フローリアン・スーパーDX 【1976,1977,1978,1979,1980,1981,1982】

高級サルーンに進化した欧州調セダン

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純ファミリーカー、フローリアンの進化

 日本の自動車産業を黎明期から支えたいすゞは、1台のモデルを長い時間を掛けて熟成するメーカーだった。ベレットや117クーペなど、いすゞの名車はどれもロングライフだが、今回採り上げるフローリアンもその1台だ。フローリアンは1966年秋のモーターショーに参考出品された“いすゞ117”の市販バージョンである。ネーミングが示しているように117クーペとシャシー回りを共用したミドルクラスサルーンで、6ライト・ウィンドーのスタイリングが個性を主張した。

 1967年に市販を開始したフローリアンは、デビュー当時はスポーティなベレットに対し純ファミリーカーというキャラクターだった。1970年には特徴的だった角形ヘッドランプを4灯タイプに変更し、エンジン排気量も1.8リッターに統一することで上級モデルとしての位置づけを明確にする。そして1976年9月、エンジンを昭和51年排出ガス規制に適合させるタイミングでラインアップをスーパーデラックスの1グレードに集約。今度はフォーマルカーとしてリファインを図った。

個性派高級サルーンの誕生

 フローリアン・スーパーデラックスがデビューした1976年には、すでにベレットに替わって初代ジェミニが登場していた。ジェミニはオペル・カデットの日本版ともいうべきGMの世界戦略車である。欧州仕込みのしっかりとした走りと、優れたパッケージングが好評で1974年のデビューと同時にいすゞの主力乗用車の地位を獲得する。フローリアンにとってジェミニの登場は朗報だった。

 フローリアンはイタリアンデザインの基本設計に優れたモデルである。しかし旧態化は明白だった。ジェミニを含め最新設計のライバルと比較すると見劣りする部分が出てきていたのだ。フローリアンの開発陣は、旧態化した部分のすべてを改善するのではなく、フローリアン本来の魅力に一段と磨きを掛けることで熟成を図った。開発陣が魅力と認識した部分、それは居住性である。

居住性を磨き、個性を主張

 フローリアンはゆったりとした室内空間の持ち主だった。室内長は1795mmと十分で、しかもルーフが高くウインドーも広いため開放感にも優れていた。1.8リッターのサルーンとしては珍しく、ショーファードリブン的な使い勝手にも十分対応できる室内の持ち主だったのである。新登場のスーパーデラックスでは室内の広さを贅沢な味わいとともに満喫できるようにリファインする。

 シートを明るいベージュカラーの高級ベロア素材にすると同時に、当時としては珍しいビルトイン式のクーラーを標準装備。オーディオもFM放送が受信可能なステレオタイプにグレードアップした。さらに大切なゲストを招く後席用としてリアピラーにパーソナルランプを設置し、カーペットもブラウンのキャンベル織りの高級仕様を敷き詰める。細部まで高級感の演出には抜かりはなかった。ちなみに外装カラーはシックなガーネットマルーン・メタリックのみ。この欧州調のカラーリングもスーパーデラックスの落ち着いたイメージの演出に貢献していた。

パワーユニットもクリーンに変身

 メカニズム面では昭和51年排出ガス規制に適合したG180Z型ユニットの搭載がニュースだった。1817ccの排気量から105ps/5400rpm、15.0kg・m/3800rpmを発揮する直4OHCユニットは、EGR(排気ガス再循環装置)、2次空気供給装置、酸化触媒コンバーターなどでクリーンな排気ガスを実現。いすゞ製エンジンならではのトルクフルな味わいはそのままに低公害ユニットに変身させていたのが見事だった。設計の古い4気筒エンジンのため、高回転域ではそれなりにノイジーだったが、通常走行ではそれほど回す必要がなかったため、静粛性にも優れていた。ただし組み合わせるトランスミッションは5速マニュアルの1種。オートマチックが未設定だったのは時代を感じさせた。その後、いすゞのお家芸でもあるディーゼルモデルも登場。エコノミーな特性に磨きを掛ける。

 フローリアン・スーパーデラックスは、ドライバーズカーと言うよりオーナーが後席に座るショーファードリブンとして企画されていた。地味な存在ではあったが、いすゞ技術陣の良心が光る味わい深いサルーンである。