シビック 【1983,1984,1985,1986,1987】

ボディタイプ毎に個性明確な最適設計を施した意欲作

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一見、別のクルマ、でもシビック!?

 世界に羽ばたくホンダの勢いを実感させたのが1983年9月に登場した3代目のシビックだった。当時のホンダは、アメリカで完全に市民権を獲得し、世界企業として急速に拡大していた。ホンダ好評の原動力は、他のブランドでは味わえない先進性と、クラスレスな輝き。メカニズムからスタイリング、装備のすべてに、ホンダの独創性が貫かれており、魅力が際立つ存在だった。3代目のシビックはその代表である。

 “ワンダーシビック”の愛称で呼ばれた3代目は、ボディタイプごとに最適設計を施していた。通常のクルマの場合、セダンを基本形状に定め、その派生モデルとしてハッチバックやワゴンなどのモデルを作り出すのが一般的である。シビックも2代目まではそうだった。しかし3代目の手法はまったく違った。優れた取り回し性と、俊敏な走り味が要求される3ドアハッチバックは、低くコンパクトなボディパッケージ、広いキャビン&トランクスペースが要求されるセダンにはルーフ高を十分に採ったボクシーなボディパッケージ、さらにユーティリティを第一義に要求される5ドアハッチバックのシャトルは、思い切ったトールデザインのボディパッケージを与えたのだ。
 3車は同じシビックを名乗るものの、スタイリング面での共通性はほとんどなかった。共通項はユーザーのニーズに真摯に応え、理想を追求する開発姿勢のみ。3代目は、まさにホンダらしさ溢れるシビックと言えた。

メインモデルの3ドアは大胆ビュレットフォルム採用

 思い切ったラインアップ展開を実現できた背景には、ワールドカーに成長したシビックの販売ボリュームがあった。シビックは日本だけでなく世界で愛されていた。それだけに潤沢な開発投資が可能だったのだ。当時「シビックほどの生産ボリュームがあると、通常のようにベースモデル派生でさまざまなボディバリエーションを造っても多くのボディ金型が必要になります。今回のようにボディタイプごとにスタイリングを全面的に変えても、金型などに要するコストは通常とほとんど変わりません。それならばよりユーザーニーズに最適なモデルを造ったほうがいいと判断しました」と開発担当者は説明してくれた。

 3ドアハッチバック、セダン、5ドアのシャトルの3台は、どれもがシビックを名乗るに相応しい斬新さに溢れていた。なかでもメイン車種だった3ドアハッチバックは、世界で最も進んだ造型の持ち主だった。スタイリングは低重心、ワイド&ローのビュレット(弾丸)形状。居住スペースをフロントからリアまで伸ばしたロングルーフ・シルエットを採用し、テールエンドを思い切って切ったコーダトロンカ・デザインである。全長3810mm×全幅1630mm×全高1340mmのコンパクトサイズながら、広い室内空間と優れた空力特性を両立していたのは、このスタイリングによるところが大きかった。しかも後席には100mmのロングスライドとリクライニング機構を組み込み、使い勝手にも工夫を凝らしていた。

全車、パワフルで燃費に優れた高効率エンジン搭載!

 ボディサイズを全長4145mm×全幅1630mm×全高1385mmに拡大し、とくにトランク部分をハイデッキとしたセダンも個性的な存在だった。ゆとりある頭上空間が自慢で、トランク容量も420Lと広大。ライバルとなるカローラ以上の広々としたスペースが自慢だった。シャトルも同様で、アップライトなシートポジションにより、全長3990mm×全幅1645mm×1490mmとは思えないゆとりを実現していた。さらに多彩なシートアレンジにより様々なライフシーンに対応していたのもホンダらしかった。

 3代目はメカニズムも意欲的である。フロントに横置き搭載するエンジンは、1シリンダー・3バルブ形式の高効率4気筒OHC12V。1342ccのキャブレター仕様(80ps/11.3kg・m)、1488ccのキャブレター仕様(90ps/12.8kg・m)、さらに1488ccの電子制御インジェクション仕様(100ps/13.2kg・m)の3タイプをボディタイプ&グレード別に積み分けていた。どのエンジンもホンダらしく吹き上がりがシャープで、パワフル。しかも燃費性能も際立っていた。キビキビとした味付けの足回りとともに、活発な走りを生む、まさに原動力だった。
 1984年9月には、S800以来のDOHCエンジン(1590cc、135ps/15.5kg・m)を積むSiグレードを加えるなど、スポーティな走りに磨きを掛けた3代目シビックはまさに傑作。1980年代のホンダを象徴する名車である。