インテグラ・タイプR 【1995,1996,1997,1998,1999,2000,2001】
シャープな走りで魅了した伝説のFFスポーツ
本田技研工業は1992年11月、スーパースポーツのNSXに高性能バージョンの“タイプR”を追加設定する。NA1型NSX・タイプRに搭載するエンジンは、俊敏なレスポンスとスムースな回転フィールを実現した専用チューニングのC30A型2977cc・V型6気筒DOHC24V・VTECユニットで、パワー&トルクは280ps/30.0kg・mを発生。さらに、運動性能を際立たせる目的で数10項目にわたる徹底した軽量化を進め、最終的に約120kgの重量軽減を達成した。足回りも特別仕様だった。ダンパーおよびスプリングの強化やアライメントの総合的な見直し、エンケイ製超軽量アルミホイール+高性能ラジアルタイヤの装着により運動性能を高めた。
NSX・タイプRが市場で注目を集める一方、多くのホンダ・ファンからは新たな要望が挙がる。もっと身近な“タイプR”を開発してほしい−−。こうした意見が出ることは、ホンダ側も十分に予想していた。開発陣は、スポーツキャラクターを前面に打ち出した第3世代インテグラ(3ドアクーペは1993年5月、4ドアハードトップは同年7月に市場デビュー)に、タイプRを設定する方針を打ち出した。
インテグラのタイプRは、ベースモデルのマイナーチェンジと合わせて1995年8月にデビューする。車種展開は3ドアクーペのDC2型と4ドアハードトップのDB8型という2モデルで構成。車両価格は3ドアクーペが222万8000円(東京標準価格)、4ドアハードトップが226万8000円(同)に設定した。
インテグラ・タイプRの搭載エンジンは、既存のB18C型1797cc直列4気筒DOHC16V・VTECをベースに約60点におよぶ新設計パーツを組み込んだ逸品。型式は“B18C 96 spec.R”を名乗る。
B18C 96 spec.Rは、高出力化のために圧縮比を11.1と高く設定。そのうえで、モリブデンコーティングにより大幅に低フリクション化した専用ピストンや高回転化に対応させたフルバランサー8ウェイト高剛性クランクシャフト、広開角/高リフト対応の高剛性カムシャフトなどを組み込む。さらに、高回転域でのバルブ追従性の向上のため、細軸ステム薄型バルブや楕円断面二重化スプリングも採用した。得られたパワー&トルクは200ps/8000rpm、18.5kg・m/7500rpm。リッター当たりの出力は約111psに達し、しかもピストン速度はF1エンジンに匹敵する秒速24.4mを誇った。
トランスミッションは、2速から5速までのレシオを低く設定したクロースレシオの5速MTをセット。また、強化タイプのクラッチや軽量化したフライホイールなども装備する。一方、駆動系にはトルクバイアスレシオを2.25に設定した新開発のトルク感応式ヘリカルLSDを組み込んだ。
シャシー面は、ベース車の4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションを基本に、車高を15mm低減するとともに、スプリングレートやダンパー減衰力、スタビライザー径などを総合的に強化する。とくにリアスプリングをプログレッシブレートタイプとし、レートを約1.25〜2.2倍と大幅にアップ。あわせてリアのスタビライザー径をΦ13mmからΦ22mmへと変更。ロール剛性を高めたことによって、フロントの接地性を悪化させることなくサスペンションのハードセッティングを実現した。さらに、トレッドを前後とも5mm広げるなどして走行安定性を向上。サスペンションブッシュ類についても硬度を約5.3倍にしたNSX・タイプRと同様のダンパーマウントブッシュを採用したほか、全体的に硬度アップを図ることで路面からのダイレクトなインフォメーションを獲得してハンドリング性能を大幅に引き上げた。
