RS6 【2002,2003,2004】

V8ツインターボを搭載した最強4シルバーリングス

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アウディ・ブランドのさらなるアピールを目指して−−

 1990年代終盤から2000年代初頭にかけての自動車業界は、世界規模で自動車メーカーの合従連衡が進んだ時代だった。経済マスコミは「400万台レベルの生産台数を確保しないと自動車メーカーとして生き残れない」などと指摘。ダイムラー・クライスラーや日産・ルノーといった大型合併のほか、GMやフォードなどの名だたる大メーカーが拡大戦略を相次いで実施した。

 ドイツ最大の自動車企業であるフォルクスワーゲン・グループも、ベントレーやランボルギーニの買収、ポルシェとの提携強化、ブガッティの再興など、積極策を矢継ぎ早に実行していく。一方で既存ブランドのイメージアップやラインアップ拡充なども鋭意敢行し、とくにプレミアムブランドのアウディに関しては大いに力が入れられた。

 ブランドイメージ向上のためにアウディAGがとった戦略は、プレミアム性のさらなるアピールだった。その一環として、高性能なスポーツモデルの企画を積極的に推し進める。活用したのは傘下の子会社で、少量生産のハイパフォーマンスモデルやスペシャルパーツなどの開発・生産を手がけていたクワトロ社(quattro GmbH,現アウディスポーツ)だ。メルセデス・ベンツにおけるAMG社、BMWにおけるBMW M社にあたるクワトロ社は、1983年10月にネッカーズルムで設立されて以来、黒子のような存在でアウディのハイパフォーマンスモデルを生み出してきた。アウディAGはその力量を、さらに大規模かつ広範囲に活かそうとしたのだ。

新世代の超高性能車は傘下のクワトロ社が企画

 クワトロ社はまず手始めに、かつてアウディ・ブランドの超高性能車として名を馳せた“Renn Sport”こと“RS”シリーズの復活を企画する。最初に手がけたのはB5系A4アバント(正確にはその高性能版のS4アバント)をベースとするハイパフォーマンスモデルで、専用セッティングの強化型シャシーに2671cc・V6DOHCツインターボエンジンを搭載した「RS4」を2000年に発表した。

 端正かつ存在感のあるスタイリングは“RSルック”と称され、卓越した走行性能とともに市場から大好評を博した。自信を深めたクワトロ社は、さらなるハイパフォーマンスを求めて、C5系A6およびその高性能版のS6をベースとするRSモデルの設定を企画する。ボディタイプはアバントのほかに、RSシリーズ初のセダンをラインアップした。

V8ツインターボ搭載スーパーモデルの開発

 RS6の搭載エンジンには、アウディ傘下のコスワース・テクノロジー社とクワトロ社が共同でチューニングしたオールアルミ製BCY型4172cc・V型8気筒DOHC40Vインタークーラーバイターボ(ツインターボ)ユニットを採用する。燃料供給装置はシーケンシャル式の電子制御式マルチポイントフューエルインジェクションで、エンジンマネジメントには専用タイプのボッシュ・モトロニックME7.1.1をセット。最高出力の450psを5700〜6400rpm、最大トルクの57.1kg・mを1950〜5600rpmの回転域で発生した。

 組み合わせるトランスミッションはZF製5HP24A型5速ティプトロニックAT(パドルシフト付き)の1機種で、ギア比は1速3.571/2速2.200/3速1.505/4速1.000/5速0.804/後退4.095/最終減速比・前3.197:後3.186に設定。駆動機構には最新システムのクワトロ(フルタイム4WD)を導入した。

