レクサスLS 【1989,1990,1991,1992,1993,1994】

世界を驚かせた高級車の新スタンダード

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日本車、高級車ジャンル挑戦の背景

 世界の高級車シーンに強いインパクトを与えた存在、それがレクサスLS400である。1970年代半ばから1980年代にかけての日本車は、無敵だった。マスキー法に代表される厳しい排出ガス規制への対応で培った高い技術力を背景に、低燃費と高品質を武器に怒涛の勢いで海外市場を席巻する。とくにシェアを伸ばしたのは北米市場だった。日本車の高い人気は「日米貿易摩擦」として、深刻な経済・政治問題にまで発展。日本メーカーは輸出自主規制に追い込まれる。その後、北米での現地生産をスタートさせたトヨタ・カムリ、ホンダ・アコードは、北米のベストセラーサルーンの座に上り詰め、現在でもその座をキープしている。

 北米自動車マーケットの主導権を握った日本車。しかし日本車にとって、未開拓のジャンルが存在した。それは高級車だった。日本車は、販売台数というボリューム面ではリーダーだった。しかし伝統とプレステージが、なにより大切になる高級車分野は、アメリカンブランドのキャデラックやリンカーン、欧州のメルセデス・ベンツ、BMW、ジャガーが牛耳っていた。日本車はあくまで実用大衆車のリーダーにすぎなかった。

アメリカを主眼にしたトヨタの挑戦

 トヨタは、この未開拓の高級車ジャンルへの挑戦を決める。決断した背景には北米市場の高級車マーケットは非常に大きく、ビジネスとして旨みがあるという事実。そして30~40歳代を中心に、既存の伝統的な高級車に対して抵抗感を持ち、フレッシュな高級車を期待する層が存在するという、市場調査データがあった。独自の価値観で、欧米の模倣ではない、トヨタらしい高級車を作れば、勝算があると考えたのだ。

1989年、トヨタは北米で「レクサス」を立ち上げ、ゼロから開発したレクサスLS400をリリースした。ちなみにレクサスLS400は、日本ではセルシオのネーミングで販売された。日本でレクサス・ブランドの展開がスタートするのは2006年のことである。

テストコース建設からスタートした高級車作り

 日本メーカーで、高級車ジャンルに挑戦したのはトヨタだけではなかった。ライバルメーカーのホンダや日産も同様だった。ホンダは1986年に高級車ブランドの「アキュラ」の展開をスタート、日産も1989年「インフィニティ」をスタートさせる。しかし、ライバルメーカーが、既存のモデルの延長線上のモデルを、高級車として販売したのに対しトヨタは根本的に違っていた。

 トヨタは、レクサスの本格開発を、北海道・士別に世界最大級のテストコースを建設することから始めた。士別テストコースは、300km/hレベルの高速耐久試験が可能なオーバルコースや、ドイツのニュルブルクリンクサーキットを思わせるハンドリング路を持ち、クルマのポテンシャルを極限まで鍛えられる開発・研究施設だった。

 トヨタは、新たな高級車の価値を「機能的で高品質なプレミアム」を定めていた。高級車としての伝統を持たない日本車が、欧米のライバルと闘い、勝利を収めるには機能と品質こそが武器になると考えたのである。そのためにはまず最高のテストコースが必要だった。

徹底した「源流対策」で圧倒的な静粛性を実現

 レクサスLS400は、士別テストコースでの徹底的な走り込みから生まれた。それまでのトヨタの高級車といえば、日本市場専売のクラウンだったが、レクサスLS400はそれとはすべてが違っていた。クラウンは日本の法定速度である100km/hまでの快適性を重視したクルマで、ボディサイズも日本の5ナンバー枠を基準にしている。しかしレクサスLS400はワールドクラス。排気量3968ccのV型8気筒DOHC32Vエンジンを搭載し、トップスピードは250km/hオーバーを達成。ボディサイズも全長4995×全幅1820×全高1400mmと、メルセデス・ベンツSクラス、BMW7シリーズと同等だった。

 乗った誰もが感激したのは、静粛性である。レクサスLS400は日常領域はもちろん、200km/hでの超高速クルージングでもほぼ無音だったのだ。この静粛性は「源流対策」と呼ばれたレクサスLS400独自の開発手法の産物だった。ボディ各部に遮音材を追加することで静かさを得たのではなく、騒音の発生源であるエンジンそのものの精度を徹底的に高めることで、卓越した静粛性を実現していた。

 デビュー当時、北米で放映され話題を集めたテレビCMがあった。それはレクサスLS400のボンネット上にシャンパンをなみなみと注いだグラスをピラミッド状に積み上げ、エンジンを掛ける。ピラミッドは微動だにせず、シャンパンが僅かにさざ波を立てるだけ……エンジンの低振動ぶりを見事に表現したCMだった。

 レクサスLS400は、抜群の静粛性とパフォーマンス、そして日本車の特質である高品質と絶対的な信頼性でセンセーションを巻き起こし、デビューと同時に高級車として認められた。発売初年度だけで約1万6000台を販売し、大成功を収める。その後、メルセデス・ベンツやBMWをはじめとするライバル各社は、レクサスLS400を徹底的に分析。その美点を自らのクルマ作りに活かすようになる。レクサスLS400は、トヨタの高級車の処女作にして、世界の高級車のベンチマークとなったのだ。