フォーリア 【2005】
大人の感性を刺激するFRスペシャルティ期待作
2005年の第39回東京モーターショーの日産ブースでクルマ好きの注目を集めたのが「フォーリア」だった。メインステージの「GT-Rプロト」が圧倒的な存在感を放ったため、やや大人しい印象を周囲に与えたが、フォーリアは大人の感性を満たすスタイリッシュなクーペとして魅力的な存在である。市販に向けての具体的なアクションプランは聞こえてこないが、是非とも登場して欲しい逸材だった。
フォーリアは実質的にはシルビアの後継となるコンパクトサイズのFRクーペである。7世代続いた伝統ブランドのシルビアは、排気ガス規制と安全基準の対応が困難なことを理由に2002年8月に生産を終了している。寂しい現実である。かつてシルビアに代表されるスペシャルティモデルは、若者を中心としたクルマ好きに絶大な人気を誇り、良好な販売成績を誇った。しかし1990年代半ばからクルマに対する指向性が“スポーティさ”から“実用性”に変化。加えて若者のクルマ離れが重なったため、人気&販売台数はともに急降下してしまう。それが生産終了に繋がったのだ。ユーザーニーズに対応できなかったことが原因とはいえスペシャルティモデルは、クルマ社会に彩りを与える名アクターだ。そう考えると復活を期待したくなる。
フォーリアは、スペシャルティモデルの復権を狙った意欲作である。FRレイアウトが生む素直で自在な操縦フィールという走りの特性を磨き上げるとともに、スタイリングを吟味。後席アクセス用エクストラドアを新設することで実用性面でも工夫を凝らした。開発コンセプトは「大人の男女に贈るコンパクトスポーツ」だ。
フォーリアは、従来のシルビアがスポーティな走りの面を強調しすぎた面があったことを修正し、眺めること、室内に身を落ち着けることだけで感性を刺激するスタイリングの創造に徹底的に注力した。スタイリングはロングノーズ&ショートデッキのバランスのいいクーペフォルムで、エッジが利いた水平基調のライン構成は、どことなく“クリスプルック”を標榜した初代シルビアを想起させる。新しさを感じさせるポイントは圧倒的なロングホイールベースと前後オーバーハングを短く仕上げた処理。エレガントながら走りに対する強い意思が感じられるのはぐっと踏ん張ったワイドトレッドとオーバーハングが短いことによる面が大きい。
フォーリアに対し日産はいっさいのスペックを公表していない。ボディサイズは不明だが、“コンパクトスポーツ”を名乗るだけに最終となった7代目シルビア(全長4445mm)も短そうだ。しかしホイールベースは最終シルビアの2525mmよりも長く、マツダRX-8の2700mmレベルと想像できる。フォーリアがロングホイールベースを採る理由は、良好なハンドリング特性実現と、ルーミーな室内スペース確保のためである。モーターショーで対面したフォーリアは2+2レベルを超えるフル4シーターに近い室内空間を持っていた。後席中央は前席から連続するコンソールで完全に区切られパーソナルモデルらしい贅沢さも演出している。
フォーリアは、前述のように通常のフロントドアにプラスして、マツダRX-8のような後席アクセス用エクストラドアを持っている。旧来のスペシャルティモデルが人気を失った原因のひとつはユーティリティの低さだった。たとえ後席に人を乗せるシーンは限られてはいても2ドアはやはり不便なのだ。スタイリングのために実用性を犠牲にすることは21世紀の価値観では許されることではない。エクストラドアを持つフォーリアは時にゲストを後席に招いてもOK、日常的にパーソナルセダンとして使えるユーティリティを実現している。もちろんミニバンと比べるべくもないが、子育て終了世代にはフォーリアの適度にパーソナルな室内空間と使い勝手は魅力的に映に違いない。
フォーリアに相応しいパワーユニットはなんだろうか? 2005年の発表時点では200ps程度の出力を持つ2.0リッタークラスの直列4気筒ユニットの搭載が予想されていた。しかし地球環境問題に対する対応が進化した最近の傾向を考えると高出力モーターと小排気量エンジンを組み合わせたプラグインハイブリッド、さらに完全なEVとしての登場を期待したくなる。今後のクルマ社会をリードする俊敏でエコフレンドリーな心臓を搭載して、エレガントなフォーリアが正式デビューすることを期待したい。