グロリア 【1975,1976,1977,1978,1979】
ダイナミックなスタイルを持った国産最上位モデル
日産グロリア(と日産セドリック)がフルモデルチェンジされて5代目の330型となったのは、1975年6月のことである。同じクラスにあった日産セドリックとグロリアを統合し基本的に同一のボディとして生産性の向上を図ろうという試みは、先代の230型から行われていたのだが、330型となってさらにその統合の度合いは強まり、ほぼ販売チャンネルとネーミングが異なるのみになっていた。
ラテン語で栄光という意味を持つグロリア(Gloria)の車名は、1959年1月に旧プリンス自動車が発売した1862㏄エンジンを搭載した国産初の3ナンバー乗用車に付けられていたものだった。当時の3ナンバー枠の排気量は1500㏄以上となっていたのである。以後、グロリアの車名は、プリンス自動車のトップレンジに与えられる車名として親しまれることになる。フラットデッキのスタイルを持ち、ボディを一周するクロームメッキのモールディングを特徴としていたS40系(1962~1967)や、1966年8月の日産自動車とプリンス自動車の合併後に登場したA30系「縦目のグロリア」(1967~1971)などを経て、同じクラスとなっていたセドリック(230系)と統合を進め、事実上同じボディシェルを共用する兄弟車となった。
330型のコードネームを持つ5世代目となったグロリアの大きな特徴は、日産が独自に開発した低公害システムであるNAPSを採用したこと。NAPSとは、NISSAN Anti-Pollution System(=日産公害防止システム)のイニシャルで、このシステムを搭載したことにより、エンジンは昭和50年排ガス規制をクリアするものとなった。
NAPSそのものは、プレジデントに搭載されていたV型8気筒エンジンで実用化され、1976年7月に発売されたプレジデントは、50年排ガス規制を日産車としては初めてクリアするなど、公害対策の先駆として大きな成果を残した。そのNAPSをグロリア(とセドリック)のクラスにも拡大採用したのである。
NAPSの構成は、プレジデントが電子制御燃料噴射装置(EGI)と組み合わせているのに対して、グロリア系では従来からのキャブレターに組み合わせている点が違っていた。その他にもエアポンプを使った2次エア供給装置や触媒コンバーター、排気ガス再循環装置(EGR)などを加えている。つまり、窒素酸化物や二酸化炭素などエンジンの燃焼で生まれる有害物質を、様々な手段やデバイスを使って無害な成分に変化させ、あるいは大量の空気と混ぜることで、その濃度を無害に近い程度にまで低く抑えようとするものだった。これらの排気ガス浄化対策により、公害物質の排出や濃度は抑えられたものの、エンジン性能の低下は避けられなかった。そこで、エンジンの排気量を拡大するなどの方法で絶対的な性能の低下を抑えていた。この当時の公害対策は、まさにエンジン性能向上と排気ガス浄化の「イタチごっこ」状態だったのである。
330型グロリアでは、セドリック系と基本的にはボディシェルを共用し、ラジエターグリルの意匠やテールライト周りのデザインなどを変え、個性を強調する。セドリック系も含め、新しいスタイルとなったグロリア系は、ボディラインは旧型の端正なものから、抑揚を強くし、クロームメッキの縁取りやガーニッシュ(飾り)を増やすなど、見た目の豪華さを強調、悪趣味とさえ言われた時代のアメリカ車を彷彿させるものとなっていた。
ボディバリエーションは4ドアセダンと4ドアハードトップ、2ドアハードトップ、そしてバンの4種で、6名ないし5名乗車が可能となる。6名乗車が可能なモデルは、コラムシフトと前席をベンチタイプのシートを組み合わせた場合で、主にタクシーや法人向けとされていた。グレードはエンジンの排気量などの違いもあるが、セダン系で6種、ハードトップ系で4種、バン系で2種があった。
内装はグロリア系もセドリック系も基本的に変るところはなく、インスツルメンツパネルはセダン(バン)系には矩形のメーターが、ハードトップ系には円形メーターが組み合わされる。ステアリングのスタイルも3スポーク型は同じだが、デザインは異なるものとなっていた。ウッドパネルの使い方はまだわずかな部分に留まっており、時代性を感じさせる。充実した安全装備の主なものは、灯火類の断線やブレーキオイルの不足などを知らせる集中警告灯、ELR装置付きシートベルト、合わせガラスを採用したフロントウィンドウ、集中ドアロックシステムなどが標準装備となっている。
フロントに縦置きされ、後2輪を駆動するエンジンはガソリンが2種(デビュー当初)。セドリックに設定の直列4気筒ディーゼル仕様はなく、1977年に2.2リッターディーゼルが加わっている。ガソリン仕様は全て直列6気筒SOHC12バルブ、排気量1998㏄(L20型、出力115ps/5600rpm)、および排気量2753㏄(L28型、出力140ps/5200rpm)となっていた。およそ100㎏も増えた車両重量と入念な排気ガス対策により、1998ccユニットは、実用上のパフォーマンスの低下は隠しようがなかった。ただしトップエンジンの2753ccバージョンは、旧来よりエンジン排気量を拡大した効果で性能が向上していた。
トランスミッションやサスペンションなどの基本部分は、旧型である230系からのキャリーオーバーとなっていた。しかしながら、NAPS仕様によるエンジン性能の低下は、グロリア(とセドリック)系の高かった人気に大いなるマイナスとなったようで、旧型(230系)でライバルのトヨタ クラウンを販売台数で抜いたのも束の間、再びクラウンの独走を許す結果となってしまった。以後、グロリア(とセドリック)は、クラウンを販売台数で超えることはできなかった。
日本的な高級車のひとつの典型となった感のある330系グロリアは、今日でもそのスタイリングには独特の魅力があると言える。高級車の造型が、やや過剰だった最後の時代を象徴するモデルだ。