ランドクルーザー80 【1989,1990,1991,1992,1993,1994,1995,1996,1997,1998】
まさに“陸の王者”。世界で信頼を集めるフラッグシップ4WD
1980年代後半の日本の自動車市場ではクロスカントリー4WDの人気が急速に高まり、いわゆる“ヨンク・ブーム”が巻き起こっていた。この状況に対して、ランドクルーザー(通称ランクル)という伝統ある4WD車をリリースしていたトヨタ自動車は、市場の要請を踏まえた新しいランクルの開発に邁進する。とくに、国内外の様々なユーザーに向けた多用途性の高いワゴン型ロングボディの60系は、1980年8月のデビューから長い期間が経過しており、早急の全面改良が必要とされた。
1990年代に向けたランクルのロングボディを企画するにあたり、開発陣は日本と海外の両方の市場傾向を徹底分析する。ヨンク・ブームの日本市場では、ファミリーユースやアウトドアユースといったレクリエーショナルビークル(RV)としての特性をいっそう磨き、さらにユーザーの高級志向に対応する必要があった。一方で海外市場では、より大きなボディサイズで、かつ広い室内空間と荷室を有する4WD車が求められた。もちろん、従来から好評を博す機動性や耐久性なども、さらに高いレベルへと引き上げなければならない−−。様々な角度から検討した結果、開発陣は次期型の商品テーマに「トレンドの先端を行く最高級マルチパーパス4WD」の創出を掲げ、洗練された車両イメージと伝統のタフさを高次元で両立させた“4WDの頂点”に仕立てる旨を計画した。
新型車は、強靭で耐久性の高いラダーフレーム構造をベースとしたうえで、全長と幅、前後トレッド、ホイールベースを拡大しながら剛性を高めた新ボディを架装する。サスペンションは従来の60系のリーフスプリング式からコイルスプリング式に一新。形式は前リーディングアーム/後ラテラルロッド付4リンクとし、横剛性およびロール剛性のアップや乗り心地の向上を図った。また、上級モデルには減衰力を2段階に切り替えられる2ステージショックアブソーバーをセットする。操舵機構に関しては信頼性の高いボール・ナット式を採用。同時に、ギアボックスのコントロール部に設けた油圧反力室で作用する油圧を巧みに制御する新開発のPPS(プログレッシブパワーステアリング)を組み込んだ。
制動機構については、全車のフロントにベンチレーテッドディスクブレーキを、上位グレードのリアにパーキングブレーキ内蔵のドラムインディスクブレーキ、そのほかのグレードにリーディングトレーリングを装備。ブレーキブースターには、大型のタンデムタイプを採用する。組み合わせるタイヤは、上位グレードに31×10.50R15-6を、そのほかのグレードに215/80R16または7.00-16-6セミラグタイプを装着した。
搭載エンジンは、すべてのパーツの設計を見直したうえでトヨタ独自の燃焼法であるTRB(TOYOTA Reflex Burn)や新素材のFRM(Fiber Reinforced Metal)を使ったハイリングピストン、ニードルが2段階に作動する2スプリング噴射ノズルなどを採用した新開発の1HD-T型4163cc直6OHCディーゼルターボ(165ps/37.0kg・m)、1HD-Tとほとんど同一のブロックとユニットを採用したうえで燃焼室を渦流室式とした改良版の1HZ型4163cc直6OHCディーゼル(135ps/28.5kg・m)、そしてEFIによる高効率な燃焼とスムーズな吹け上がりを実現したガソリンユニットの3F-E型3955cc直6OHV(155ps/29.5kg・m)という計3機種を設定する。ディーゼル車の電気系統には、始動時のみ24Vとなる新機構の12/24ボルテージ・スイッチングシステムを導入した。
組み合わせるトランスミッションには、操作感を向上させた新開発の5速MTと2ウェイOD付4速ATを用意。高トルクを誇る1HD-Tエンジン用の5速MTには、1〜3速にトリプルコーンシンクロを内蔵した。駆動システムについては、主要グレードにセンターデフ付フルタイム4WDを採用する。センターデフは信頼性の高いベベルギア方式。緊急脱出用として、電動モーター式アクチュエーターを組み込むセンターデフロック機構も装備した。また、開発陣はパートタイム4WDのリファインも敢行。強度や耐久性のアップを図るとともに、異音および騒音の低減や歯車・軸受の小型化と軽量化を実施する。さらに、ワンタッチ2-4セレクターとメカニカルフリーホイールハブも装備した。ほかにも、全車にフロント&リアの電動デフロックとフルフロートリアアクスルを設定。オフロードでの走破性を十分に踏まえた4WD機構とした。
