ベレット1800GT 【1970,1971,1972,1973】

胸のすく走りが味わえたマニアッククーペ

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“欧州車感覚の走り味“でマニアを魅了

 1970年当時のいすゞ製乗用車は、当時の日本メーカーのクルマの中で最もマニアックな存在だった。なかでもベレットGTは、別格だった
 ベレットは、1950年代にイギリスのヒルマンのノックダウン生産で乗用車作りを学んだいすゞが、1963年11月にデビューさせた小型車である。当時クラス初となる4輪独立サスペンション、ラック&ピニオン式ステアリング。4速フロアシフトを採用。欧州車を彷彿させる走りでユーザーを魅了した。

 ベレットのスポーティなイメージは、翌1964年4月に登場したベレット1600GTで決定的になる。日本で初めてGTを名乗ったベレットは、低く精悍なクーペフォルムを持ち、エンジンをツインキャブでチューニング。スポーツ仕様の足回りや、6連メーター配した室内など、すべてがGTを名乗るに相応しい存在だった。ベレットGTは、“和製アルファロメオ”などと呼ばれ、熱狂的な信奉者を生み出す。

トップスピード180km/h! 1800GTのデビュー

 いすゞは、ベレットをロングライフモデルとして大切にした。当時4年周期でモデルチェンジを繰り返していた時代風潮の中で、地道なリファインや、新グレードを投入することで新鮮さをキープする戦略を取ったのだ。いすゞの企業規模を考えると、積極的な新車開発が難しいという事情もあったのだが、ベレットの潜在的なポテンシャルが高く、走りの面でライバルに負けない実力を持っていたことが大きかった。

 ベレットGTは、数度のマイナーチェンジを実施、1969年10月には、117クーペ用の1.6ℓDOHCエンジン(125ps)を搭載したGTRグレードを加え、その走りを一段とスペシャルなものにする。GTRは、正式発表前にGTXのネーミングでレースに参戦。レースで得た経験を盛り込んだ、いわば最強の戦士だった。トップスピードはクラストップ級の190km/hを誇った。

 今回の主役である1970年11月に誕生した1800GTも性能面では負けていなかった。1800GTは、それまでの1600GT用1584ccユニットの排気量を、1817ccに拡大したエンジンを搭載。115ps/5800rpm、15.5kg・m/4200rpmの出力/トルクを誇った。スペックは1600GT(103ps/13.6kg・m)を大幅に凌いだばかりでなく、GTR(120ps/14.5kg・m)と比較しても遜色なかった。最大トルクに注目すると1kg・mも、1800GTにアドバンテージがあった。
 1800GTのトップスピードは180km/hと公表された。これは1600GT(170km/h)と、GTR(190km/h)の中間だった。しかし実際の走りはGTRに近かった。とくにトルクの太さがものを言う発進&追い越し加速では1800GTが、GTRを凌ぐシーンもあった。

800GTの足回りはGTRと共通。価格はリーズナブル

 1800GTの性能の高さはメーカーがよく承知していた。前ダブルウィッシュボーン式、後ダイアゴナルリンク式スイングアクスルの足回りは、GTRと共通のセッティングが与えられ、ハイバック形状のサポート性を重視したシートや、本革巻きステアリングなど、室内もGTRと共通だった。
 それでいて1800GTの価格は87万円。GTR(111万円)と比較して24万円もリーズナブルな設定だった。

 1800GTは、GTRの特徴であった2分割フロントバンパーや大型フォグランプ、そして黒塗りボンネットなどは装着されていなかったため、ジェントルな風貌だった。その分、大人っぽい風格を感じさせた。本質を重視するユーザーにとって格好のグレードといえた。
 実際、1800GTの走りは鮮烈だった。エンジンはやや荒削りな印象だったものの全域でパワフル、とくに中回転域の伸びの良さが目立った。4速ギアボックスの小気味いいシフト感、そして何よりシャープな操縦性と相まって、心躍る走りが楽しめた。セリカやスカイラインといった当時のライバルと比較すると、室内は狭く、快適性面では劣ったが、スポーティな走りという面では、ベレットが優位に立っていた。

 1800GTは、ベレット・シリーズ共通のマイナーチェンジによって、1971年10月にフロントマスクとリアランプ形状を一新する。外観上の変更は、従来までのシンプルな魅力をいささかスポイルするもので、好き嫌いがはっきりと分かれた。しかし、新しいイメージを演出したことは確かだった。
 ベレットは1973年9月に生産を終了するまで、クルマ好きを魅了する独特のキャラクターを発散し続けた。激動の1960年代から70年代を駆け抜けた、味わい深い名車である。