 強力なエンジンを支えるシャシーは、A6用の前4リンク/後ダルブウィッシュボーンをベースに徹底したチューンアップを図る。前後ともに専用スポーツサスペンション(標準比でスプリングレート30%、ダンピング圧40%アップ)およびスタビライザーバーを組み込むとともに、ダンパーをX状に結合して常にボディバランスをフラットに保つ新開発のダイナミックライドコントロール(DRC)を装備した。組み合わせるシューズは255/35R19タイヤ+9J×19サイズ・デザインアルミホイール。制動機構には前後ベンチレーテッドディスクブレーキを採用し、フロントには8ピストン対向型キャリパーを配する。また、ASR(アンチスリップレギュレーション)やEBD(エレクトロニックブレーキ圧配分)付きABS、EDS(エレクトロニックディファレンシャルロック)を連結させた、操縦安定性を統合的に電子制御するボッシュESP(エレクトロニックスタビリティプログラム)5.7システムも組み込んだ。

端正かつ上質な内外装で高性能をさりげなく主張

 スーパースポーツに匹敵する超高性能なメカニズムとは対照的に、RS6の内外装は“さりげない主張”をテーマに端正かつ上質なデザインで仕立てられる。
 エクステリアでは、大径タイヤを収めるためにフェンダー部の張り出しを増やしてワイド化(全幅はA6比で+40mm)するとともに、専用フルカラードバンパーやサイド大型ドアアンダープロテクター、リアスポイラー、ハニカム形状のメッシュグリルおよびイン&アウトレット、2本出しエグゾーストテールパイプなどを装備してスポーティ感を強調。

 インテリアでは、ブラックやグレー、シルバーといった落ち着いたカラーを基調に、レカロ製の電動調整式スポーツシートや革巻きのステアリングホイール/シフトノブ/ハンドブレーキグリップ、ウッド材のデコラクティブパネル、BOSEサウンドシステム、電動チルト式2ウェイガラスサンルーフなどの上級アイテムを配備する。また、ウッド材ではポプラやメープル、ウォールナット、バボナ、オークなどの素材を、本革ではファインナッパやバルコナ、アルカンタラなどの素材を選択できるようにアレンジした。

凄まじいトルク感と高い走行安定性で走り好きを魅了

 クワトロ社によってホワイトボディのレベルから徹底した剛性アップを施し、ハイパフォーマンスのアッパーミドルクラス車に仕上がった逸品は、2002年開催のジュネーブ・ショーにおいてワールドプレミアを飾る。車種展開はセダンのRS6とワゴンのRS6アバントを設定。メーカー公表値の最高速度は250km/h(リミッター作動)、0→100km/h加速は4.7秒に達した。

 ショーデビュー後の6月より量産が始まり、市場に放たれたRS6は、強大なトルクを活かしたポルシェ911ターボと同等の凄まじいまでの加速に卓越したスタビリティ性能、レスポンスのいいブレーキ、そしてシックでプレミアム感満点のスタイリングと緻密に作り込まれた内装などが、ユーザーから好評を博す。ライバルとしてはBMWのM5やメルセデス・ベンツのE55AMGといったジャーマンハイパフォーマンスカーがあげられたが、アウディならではのクワトロシステムの採用やアバントの設定などが、独自のキャラクター作りに貢献していた。

最終エボリューションモデル、plusの内容

 RS6は最終的に2004年9月まで生産されるが、そのモデル末期の2004年4月〜9月には最終限定仕様となるアバントの「RS6 plus」が造られた。搭載エンジンはコスワース・テクノロジーによって再チューニングが行われ、最高出力は476ps/6000〜6400rpm、最大トルクは59.1kg・m/1950〜6000rpmにまでアップ。また、新しいECUやラジエター、クロスドリルド・ディスクブレーキ、“anthracite”アルミホイールなども組み込まれる。結果としてRS6 plusは、メーカー公表値の最高速度が280km/h、0→100km/h加速が4.4秒に達した。ちなみに、日本でもアバントのRS6 plusが2004年7月に限定で発売されたが、搭載エンジンは450ps仕様を継続していた。

 アウディのプレミアムカーブランドとしてのイメージをいっそう引き上げ、同時に傘下のクワトロ社の実力の高さを世に知らしめたハイパフォーマンスモデルのRS6。その存在価値を高く評価したアウディAGは、以後のA6シリーズでもクワトロ社とタッグを組みながら鋭意RS6をラインアップしていったのである。