TRI-X(コンセプトカー) 【1991】

21世紀の命題に応えた高級ラグジュアリー

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21世紀の課題をクリアーしたラグジュアリークーペ

 1991年の東京モーターショーで、日産ブースのメインステージに展示されたTRI-Xは、日産が考える21世紀の高級ラグジュアリークーペだった。日産は21世紀のクルマには「安全の確立」と「環境の保護」という、人類共通の課題のクリアーが求められると考えていた。ちょうど人が大人になり、周囲に対して思いやりや責任を身に付けていくのと同様、クルマも発明から約100年が経過した21世紀には、周囲のすべての者に対して、誠実であること、責任を持つことが必要と考えたのだ。世界を舞台に活躍する企業市民としてしごく真っ当な考え方である。

 日産は「安全」と「環境」という21世紀の課題に対し、従来以上の走る楽しさ、美しさ、快適さを実現した上で対応する手法を選択。それを1台のクルマとして結実させた。それがTRI-Xである。TRI-Xというネーミングは1980年に登場したレパードTR-Xに似ているが、日産では公式にはその関係性を認めていない。しかしTRI-Xの開発コンセプトの多くは1992年に登場した4ドアスペシャルティのレパードJフェリーとオーバーラップする。TRI-Xは3代目レパードとなったJフェリーの先行開発コンセプトカーだったのかもしれない。

新しい高級感、もてなし感の創出

 TRI-Xは、新しい高級感、もてなし感を表現していた。走りでは、代替えエネルギーとして期待されるガソリン・メタノール混合燃料でも走行が可能な新コンセプトエンジンを搭載。ラグジュアリークーペに相応しいダイナミックなパフォーマンスを保ちながら環境問題にも対応した。プレビュー・アクティブサスペンションにより、乗り心地とアクティブセーフティを高めた新次元のドライビングプレジャーを実現したのもポイントだった。さらに燃費向上のため車両全体の軽量化にも積極的に取り組んでいる。ボディ外販にはチタンやアルミを採用。軽量化とともにリサイクル性も引き上げていた。

 スタイリングについても十分に吟味された。造形はあたっては、単に美しいだけでなく周囲との調和もつねに意識したという。TRI-Xがプロポーション本来のバランスや、シンプルな表面処理で美しさを表現したのはその現れだった。造形手法には日本独自の美意識が存分に生かされていた。もちろん遊びゴコロも忘れていない。メーターやワイパーの動きなどにはTRI-Xならではの繊細な演出を取り入れた。心地いい空間作りという面でも大型木目コンソールパネルや間接照明を採用すると同時に、ツインエアバッグや特定フロンをいっさい使用しないエコロジーエアコンなどで安全・環境に対しての配慮も積極的に行っていた。

V8エンジンはエタノール混合燃料対応型!

 注目のメカニズムを解説しよう。パワーユニットはVH-X型メタノール対応コンセプトエンジン。排気量4494ccの排気量を持つV8DOHC32Vである。320ps/6400rpmの伸びやかなパワーを誇り、ネーミングどおりガソリンだけでなく代替え燃料のメタノールにも対応した。メタノールの混合比率は0〜85%の範囲で任意に設定可能で、各部の軽量化や高熱伝導バルブガイド、クランクシャフトやカムシャフトのマイクロフィニッシュ処理により徹底的に効率を高めたのが特徴だった。排気ガスのクリーン化や低燃費にも先進技術を導入し時代に先駆ける環境エンジンに仕上げていたのは言うまでもない。

 足回りの焦点はプレビュー・アクティブサスペンションである。1989年登場のインフィニティQ45に搭載した油圧アクティブサスペンションをさらに発展させたシステムだった。前輪でキャッチした路面情報に応じて後輪を最適制御するプレビュー制御をプラスすることで一段と快適な乗り心地を実現する。また高速走行時の安定性、旋回能力を磨き込むことで新たなドライビングプレジャーを獲得していた。

 安全性とラグジュアリーカーらしさの演出という意味でワイパーやメーターが興味深かった。ワイパーは日本舞踊の手の動きをヒントに美しい動きを表現。動作スピードに緩急をつけることで趣ある優雅さを演出するとともに、ドライバーの視線前方を通過するスピードを速くし良好な視界確保も計算したのだ。メーターは“遠方結像メーター”と呼ぶ5層構造の立体アナログメーター。ブラックフェイスの中に、発行するポインタや文字が立体的に浮かび上がるだけでなく、レンズの特殊効果により実際の位置よりも遠方に像が結ぶことで見やすさを計算していた。ドライバーの焦点距離の移動が少なく、安全な走行をアシストしたのだ。

 TRI-Xは先進技術が人に寄り添い、積極サポートする高級ラグジュアリーカーだった。そのコンセプトは最新の日産車に生かされている。コンセプトカーは夢の存在ではなく、技術者の夢を量産車へと橋渡しするための現実的な存在なのである。