バネット・ラルゴ・コーチ 【1982,1983,1984,1985,1986】

快適性を引き上げたワイド・ワンボックス

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ワンボックス需要の多様化

 アウトドアレジャーの本格的な流行により、1980年代に入って急速に伸長した小型ワンボックス需要。その流れに呼応するように、ユーザーの小型ワンボックスに対する要求性能はより多様化の様相を呈し始めていた。
 1978年10月にC120型系チェリー・バネット/サニー・バネットをリリースし、1980年3月にはダットサン・バネットも追加設定して小型ワンボックス・カテゴリーでのシェアを伸ばしていた日産自動車は、この市場ニーズを敏感に察知し、対応策を練るようになる。また当時の日産スタッフによると、開発部隊の側でもアウトドア派を中心に「もっと利便性が高い本格的な乗用ワンボックスを造りたい」という強い意欲があったそうだ。

 新しい小型ワンボックスを企画立案するに当たり、開発陣は “居住性”にスポットを当てる。既存のバネット・シリーズよりキャビンの快適性やドライバーの運転操作性を引き上げるには--。その方策として開発陣は、車体幅の拡大を決定した。ベース車は既存のバネットで、この車体幅を90㎜ほど広げて(全幅1690mm)1530mmの室内幅を確保する。その上で、窓ガラス面積をバネットよりフロントで14%、リアで28%広げて大幅な視界向上と開放感のアップを達成した。また、運転席足元のペダル配置やステアリングホイール位置なども見直し、運転操作性の向上を図る。さらに、トレッドを前輪で90mm、後輪で50mm拡大して走行安定性を高めた。

RVの資質を高める造形とパワー

 スタイリングに関しては、車体幅の拡大にダックテール風のセミハイルーフを採用した結果、個性的で安定感のあるフォルムを実現する。各パーツのデザインにも工夫を凝らし、エプロン一体型の大型バンパーや角型4灯式のヘッドランプ、開閉式リアウィンドウを内蔵するガラスハッチ、オシャレな造形のサイドミラーなどを採用して“レジャービークル”らしさを演出した。

 インテリアについては、ワンボックスカーで初設定となるチルト&テレスコピック式ステアリング、水平指針の大型メーター、センターレバー式の駐車ブレーキなどを採用して乗用車感覚を創出。さらに上級グレードには、高級モケット地のシートやデジタル時計、大型フロントドアアームレスト、アームレスト付きサイドボックスを装着した。

 走りのメカニズムにも力を入れる。エンジンはバネット・シリーズにも搭載するZ20型1952cc直4OHC/A15型1487cc直4OHVの2機種のガソリン仕様とLD20型1952cc直4OHC/LD20T型1952cc直4OHCターボの2機種のディーゼル仕様を設定。組み合わせるミッションはフロアシフト式5速MT/コラム式4速MTのほか、ロックアップ機構付きオートマチックトランスミッションをラインアップした。サスペンション形式はフロントが独立懸架の横置リーフスプリング、リアが固定の半楕円リーフスプリングでバネット・シリーズと同様だが、ショックアブソーバーの減衰力やスプリングのバネ定数には専用チューニングを施す。ブレーキはフロントにベンチレーテッドディスクを装着。同時にマスターバックには大型タイプ(最大9インチ)を採用した。

“幅広くゆるやかに”のサブネームを付けてデビュー

 ボディ幅を拡大した日産の新世代小型ワンボックスは、1982年9月に市場デビューを果たす。車名はチェリー/サニー/ダットサン“バネット・ラルゴ”。イタリア語で“幅広くゆるやかに”を意味する音楽用語をサブネームにつけ、新しいクルマの広々感やゆったり感を表現していた。

 ラルゴ・シリーズの車種展開は、乗用タイプの“コーチ”と商用車の“ライトバン”の2タイプを設定する。搭載エンジンはコーチがZ20型/LD20型/LD20T型の3機種を、ライトバンにはA15型/LD20型の2機種を用意。シート配列はコーチが3列式で2/3/3名の8人乗りと2/2/3名の7人乗りを設定。ライトバンは2列式で2~6名乗りをラインアップした。

 数あるラインアップの中で、市場が最も注目したのはコーチの最上級グレードである“グランドサルーン”だった。高級モケットのシート表地に回転対座式のセカンド、フルフラットにできるセカンド&サードシート、充実した装備アイテムなどを採用したグランドサルーンは、まさに“小型ワンボックス界のリムジン”といえる高級感を有していた。またラルゴ・シリーズ全体では、快適な居住空間や安定感が増した走行性能、運転しやすいドライビングポジションなどが好評を博した。

 走りと居住性の両方に磨きをかけたラルゴ・シリーズは、たちまちアウトドア派ユーザーの大きな支持を集め、販売台数を伸ばしていく。メーカー側もこの好セールスに呼応し、大型ガラスサンルーフのパノラマルーフ装着車の設定などを実施して付加価値を高めていった。
 乗用ユースの本格的な小型ワンボックスとして、1980年代前半の市場をリードしたラルゴ・シリーズ。その卓越したクルマ造りは他メーカーにも影響を与え、トヨタ自動車のタウンエースやマツダのボンゴ、三菱自動車のデリカ、いすゞ自動車のファーゴといったライバル車たちの進化を促していったのである。