEU型・直6DOHC12V(175ps/24.5kg・m)。7代目ではこれに加え1988ccの1G-GEU型・直6DOHC24V(160ps/18.5kg・m)を新設定し走りを刷新した。もちろんDOHCユニットだけでなく中心となる1988ccの1G-EU型・直6OHC12V(125ps/17.5kg・m)も、吸気管圧力を検出して燃料噴射量を制御するEFI-Dシステムを採用することでドライバビリティを磨き上げた。
スタイリングはオーソドックスな3ボックス形状ながら、4ドアHT、セダンともにCピラーをクリスタル風のカバーで覆うことでグラッシーな雰囲気を演出した。フォーマルさを失わない範囲で、適度にお洒落感覚を訴求するデザイン手法は見事だった。とくにサッシュレスドアを持つ4ドアHTのすっきりとした印象はユーザーの高い共感を生んだ。
インスツルメントパネルは4ドアHTとセダンがそれぞれ別形状となり個性を主張する。ともに快適なクルージングを支えるアイテムに先進技術を傾注したのが特徴で、上級車種に標準装備となるオートエアコンは世界初の10気筒可変容量コンプレッサーを採用したマイコン制御タイプ。優れた空調性能を実現したうえで駆動馬力の低減(夏期平均で約6%)を実現していた。上級モデルに標準となる前席パワーシートもマイコン制御となり4名分のシート位置を記憶させることが可能だった。
オーディオシステムは一部グレードにボタン操作だけで各シートポジションに最適な音場を造り上げるロイヤルサウンド・システムを装備。この他にもマイコンがクルマを目的地まで誘導するドライブコンピューターや、センサーにより後続車のライトの明るさを検知し室内ミラーを自動的に切り替えるオート防眩ミラー、オートクルーズ機構など装備はまさに盛りだくさん。 “いつかはクラウン”と皆が憧れるに相応しい完成度を誇った。
7代目クラウンの5M-GEU型エンジン搭載車は、ツインカムエンジンとオートマチックトランスミッションを、ひとつのコンピューターで一体制御するTCCS(TOYOTA COMPUTER CONTROLLED SYSTEM)を採用していた。日本初の先進システムである。エンジンとトランスミッション相互のコミュニケーション制御により、ドライバビリティの向上を図ったのだ。
具体的には、アクセルの開度&吸入空気量&車速などからもたらされる情報を基に、ステップモーターを使用したアイドル回転数の制御&精密な燃料の供給&最適な点火時期のコントロール&オートマチックのロックアップ制御などを行っていた。単に走り面のリファインだけでなく、オートマチックをNレンジからDレンジにいれるショックをTCCSにより低減させるなど高級車らしい配慮を盛り込んでいたのが特徴だった。TCCSはひとつの明晰な頭脳で全身をコントロールする仕組みと言えた。