サイパクト 【1999】

直噴ディーゼルを搭載したコンパクトカーの新提案

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日産版“3リッターカー”の提案

 3Lの燃料で100kmを走行できる“3リッターカー”。欧州市場で提案されたこのエコカーの新基準に対し、日産自動車は1999年9月開催のフランクフルト・ショーと1999年10月開催の東京モーターショーにおいてひとつの回答策を提案する。コンパクトなクーペボディに新開発の直噴ディーゼルエンジンを搭載した「CYPACT」(サイパクト)を、雛壇に上げたのだ。

 ハイテクをイメージさせる“Cyber”に、“Compact Car”を組み合わせて命名されたサイパクトは、「環境への優しさと、新しいカーライフを提案する、コンパクトなスポーティエコカー」をキャッチフレーズに掲げる。具体的には、「超低燃費の3リッターカー」「スポーティなクーペスタイル」「情報ツールとして活用できるITS技術の採用」を特徴とした。

搭載エンジンは新開発の「NEO Di」

 サイパクトの詳しい内容を紹介しよう。駆動レイアウトは2WDのFF(フロントエンジン&フロントドライブ)で、エンジンには日産独自のM-Fire燃焼(燃料噴射時期の最適化/強いスワールの生成/大量EGRを組み合わせた低温予混合燃焼方式)やコモンレール式燃料噴射システム、可変ノズルターボなどの先進技術を組み込んだ“NEO Di 小型ディーゼルターボ”を搭載する。排気量は未公表だったが、当時ショー会場で担当エンジニアに尋ねたところ、「1l〜1.5Lの範囲」とコメントしていた。

 パワー&トルクは55kW(約75ps)/4200rpm、160Nm(約16.0kg・m)/2000rpmを発生する。また、NEO Di 小型ディーゼルターボはユニット自体の軽量化や低フリクション化も最大限に重視。シリンダーブロックにはアルミ材を採用し、同時に各種可動部の摩擦および振動の徹底的な抑制も図った。組み合わせるミッションは、専用チューニングの5速MTだ。

 シャシーに関しては、前ストラット/後5リンクのオーソドックスな形式を採用する。ただし、タイヤについては先進の“ランフラットタイヤ”(サイズは175-580 380A)を装備。当時のエンジニアによると、「最新のエコカーをより安心して乗れるように、万一パンクしてもしばらく走れるランフラットタイヤを装着した」という。

スポーティな内外装を創出

 新提案の3リッターカーは、内外装の演出にも大いにこだわった。エクステリアについては、「どんな場所にもピタッとはまる」クーペスタイルを基本とする。ボディサイドはタイヤの踏ん張り感を強調したデザインで、彫りの深さとシャープなラインで構成。フロントビューはエンジンフード先端をバンパー部にまで食い込ませた個性的な造形を採用し、スポーティな中にもフレンドリーな雰囲気を創出した。緩やかに弧を描く後端ラインと大きな絞り込み、そして独創的な形状のコンビネーションランプが生み出すリアビューも、見る者にクーペボディらしい小気味よさを印象づける。ボディサイズは全長3740×全幅1630×全高1420mmで、ホイールベースが2360mmと、マーチのクーペ版といえるディメンションに仕上げた。

 インテリアに関しては、「クリーン&スポーティ」をメインテーマに開発が進められる。カラーコーディネーションはホワイトとブルーのツートンで構成し、明るいイメージの室内空間を実現。シートは軽量化を図りながらもホールド性に優れる薄型タイプを装着した。ほかにも、スポーティ性を強調する独立3眼メーターや操作性と視認性を両立させたセンターパネルなど、随所に“スポーティエコカー”らしいアイテムを装備する。

新しいカーライフを実現させるためのITS技術

 サイパクトにはエコ性能のほかに、もうひとつの大きな特長があった。ITS(Intelligent Transport Systems。高度道路交通システム)技術をフル活用した新機構の搭載である。エクイップメントでは立体バードビューナビゲーション(7インチワイドモニター表示)やコンパスリンク(情報提供サービス)、高速道路の自動料金収受システムなどを設定。さらに、モバイルPCとの接続も可能とし、人とクルマの新しいコミュニケーションの形を提案した。

 サイパクトで提示された新技術や内外装のアレンジは、その後の日産車に形を変えながら組み込まれていく。その意味で、サイパクトは21世紀に向けた日産製コンパクトカーのランニング・プロトタイプだったのである。