サンバーの歴史 【1961〜2011】
50年以上の歴史を誇る軽商業車の老舗ブランド
庶民の生活を支えてきた“小さな大物”が1961年の誕生以来、長い歴史を誇る軽商用車、サンバーである。日本では同一ネームで50年もの時間を積み重ねてきたクルマは非常に少ない。クルマというものは商品であり、ユーザーの関心を引くにはつねに新鮮さが求められるからだ。それはネーミングも例外ではない。販売挽回のカンフル剤として車名まで一新するケースは一般的だ。50年以上同じ車名で愛されているクルマは、トヨタのクラウンや日産のスカイラインなどほんの僅か。伝統のネームを守っているクルマはしっかりとしたアイデンティティの持ち主といっていい。
サンバーは1961年2月に名車スバル360の商業車版として登場した。前年のモーターショーに参考出品され、その好評を受けての正式デビューだった。チーフエンジニアはスバル360を手掛けた百瀬晋六氏である。空冷2気筒の2ストロークエンジンをリアに搭載するRRレイアウトや、軽自動車としては贅沢な4輪独立サスペンションなど、主要メカニズムはスバル360をベースにしていた。キャビンはスペース効率を重視するためキャブオーバー型とされ、スタイリングはスバル360に通じる愛らしさを持っていた。当初トラックがデビューし12月にはライトバンがラインアップに加わった。
サンバーが登場した1960年代初頭は、日本の高度経済成長に拍車が掛かった時期である。経済活動は活発化し商店や小規模工場の事業主は、たっぷりと積めてキビキビと走る、信頼の置ける相棒を求めていた。
サンバーは、従来ダイハツ・ミゼットなどの3輪トラックを使用していたユーザーの乗り替えにぴったりの存在となった。しかもスバル360譲りの贅沢な設計である。サンバーはライバル各車に較べ、圧倒的に使い勝手がよく、しかも乗り心地がしなやかだった。仕事の相棒というだけでなく、走らせることそのものが楽しみになる逸材だったのである。スバル360に憧れてはいたものの、乗用車はまだまだ高嶺の花と諦めていた層にとってサンバーは理想的な存在だった。とくに4名が乗れるライトバンは、平日は仕事の足、休日になると家族を乗せファミリーカーとして使うケースが目立った。サンバー・ライトバンは現代のミニバンの先駆でもあった。
サンバー独特のRRレイアウトは、後部にエンジンスペースが存在するため荷室をフラットにできない欠点を持っていた。しかしスバルの開発陣はRRのメリットを徹底的に伸ばすことで欠点を目立たなくした。軽量な軽自動車の商業モデルの場合、積み荷のありなしで走行安定性が激変する傾向があった。通常のフロントエンジンの場合、空荷状態ではリアの荷重が軽すぎ有効なトラクション性能を確保できなかったのである。しかし荷室の床下にエンジンを配置するサンバーは、空荷状態でも後輪にしっかりとした荷重が掛かるため安定した走りが可能だった。しかも荷物を積むほど、駆動輪となる後輪荷重が増しトラクション性能が際立ったのだ。荷室がフラットでない点もエンジンを搭載部分以外のフロアを低くし、使い勝手の自在性を盛り込むことで逆にサンバーの個性へと転換する。
サンバーは代を重ねても、特徴であるRR方式と4輪独立サスペンションの組み合わせという基本レイアウトを守って進化した。エンジンのパワーアップや4WDシステムの導入など、つねにライバルに先駆ける積極的な展開でその名声を保ってきた。とはいえサンバーは2012年春にスバルの独自開発モデルから、ダイハツ・ハイゼットのOEM供給モデルとなった。サンバーという車名は継承されるものの、デビュー以来守ってきたメカニズム上の伝統は失われる。合理化という企業の論理の前にはいかんともしがたいことだが、スバルらしいクルマ作りがサンバーの魅力だっただけに、寂しいことだった。