レパード 【1986,1987,1988,1989,1990,1991,1992】

先進テクノロジーを満載した第2世代スペシャルティ

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高級スペシャルティ分野でのシェア復活を目指して−−

 国産初の高級スペシャルティカーとして、1980年9月に市場デビューを果たしたF30型の初代レパード。しかし、5カ月ほど後に市場に放たれた初代トヨタ・ソアラに市場の注目が集まり、結果的に初代レパードの影は薄くなってしまった。日本の自動車ユーザーの上級指向は1980年代後半に向けてますます高まり、高級スペシャルティ市場もさらに活気づく。そう判断した日産の開発陣は、高級スペシャルティ分野での復権を目指して次期型レパードの企画を意欲的に推し進める。時代はバブル景気の助走期。開発資金や人員も豊富に投入された。

 次期型を企画するに当たり、開発スタッフは「大人のライフスタイルをハイセンスに演出するプレステージ・スペシャルティカー」を創出するという基本テーマを掲げる。具体的には①“優美さ”と“しなやかさ”を表現した2ドアクーペスタイル ②高級・高性能なV6エンジンバリエーション ③乗る人を包み込むような一体感、高品質感漂うインテリアの実現を目指した。

先進技術の積極的な投入

 スタイリングはCd値(空気抵抗係数)0.32の優れた空力特性を実現したうえで、ダイナミックで優雅なプロポーションやプレステージ性を強調した8連式マルチヘッドランプ、個性的で洒落たイメージの大型リアコンビネーションランプなどを採用する。ボディタイプはソアラと同様に2ドアクーペ(従来モデルは4ドアハードトップも用意)の1本に絞った。

 インテリアについては、フロント部からドアトリム、リアシートに至るまでのラインを連続化させ、乗員を包み込むようなラウンド形状の室内スペースを創出する。また、シートやトリム地にツイード調の上質な素材を多用し、高級スペシャルティらしい落ちつきと高品質感が漂う空間に仕立てた。さらに、助手席専用の“パートナーコンフォートシート”や全面一体カラー液晶表示の“グラフィカル・デジタルメーター”、各種機能を組み込んだ“光通信ステアリング”、専用カードの携帯でドアのロック&アンロックおよびトランク解錠ができる“カードエントリーシステム”といった新技術を積極的に盛り込んだ。

 搭載エンジンは気筒別燃料制御システムやNVCS(日産バルブタイミング・コントロール・システム)を採用した新開発のVG30DE型2960cc・V6DOHC24V(185ps/25.0kg・m)を筆頭に、VG20ET型1998cc・V6OHCジェットターボ(155ps/21.3kg・m)、VG20E型1998cc・V6OHC(115ps/16.6kg・m)という計3機種の“PLASMA”ユニットを設定する。組み合わせるミッションはVG30DE型とVG20ET型が4速ATのみで、VG20E型は5速MTと4速ATを用意。ATは全車ともにパワー・エコノミー自動切り換え式スーパートルコンを組み込んだ。足回りはジオメトリーの最適化やロール剛性の強化などを実施した改良版の前マクファーソンストラット/後セミトレーリングアームの4輪独立懸架で、最上級仕様には電子制御でダンパーの減衰力をソフト/ミディアム/ハードの3段階に自動的に切り換える“スーパーソニックサスペンション”を採用する。また同仕様では、ラック&ピニオン式のステアリング機構に車速感応油圧反力式パワーステを、4輪ベンチレーテッドディスクブレーキに4WAS(4輪アンチスキッド)を組み合わせた。

キャッチフレーズは「かぎりなく自由だ。かぎりなく豊かだ」

 最大のライバルであるトヨタ・ソアラが2代目に移行してから1カ月ほどが経過した1986年2月、F31の型式を付けた2代目レパードが満を持して市場デビューを果たす。キャッチフレーズは新プレステージ・スペシャルティカーの特徴を表す「かぎりなく自由だ。かぎりなく豊かだ」。グレード展開はVG30DE型エンジンを搭載する最上級仕様のアルティマ、VG20ET型を積むXS系、VG20E型を採用するXJ系をラインアップした。また、従来モデルで用意していたチェリー店系列向けのレパードTR-Xは廃止され、レパードの1モデルに統一される。

 新しいレパードは、“世界初”または“わが国初”の技術の採用をカタログや広告などで声高に謳っていた。世界初は気筒別燃料制御システムやパートナーコンフォートシート、日本初はNVCSやNICS(日産インダクション・コントロール・システム)/ツインスロットルチャンバーなど。ほかにもスーパーソニックサスペンションや車速感応油圧反力式パワーステ、4WAS、高品位4コート塗装、デュラスチール(新防錆処理鋼板)、カードエントリーシステムといった新機構をユーザーにアピールした。

 高級スペシャルティカー・カテゴリーでのシェア拡大を目指して、万を持してデビューしたF31型系レパード。しかし、2954cc直6DOHC24Vターボエンジン(7M-GTEU型)仕様をイメージリーダーとする2代目ソアラの牙城は崩せず、さらに本来は格下であるはずの2代目ホンダ・プレリュードにも人気や販売成績の面で大きく遅れをとった。

 この状況を打開しようと、開発陣はレパードの改良を相次いで実施する。1987年6月にはモケットシートやAVシステムなどの快適アイテムを備えた“グランドセレクション”を追加。1988年8月には「若いというだけでは、手に負えないクルマがある」というキャッチを冠したマイナーチェンジを敢行し、内外装に新鮮味を与える。同時にVG30DET型2960cc・V6DOHC24Vターボ(255ps/35.0kg・m)やVG20DET型1998cc・V6DOHC24Vターボ(210ps/27.0kg・m)といった新エンジンの設定も行った。

中古車市場で再評価されたF31型系

 内外装のリファインやエンジンのラインアップ強化でソアラの追撃体制を整えたF31型系レパード。しかし、時すでに遅く、販売成績はソアラの後塵を拝し続ける。そのうちにユーザーの興味は大型4ドアハードトップの“ハイソカー”やRV(レクリエーショナル・ビークル)に移り、高級スペシャルティ市場そのものが衰退してしまった。

 結果的にF31型系レパードは思うような売り上げを記録できないまま、1992年半ばに販売が中止される。実質的な後継を担ったのは、2ドアクーペではなく、4ドアセダンのボディを採用した高級パーソナルカーのY32型系レパード・Jフェリーだった。

 販売面では失敗に終わった第2世代のレパード。しかし、1990年代末に入ると、意外なところで注目を集めるようになる。いわゆる“中古車市場”だ。VIPカー・ブームの最中、ソアラなどに比べて割安だった2代目レパードは、ユーザーから予想以上の人気を博す。価格以外にも、人気TVドラマの『あぶない刑事』で使用された、過剰品質とまでいわれた高品位4コート塗装やデュラスチールによってボディがいい状態に保たれていた、個性的な2ドアクーペのデザインがドレスアップでよく栄えた、といった特徴も人気を集めた要因だった。
 1980年代後半における日産自動車の技術の推移を結集して造られたF31型系の2代目レパードは、皮肉にもユーズドカーになってから真の実力がユーザーに認められたのである。