シボレー・カマロ 【2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015】

初代をリスペクトした渾身の第5世代

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初代をリスペクトした渾身の第5世代

 GMのシボレー・ブランドにおいての象徴的なモデルであり、アメリカンスペシャルティの代表格でもあるカマロ。第4世代となるモデルは2002年に生産が中止され、4年ほど経過した後の2006年に開催されたNAIAS(北米インターナショナルオートショー)において、GMは第5世代カマロのコンセプトモデルを雛壇に上げた。

 初代を彷彿させるマッスルカー然とした車両デザインに、最新のテクノロジーを加えたカマロ・コンセプトは、来場者の熱い視線を集め、同ショーの花形の1台になった。さらに、2007年開催のNAIASではカマロ・コンバーチブルのコンセプトモデルが登場。その完成度の高さから、第5世代カマロの市販化は秒読みと予想された。事実、GMでも2008年末に第5世代カマロの生産を開始し、2009年モデルとして市販化することを計画していた。

 しかし、外的要因がそれを拒んだ。2008年9月にアメリカの投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻したことに端を発する大規模な金融危機、いわゆるリーマン・ショックが勃発したのだ。

リーマン・ショックの影響でGMの経営が破綻

 金融危機の余波を受けて、GMの新車販売台数は急激に落ち込み、経営状態も逼迫する。そして2009年6月には、GMが連邦倒産法第11章の適用を申請。負債総額は約1728億ドル(約16兆4100億円)と、製造業として過去最大の額にのぼった。翌7月になると、全株式のうちの61%を米国政府が、残りをカナダ政府や全米自動車労組(UAW)などが受け持つ新会社が設立され、社名をMotors Liquidation Co.(モーターズ・リキデーション・カンパニー)とする。ここに優良資産などを売却した後、新生GMが発足した。新生GMは懸命のリストラ策を実施して経営の健全化を図り、2010年11月にはニューヨーク証券取引所に上場。そして2013年12月には、GMの国有化が終了(米国財務省がGMの全保有株を売却)して民間企業に復帰した。

 会社本体の経営が逼迫し、またパーツ生産を依頼していたサプライヤーが相次いで経営破綻するなか、それでもカマロの開発チームは懸命にプロダクションモデルの企画を推し進めていく。そして2009年3月になって、ついに第5世代を生産ラインに乗せることにこぎつけた。

7年の空白期間を経てカマロが復活

 プロダクションモデルの第5世代カマロは、2010年モデルとして2009年4月に発売される。カマロの新車が市場にカムバックしたのは、実に7年ぶりの出来事だった。ボディタイプは4名乗りクーペのみの設定で、グレード展開は6.2L・V8エンジンを搭載するSSと、3.6L・V6エンジンを採用するLS/LTをラインアップ。よりスポーティなアピアランスが楽しめるRSパッケージなども用意した。

 第5世代のカマロは、コンセプト版のスタイリングを忠実に再現していた。第1世代のカマロをリスペクトしたロングノーズで力強いフロントビューに、抑揚があってアグレッシブな造形のフェンダーライン、そしてボリューム感満点で迫力のあるリアビューなど、スタイル全体でアメリカンマッスルカーを体現する。骨格を形成するプラットフォームについては、後輪駆動用のGMゼータ系を基本とする。ホイールベースは2855mmに設定。また、ボディには超高張力鋼板を多用し、軽量かつ高剛性に仕立てた。組み合わせるサスペンションは最新のユニットで、フロントにダブルボールジョイント・ストラット式を、リアにマルチリンク式を採用する。タイヤにはSS系に前245/45ZR20、後275/40ZR20サイズのサマータイヤを、LS/LT系に245/55R18サイズのオールシーズンタイヤを装着した。

 搭載エンジンはボア103.25×ストローク92.0mmに設定した6162cc・V8OHVのLS3型(426ps/58.0kg・m)とアクティブフューエルマネジメントシステム付き(低負荷時に片バンクを休止させる可変気筒システム)L99型(405ps/56.7kg・m)、ボア94.0×ストローク85.6mmに設定した筒内直接噴射式3564cc・V6DOHCのLLT型(308ps/37.7kg・m)という3機種をラインアップする。トランスミッションはLS3型にTR6060型の6速MTを、L99型に6L80型の6速AT(ステアリングタップシフト付)を、LLT型に6L50型の6速AT(ステアリングタップシフト付)とAY6型の6速MTを組み合わせた。