操舵機構に関しては、ステアリングギアレシオをベース車の16.1から15.7ヘとクイック化。制動機構には強化版の前ベンチレーテッドディスク/後ディスクブレーキを組み込み、ABSはオプションで用意する。また、シューズにはハイグリップタイヤのブリヂストンPOTENZA RE010をベースに、サーキットなどの走り込みによって専用セッティングを施した195/55R15 84Vタイヤと、バネ下重量の低減のために1本当たり1.3kgもの軽量化を図ったうえでブレーキ冷却効果の高いフィン形状を導入したチャンピオンシップホワイト色の専用6JJ×15アルミホイールを装備した。
エクステリアは、徹底した風洞実験や実地走行テストにより造形を決定したフロントアンダースポイラーとウイングタイプリアスポイラーのほか、プロジェクター式の超薄型ヘッドライト、大径エグゾーストフィニッシャー、ボディ同色サイドシルガーニッシュ、タイプR専用ホンダ・エンブレム(赤)、タイプR専用デカール(サイド/リア)を特別装備。また、エンジンのヘッドカバーはレッド塗装で仕上げる。ボディカラーには専用のチャンピオンシップホワイトのほか、ボーグシルバーメタリック、グラナダブラックパール、ミラノレッドを設定する。
インテリアはチタン製シフトノブやMOMO社製本革巻ステアリングホイール(Φ350mm)、黄色指針4連メーター、カーボン調メーターパネルなどの専用アイテムを標準装備。フロントシートには専用表皮のレカロ社製バケットタイプを組み込む。さらに、インテグラ・タイプRのマークデザインを配した専用デザインのキーを設定した。
スポーティで爽快な走りを演じるインテグラ・タイプRは、たちまち走り好きの注目を集め、販売台数を大きく伸ばしていく。この勢いを維持し、さらに走りに磨きをかけて“タイプR”の魅力度を高めようと、開発陣は鋭意、インテグラ・タイプRの改良を図っていった。
1996年9月には、運転席&助手席用SRSエアバッグシステムのメーカーオプション価格を改定(8万円→6万円)。合わせて、3チャンネルデジタル制御ABSのメーカーオプション価格の引き下げ(7万円)を行った。
1998年1月になると、マイナーチェンジを敢行する。機構面では、完全等長の4in1ステンレスエグゾーストマニホールドを新たに組み込んだ“B18C 98 spec.R”エンジンの採用や5速MTのファイナルギアレシオの見直し、ディスクブレーキのサイズアップ、タイヤおよびホイールの変更(新設計5穴16インチアルミホイール+215/45ZR16タイヤ)、サスペンションのセッティング変更、リアロアアームパフォーマンスロッドの板厚アップなど計4個所のボディ強化を実施。また、装備面では外装にディスチャージヘッドライトやウイングタイプデザインのリアバンパーなどを、 内装にSRSエアバッグ対応MOMO社製ステアリングホイールや「INTEGRA TYPE R 98 spec.R」刻印専用アルミ製バッジなどを新採用する。
1999年12月には、3ドアクーペに充実装備のタイプR・Xをラインアップする。専用装備として、CDプレイヤー付オーディオやボディ同色電動格納式リモコンドアミラー、キーレスエントリーシステム、デシタルクロック、アルミパッドスポーツペダル、専用色カーボン調パネルなどを設定。速さとともに快適性を追求したマルチなキャラクターだった。ボディカラーには新色のサンライトイエローを追加する。車両価格は257万6000円(東京標準価格)に設定した。
2001年7月になるとインテグラの全面改良が行われ、第4世代のDC5型系に移行する。それに伴い、インテグラ・タイプRも3ドアクーペに一本化したうえで第2世代に切り替わった。
ライトウェイトクラスの“タイプR”として、走り好きから熱い支持を集めた初代インテグラ・タイプR。ホンダ・ブランドの高性能モデルの象徴であるタイプRシリーズの領域を広げ、高いポテンシャルでマニアを魅了した “赤バッジ”の名車である。