内外装に関しては、“4WDの頂点”にふさわしい演出をふんだんに施す。エクステリアはフォルム全体を動的で張りのある曲面で構成し、近代的で存在感あふれるルックスを実現。ボディ形式はオーバーフェンダー付きのワイドタイプ(全幅1900mm)と標準タイプ(同1830mm)を用意した。
インテリアは、曲面構成のインパネやずらりと並べたスイッチ類、乗用車感覚のステアリングフィール、上質なシート表地、充実した装備アイテムなどで、高級サルーンのような雰囲気を創出する。シート配列はワゴンタイプが2/3/3名乗車の3列式、バンタイプが2(5)名乗車の2列式。1/2列目には、休憩スペースとして活用できるセミフラット機構を盛り込んだ。
新しいロングボディのランクルは、「ランドクルーザー80」の車名で1989年10月に市場デビューを果たす。キャッチコピーは、その先進性を意図して「4WDの新しい歴史が始まる」と表現。車種展開はワゴンタイプで3F-E型エンジンを積むVXリミテッドとVX、バンタイプで1HD-T型エンジンを搭載するVXリミテッドとVX、バンタイプで1HZ型エンジンを採用するGXとSTDをラインアップした。
市場に放たれたランクル80を見て、従来からのファンは「ついにランクルもRV志向に走ったか……」とがっかりしたという。丸みを帯びたボディや高級になったインテリア、オンロード走行時の静粛性の高さと振動の少なさなどが、オフロード4WDの雄であるランクルにふさわしくないと判断されたのだ。同時期にデビューした高級乗用車に倣って、“オフロード車のセルシオ”とも呼ばれたりした。しかし、ランクル80をオフロードで走らせると、そうしたファンの声は一変する。センターデフロックと4Lレンジによる強力なトラクションに、いざというときに真価を発揮する前後デフロック機構、4輪コイルスプリングのよく動く足、そしてより剛性を増したボディなどが、オフロード走行での強力な武器になったのだ。「やっぱりランクル」と思わせるそのパフォーマンスに、ファンは改めて感心させられることとなった。
新世代の高級4WD車として高い評価を受けたランドクルーザー80は、従来のランクルと同様、デビュー後も着実に進化を図っていく。まず1992年8月には、ガソリンエンジンを新開発の1FZ-FE型4476cc直6DOHC24Vに換装する。
アルミ合金製シリンダーヘッドに4バルブ・ペントルーフ型の燃焼室、ダイレクト駆動のDOHC、ツインタイプのノックセンサー、フルバランスの7軸受クランクシャフトなどの新機構を組み込み、215ps/38.0kg・mの強力なパワー&トルクを発生した1FZ-FEユニットは、ランクル80の走りをさらなる高い次元へと押し上げた。またこの時、オートマチックトランスミッションをより緻密な制御を実現したECT仕様に変更。さらに、4輪ABSや本革シートなどの新アイテムの設定、275/70R16タイヤの装着および全幅の拡大(1930mm)などを実施した。
1993年5月になると、ワゴンにベーシック仕様のGXグレードが追加され、同時に全車のエアコンの冷媒がフロンガスからR134aに切り替わる。翌6月にはキャンパー装備を搭載する特装車の「アクティブバケーション」を発売。さらに、1994年5月にはランドクルーザー・シリーズの生産累計250万台達成を記念した特別仕様車の「メモリアルパッケージ」を、9月には専用ボディカラーのアーバンナイトトーニングを採用した特別仕様車の「Gパッケージ」をリリースした。
1995年1月にはマイナーチェンジを行い、ディーゼルターボエンジンを1HD-FT型4163cc直6OHC24Vディーゼルターボ(170ps/38.7kg・m)に換装する。同時に、フロントグリルおよびエンブレムやバンパーなどの一部デザインを刷新。また、インパネはセンター部を独立した造形に変更した。1996年8月になると、デュアルSRSエアバッグと4輪ABSを全車に標準化して安全性能の強化を図る。さらに、ワゴンは全車ワイドボディに統一した。
高級パルチパーパス4WDとしての性能に磨きをかけ、またその走破性の高さと故障の少なさなどから北米や豪州、さらにはアジアや中近東といった海外市場でも販売を伸ばしたランドクルーザー80。1998年1月にはよりラグジュアリーで高性能な新型のランドクルーザー100に移行するが、80も海外を中心に現役で走り続けた。“TOYOTA”の信頼性の高さを世界中に知らしめた4WD界のレジェンド−−。それがランドクルーザー80の名車たる所以なのである。