 ブレーキは前後ともにベンチレーテッドディスクが装備され、V8モデルには前φ355mm×32mm厚/後φ365mm×28mm厚のローターとブレンボ製4ポットキャリパーを、V6モデルには前φ321mm×30mm厚/後φ315mm×23mm厚のローターとシングルポットキャリパーをセットする。また、スタビリトラック(車両安定性制御システム)やTCS(トラクションコントロールシステム)、タイヤ空気圧モニターといった先進機構も組み込んだ。

2011年モデルでコンバーチブルも復活

 第5世代のカマロはデビュー当初、自動車市場全体がリーマン・ショックの影響で冷えきっていたこともあり、あまり販売台数を伸ばせずにいた。しかし、2010年モデルの途中に限定でリリースしたトランスフォーマー特別仕様車が起爆剤となり、カマロの注目度は高まっていく。また、2009年開催のSEMAショーに出展された斬新なコンセプトカー群(Jay Lenoカマロ/Synergyカマロ/Chromaカマロ/カマロDusk)やインディアナポリス500ペースカー・スペシャルエディション(RPO Z4Z)などもスポーツカー好きから熱い視線を浴びた。

 2011年モデルになると、待望のオープンモデルがコンバーチブルの名で登場する。ルーフ部は電動開閉式のソフトトップで仕立て、クローズド→フルオープンは約20秒でこなす。格納されたソフトトップは、リアデッキ部にきれいに収まるようにデザインした。また、ソフトトップ自体はヘッドライナーに吸音効果を持つ特殊フォームを組み込み、クローズド走行時における優れた室内静粛性を確保する。ボディ強化に関しても抜かりはない。Aピラーおよびフロントウィンドウフレームやキャビン回りを補強するとともに、フロントサスペンション上部には強化タワーバーを、フロア下には補強バーを設置し、強靱なオープンボディを構築した。

往年のグレード名を冠して高性能モデルがデビュー

 2012年モデルではV6エンジンがLFX型(327ps/38.4kg・m)に換装され、またSSには新しいFE4サスペンションパッケージが設定される。さらに、インパネやステアリングなどのデザイン変更も行った。

 車種展開では、ZL1グレードの復活が大きなニュースとなった。1969年に69台限定で生産され、その高性能ぶりが注目を集めたZL1。第5世代では、搭載エンジンにLSA型6162cc・V8スーパーチャージド(580ps/76.9kg・m)を採用し、排気系にはデュアルモードパフォーマンスエグゾーストシステムを、トランスミッションにはTR-6060 MG9型6速MTと6L90型6速ATをセットする。制動機構には4輪ハイパフォーマンスブレーキシステムを組み込んだ。ボディタイプはデビュー当初がクーペのみの設定で、2013年モデルからコンバーチブルが加わった。

伝説のスポーツ版Z/28グレードの復活

 往年のスポーツグレードの復活は、2014年モデルでも実施される。1967年に初めて設定され、以後カマロのハイパフォーマンスモデルのシンボルとなったZ/28が、第5世代でもラインアップされたのだ。2014年モデルのZ/28はモータースポーツに的を絞って各部の仕様が決定される。

 搭載エンジンはLS7型7008cc・V8OHV(512ps/66.5kg・m)で、レーシングスタイル・コールドエアインダクションシステムや大型K&Nエアフィルター、大型ダイアメーターパイプ・デュアルモードエグゾーストシステムなどを組み込む。トランスミッションには専用セッティングのTR6060型6速MTをセットし、ヘリカルギア式のLSDも導入した。足回りの強化も行い、ダンパーおよびスプリングなどをハード方向にチューニングするとともに、タイヤにはピレリP ZERO TROFEO Rの305/30ZR19サイズを、ブレーキにはブレンボ製カーボンセラミックマトリクスディスクを装備する。一方、外装ではフルエアロダイナミックパッケージを、内装ではマットメタリックフィニッシュのトリムやフラットボトムドステアリングホイールなどを採用した。

 会社本体の紆余曲折を乗り越えながら、スペシャルティカーとしての本来の姿を回復し、同時に正常進化を果たしていった第5世代のカマロ。その道程は、歴代カマロのなかで最も波瀾万丈だったといえるだろう。苦労の末にシボレー・ブランドのアイコンに成長した真の“スペシャル”モデル−−それが第5世代カマロの名車たる所以なのだ。