センティア 【1991,1992,1993,1994,1995】

美しきアナザー・プレステージ

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ルーチェに替わる新フラッグシップの誕生

 未曾有の好景気を背景に、積極的なニューモデル開発を展開していたマツダが新フラッグシップとして1991年5月に送り出したのがセンティアである。センティアは従来のルーチェに替わるプレステージモデルとして登場し、美しいスタイリングで話題を独占した。開発コンセプトは、セダン本来の機能とともにエンスージアスティックな感触を求めた“アナザー・プレステージ”。ライバルのクラウンやセドリックなどとはひと味違う、クルマ好きの琴線に触れる入念な作り込みが訴求ポイントだった。ちなみにセンティア(SENTIA)というネーミングはフランス語で感じるを意味するSENTIRと、ラテン語の場所を示すIAを組み合わせた造語である。

人の情感に訴える流麗なスタイリングで魅了

 センティアのスタイリングはパーソナル感覚溢れたものだった。2850mmというクラス最大級のロングホイールベースを持ち、すべてを曲面で構成したボディパネルがエレガントな印象を醸し出す。ボディ形式はサッシュレス式ドアを持つ4ドアピラードハードトップを採用していた。

 1990年代前半はメルセデス・ベンツやBMWを意識した機能的デザインが日本車の主流だったが、センティアはジャガーXJサルーンにも似た人の情感に訴える造形の持ち主だった。ボディは全長4925mm×全幅1795mm×全高1380mmの堂々とした3ナンバーサイズ。しかし威圧的な印象は皆無で周囲の景色にも優しくなじむものだった。

 パワーユニットは全車V6DOHC24Vのレシプロで、マツダ独創のロータリーはラインアップから外れていた。センティアがスポーティさ以上にエレガントさを大切にしていたからだった。上級モデル用は排気量2954ccのJE-ZE型(200ps/27.7kg・m)、ベーシックモデル用が排気量2494ccのJ5-DE型(160ps/21.5kg・m)を搭載する。ともに中低速の実用トルクを重視するチューニングが施され、JE-ZE型にはロング吸気管を持つ可変慣性過給システム(VICS)を採用していた。トランスミッションはロックアップ制御付き4速ATが組み合わされた。

真摯な走りへの取り組みと贅を尽くした装備群

 センティアの個性は、高い走りのポテンシャルだった。フロント・ミッドシップに搭載されたエンジン、アルミ製エンジンフード、燃料タンクのリアアクスル配置などでフロント52:リア48の理想的な前後重量配分を実現するとともに、サスペンションに4輪マルチリンク式を高度なシステムを奢った。しかも高速走行時は後輪を前輪と同相にステアし安定感を高め、低速時は反対に逆相にステアさせることで小回り性を実現した車速感応型4WSを全車に組み込んだ。センティアのフットワークはサイズを感じさせないシャープな感覚を持ち、小回り性も抜群。最小回転半径は1.6リッター車と同等の4.9mに過ぎなかった。

 贅を尽くした装備群も話題を呼ぶ。最上級のエクスクルーシブではシートをはじめパセンジャーが手を触れる部分にオーストリア・シュミトフェルドバッハ社製の最高級牛革を採用。センターコンソール部も丹念な行程で磨き上げた天然木の楡材で仕上げていた。ラウンディッシュで上品な室内造形とともに厳選した素材でもユーザーを魅了したのだ。オーディオも8チャンネルマルチドライブ300Wアンプで駆動する6ポジション・12スピーカーシステムと、本格オーディオルームに匹敵するサウンドクオリティを誇った。

先進のソーラーベンチレーションを世界初採用

 センティアは太陽のエネルギーで快適キャビンを作り出す世界初のソーラーベンチレーション・システムをオプションで設定していた。サンルーフ部に搭載した太陽電池で専用ファンを駆動。走行中はもちろん駐車中も室内を換気することにより、爽やかで快適なキャビン空間を約束した。炎天下に駐車しても室内温度の上昇は僅かで、エアコンがすぐに効果を発揮するのが魅力だった。太陽エネルギーによるバッテリーへの補充機能も備え、つねに最適な充電状態を維持する効果もあった。まさに21世紀を見据えた新技術。センティアは先進性という面でもライバルを圧倒していた。

 センティアは美しく、ドライビングが楽しく、快適で、しかも持つ喜びが実感できる逸材だった。後にバブル景気と呼ばれた、あの時代だからこそ送り出すことができた贅沢なプレステージモデルと言えた。さまざまな意味で、マツダの頂点だった。