ARC-X 【1987】

1990年代のサルーン像を提示した意欲作

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


コンセプトは近未来パーソナルサルーン

 1987年の東京モーターショーに出品された「ARC-X」は、日産の先進技術についての積極的な取り組みを1台にまとめたコンセプトモデルだった。コンセプトモデルというと、往々にして“絵に描いた餅”のような実現性の薄いモデルになりがちだ。しかしARC-Xは違った。日産テクノロジーの発展方向を指し示す本来の次世代モデルだった。それが証拠にARC-Xに盛り込まれた数々の新技術は、後の市販車に確実に生かされている。

 ARC-Xの開発コンセプトは“近未来知的パーソナルセダン”。当時の広報資料を引用すると「人にやさしい、をテーマに技術とデザインの両面から今後の日産のクルマ作りの主要な軸を示したパーソナルセダンで、総合制御システム(インテリジェントビークルコントロール)をはじめ、数々の先進技術を採用した」とある。

総合制御システムが生む走りの新世界とは!?

 総合制御システムとは、エンジン、シャシー、トランスミッション、ブレーキなど、これまで別々に働いていた機能を走行状況に応じてコンピューターが総合的に取りまとめ、各機能を連携させることでトータルパフォーマンスを高めるシステムを意味する。現在ではほとんどのクルマが採用しているシステムだが、それを最初に提案したのがARC-Xだったのだ。1980年代後半はエレクトロニクス分野の技術が飛躍的に伸びた時代だが、ARC-Xはその恩恵を最大限に生かしていた。具体的にはそれまで個別に動いていた複数のシステムを相互に通信しあうことで情報の共有化を図り、結果的にセンサーの数を削減。レスポンスの向上を図るとともに、車両の走行状況に応じた最適制御を実現している。

 ARC-Xは卓越した“人にやさしい走り”を実現するためにエンジンやシャシーなどの各コンポーネンツ自体の完成度をぐっと引き上げていたのもポイントだった。まずは各機能のポテンシャルを高め、その潜在能力をフルに生かす総合制御システムの導入で一段と高次元の走りを目指すという考え方だ。

 パワーユニットはミッドシップスポーツのコンセプトカーMID4と共通のVG30DE型。3.0リッターの余裕ある排気量を誇り、可変速補機駆動システムや高出力オルタネーターなどで効率を高めた高性能エンジンである。アクセルペダルとエンジンスロットルを電子的に接続したドライブバイワイヤ方式により緻密な制御を可能にしたのも特徴だった。駆動方式は電子制御LSDを組み込んだトルクスプリット方式の4WD。後輪には4WS機能の進化版であるスーパーHICAS機能を組み込んでいる。トランスミッションは、ドライバーの意図に忠実な変速特性を実現した、セレクトバイワイヤ方式の電子制御ATである。書き連ねてくるとARC-Xのメカニズムは後のスカイラインや、フェアレディZ、プリメーラなど1989年から1990年初頭にデビューした日産車でおなじみのメカニズムであることに気づく。前後ともにマルチリンク方式を採用した4輪独立サスペンションも含め、ARC-Xはまさに次世代の日産車の発展方向を指し示すテストピースだったのだ。

造形は先進のビッグキャビン構成

 スタイリングも次世代である。フロントウィンドーからリアウィンドーを滑らかなワンモーションで結んだ流麗なフォルムは、広い居住空間と優れた空力特性を重視した結果だった。現在のサルーンデザインの王道であるビッグキャビン・フォルムの先駆けで、Cd値は当時世界トップ級の0.26。ARC-XのピラーレスHT構造からオーソドックスなセダンへと変更されたものの、特徴的なスタイリングを形作る面構成は、後のマキシマやプリメーラなどと非常に近い。

 インテリアも先進ナビゲーションやヘッドアップディスプレーなど安全で快適なクルージングに必要な装備を満載。ARC-Xは1990年代の日産車が新たな走りの歓びを実現することを示したエポックカーだった。ショーで注目を集めたのは当然だった。