180SX 【1989,1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998】

シルビアから発展した5ナンバーFRの頂点

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スタイリッシュなFRスポーツクーペの誕生

 1989年4月から販売が開始された日産の新しいスポーツクーペが180SXである。もともとはアメリカ市場向けに展開していた、シルビア・ベースの輸出モデル「240SX」の日本版だ。

 240SXにはノッチバックとともに、テールゲートを設けたスタイリッシュなクーペがあり180SXはテールゲート付きになっていた。エンジンは1.8リッターのターボチャージャーのみの設定。ちなみにヨーロッパ市場向けは2.0リッターエンジンを搭載した関係で200SXを名乗っていた。仕向け地別に最適なエンジンを選択した結果、基本は同一ながら3種のネーミングが存在したのだ。

リトラクタブルライトがスポーツカールックを演出

 180SXの個性はリトラクタブル式ヘッドランプを採用したフロントマスクにあった。ヘッドライト周りを中心としてデザインし直していたのはヘッドライトの地上高が、シルビアのままでは低過ぎてアメリカの安全基準に合致しないためだった。

 点灯時のライトの位置を上げるために、左右のフェンダー内側に電気モーターで起き上がるリトラクタブル・タイプの角型2灯式ヘッドライトを埋め込んである。苦肉の策ではあったが、フロントのスタイルは、オリジナルであるシルビアに比較してぐっとスポーツカーライクになった。

 180SXの車名は、180の数字がエンジン排気量の10分の一を意味しており、SXは当時日産が使っていた輸出用モデルのコードネームであった。読み方は「ワンエイティ・エスエックス」。旧くから、「ブルーバード」や「セドリック」、「シルビア」と言った具合に、特別のモデル名を使っていた日産車の中では数字と記号だけの車名は珍しい存在であった。

パワフルなターボで俊敏な走りを約束

 シルビアをベースとしている関係で、デザイン変更以外は基本的にシルビアのままである。搭載されるエンジンもシルビアのK’sと共通、5ナンバー枠にこだわったため、排気量は1.8リッターだったが、インタークーラー付きターボチャージャーを組み合わせることでスポーツクーペに相応しい高出力を得ていた。

 CA18DET型の直列4気筒DOHC16Vのエンジンは排気量1809ccで圧縮比は8.5、これに電子制御燃料噴射装置と空冷式インタークーラー付きターボチャージャーを組み合わせて、175ps/6700rpmの最高出力を得ていた。発売当初からエンジンはインタークーラー付きターボチャージャー仕様のみ。シルビアでは販売の中心となっていた自然吸気仕様を設定しなかったのは、180SXをフェアレディZの弟分にあたる純スポーツモデルと位置づけていたからだった。

スポーツ派のためのFRレイアウト

 180SXの駆動方式はフロントエンジン、リアドライブのFRであり、セダン系の多くが前輪駆動方式一辺倒になっていた時期での、オーソドックスな後輪駆動方式の採用はユニークだった。

 FRは後輪のトラクションをスロットルの加減で操作するスポーティーなユーザーから喜ばれた。この当時、スポーティーな走りは後輪駆動に限ると信じ込んでいるユーザーはかなり存在していたのである。180SXは、あくまでドライバーのテクニックでスポーツドライブを楽しむクルマだった。その意味では伝統的なスポーツモデルの血統を受け継ぐ最後のモデルと言ってよかった。

 トランスミッションは5速マニュアルと電子制御の4速オートマチックがあり、ビスカスカップリング(VCU)を用いたLSD(リミテッドスリップデファレンシャル機構)が装備された。ブレーキは4輪ディスクでフロントはベンチレーテッド型とされ、サーボ機構を持つ。タイヤは4輪とも195/60R15サイズで、当時としてはかなり太いものとなっていた。

室内はシルビアと同一デザイン

 内装もシルビアと同じだった。センターコンソールやメータークラスターなどのレイアウトもシルビアに等しい。シルビアではある程度余裕があった後席スペースは、180SXではフルファストバックとなったことで、とくに後席のヘッドスペースは狭くなっている。この点はユーザーを選んだが、輸出市場では、後席に人が乗ることはほとんど無かったから、あまり欠点とはならなかった。

 180SXのグレードはタイプIおよびタイプIIと呼ばれるモデルの2種があった。タイプIはパワー・ウィンドウやオーディオが省かれており、モータースポーツ向けのベース車両とされていた。タイプIIでは通常のロードカーとして各種の快適装備や安全装備がセットされていた。日産が独自に開発した電子制御方式の四輪操舵装置であるHICAS-IIがオプション設定とされているのは注目される。

適切なリファインでロングライフモデルに成長

 デビューから3年後の1991年1月にマイナーチェンジされ、フロント回りのデザインが若干変わる。バンパーはボディと一段と一体化され、全体に曲面が増えて一回り大きくなったように感じられた。オプション設定の4輪操舵システムはスーパーHICASとなってよりきめ細かな操舵が可能となった。タイヤサイズも205/60R15へとワイド化されている。

 最も大きな変更はエンジンを排気量1998ccのSR20DET型・直列4気筒DOHC16Vターボに変えたことで、最高出力は205ps/6000rpmへと向上した。エンジンは大型化したが、車名は180SXのままであった。その理由は、すでに180SXの名がユーザーの間に浸透しブランド化していたことに他ならない。また、フルオートエアコンや後席3点式シートベルトを標準化するなどした豪華グレードのタイプXがラインアップに加えられている。

 180SXは、けっして先進メカニズムを満載した存在ではなかったが、数少ない後輪駆動のスポーツ車として、確実なマーケットを築き上げる。そのため、ベースになったシルビアがモデルチェンジで新世代化されても、基本的にそのままで生産が継続された。モデルライフの後半になると、生産は日産系列の高田工業が受け持つこととなる。1996年にテールランプの意匠変更やボディカラーの変更など細部のフレッシュアップを加えながら、1998年12月まで、ほとんどハンドメイドと言える入念な作業による生産が続けられた。今日でも人気が高い。シルビアの派生モデルとして誕生した180SX。永く語り伝えられるクルマである。