That’s(ザッツ) 【2002,2003,2004,2005,2006,2007】

「日常的な身の回りのモノ」がテーマのシンプル軽

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新提案型軽ハイトワゴンの開発

 1990年代中盤から2000年代初頭にかけての軽自動車市場は、スズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴを中心とするハイトワゴンが人気を集めていた。このカテゴリーにライフを投入していたホンダは、さらなるパッケージ効率の向上を目指して新ジャンルの軽乗用車を企画する。開発コンセプトは「さりげなく使える日常的な身の回りのモノ」。シンプルで使いやすく、スマートで個性的な新提案型の軽ハイトワゴンの創出を目指した。

 プラットフォームは、3代目ライフ用をベースに車高の引き上げに合わせた専用チューニングを施す。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビーム(4WDはド・ディオン)で、ダンパー減衰力の最適化やスタビライザーの大径化を実施して走行安定性を向上。同時に、大型断面ピラーや高張力鋼板の拡大展開などによってボディ剛性を高める。傷害値の低減と生存空間の確保を高水準で両立する“Gコントロール”や新しいエネルギー吸収ボディ構造も取り入れた。

 搭載エンジンはE07Z型656cc直3OHC12VのNA(自然吸気)版とインタークーラーターボ版を設定する。パワー&トルク値はNAが52ps/6.2kg・m、ターボが64ps/9.5kg・mを発生。ミッションには3速ATを組み合わせ、駆動機構はFFとリアルタイム4WDの2タイプを用意した。開発陣は環境性能にも配慮し、全タイプで“優−低排出ガス”認定を取得。FFについては平成22年燃費基準にも適合させた。

車名は「That is=あれだッ」の短縮形

 エクステリアは、“Simple-hearted Style”(気取らないスタイル)をテーマに、mono感覚のカタチでデザインを演出する。基本フォルムは“ラウンドスクエアデザイン”(角を丸めた箱)で構成。ヘッドライトやドアミラー、リアコンビネーションランプも同様のイメージで仕立てた。また、ガラスエリアをできるだけ長く設定し、伸びやかな空間を外からでも感じられるようにアレンジする。ほかにも、運転席からボンネットがしっかり見えるようにデザインしたシンプルなフロントノーズ、1本のストライプに見えるようなキャラクターラインとフラット形状のホイールアーチ、デザイン性と機能を両立させたリアクオーターウィンドウなどを採用。外観全体で力強さや遊び心を表現した。

 インテリアについては、自分の時間を大切にしたくつろぎのスペース=プライベートスペースの実現を目指した。基本パッケージはライフを上回るキャビンスペースを確保したうえで、ルーフ四隅をドライバーから可能な限り遠ざけて頭上回りの開放感を実現。同時に、ルーフライニングとインテリアトリムを結ぶ部分に角を作り、境を明確にすることで広がり感と部屋感覚を演出した。また、前席には新開発の専用薄型フレームを内蔵したセパレートシートを、後席にはフォールダウン式の5対5分割式シートを装着し、機能的で心地よい着座感を実現する。内装デザインにも工夫を凝らし、部屋の壁として見立てたドアライニングやテーブルを表現したデスクトップ・インパネ、スティックにボール形状のノブをあしらったコラム式シフトレバー、遊び心あふれるシート・ネームタグなど、個性的なアイテムを豊富に配備した。

 ホンダの新提案型軽ハイトワゴンは、まず2001年開催の第35回東京モーターショーにおいてプロトタイプ版の「w・i・c」として初披露。翌年の2月になって、市販モデルが「That's(ザッツ)」のネーミングを冠してリリースされた。車名は「That is」の短縮形で、ユーザーが思わず「あれだッ」と言ってしまうような、親しみを持てる存在のクルマになるようにという開発陣の気持ちが込められていた。

1代限りでモデルライフを終了

 That'sの車種展開は非常にシンプルで、NAエンジン仕様の「That's」とターボエンジン仕様の「That's TURBO」に、それぞれFFと4WDを用意する。一方、ボディカラーの設定は多彩で、7タイプのスタンドカラーと7タイプのツートンカラー“ポップカラー・コンポーネント”という計14色をラインアップした。

 市場に放たれたThat'sは、実用性の高いパッケージングや個性的な内外装の演出などで好評を博す。とくに2004年10月に発売した「スペシャルエディション」は、ベース車比で17万7000円安の価格設定(85万7000円〜111万2000円)も相まって、シリーズの販売台数を大いに引き上げた。

 That'sのデビューから4年ほどが経過した2006年2月、ホンダは実質的な後継車となる軽ハイトワゴンの「ゼスト」を発表する(発売は3月)。同車は当初、ダイナミック感やスポーティ性をメインに強調していたため、キャラクターがやや異なるThat'sはNA仕様のみをマイナーチェンジして継続販売された。しかし、2007年8月にゼストの特別仕様車である「スペシャル」がベース車比2〜3万円安のお買い得価格で発売されると、That'sの存在感は希薄となった。結果的にThat'sは同年9月に生産を終了し、1代限りでそのモデル生涯を閉じたのである。