スズキ・キャラ 【1993】

スパイシーなガルウイングMRスポーツ

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スズキ版AZ-1が生まれた事情

 キャラは、マツダのオートザムAZ-1のスズキ版。ガルウイングドアを備えた軽自動車規格の本格ミッドシップスポーツである。AZ-1は、マツダが設計を手掛けているが、エンジンや足回りなどのコンポーネンツはスズキ製。そのためキャラをスズキの販売店で販売するのは不自然なことではなかった。しかしキャラは、スズキ側がマツダに要望して積極的に独自バージョンとして販売したモデルではなかったようだ。というのもスズキは軽自動車のスポーツモデルとして、既にカプチーノ(1991年11月発売)というラインアップがあり、安定した人気をキープしていたからだ。

 AZ-1は1992年10月、キャラはその3ヶ月後の1993年1月に販売された。この時期、日本はバブル景気が去り、スポーツカーなどの趣味のクルマの販売が難しい時期になっていた。ましてAZ-1は、“走りの楽しさ”をストレートに追求したモデルだった。ラゲッジスペースはほぼなく、乗り味はスパルタン。実用性は置き去りにされていた。ユーザーは真のマニア、それもセカンドカーとして購入する余裕のある層に限られた。AZ-1は、残念ながら予定していた販売台数を達成することはできなかった。そこでマツダ側からスズキに販売を要請したのだ。

キャラはフォグランプ標準。魅力はスポーツ性能

 AZ-1とキャラの違いは非常に少なかった。エンブレム以外では、AZ-1ではオプションだったフォグランプを標準装備した程度。価格はフォグランプの代金分に相当する1万5000円だけキャラのほうが高く151万3000円のプライスタグを下げた。ボディカラーはイメージ色であるクラシックレッドと、サイベリアブルーの2色。これもAZ-1と共通だった。

 キャラの魅力は、AZ-1と同様、ガルウイングドアと卓越したスポーツ性能にあった。ガルウイングはサイドシルを高くとった独特のスケルトンモノコック構造ボディの乗降性を改善するための工夫だったが、やはりスタイリングのインパクトを高めるために採用した側面も大いにあった。キャラはガルウイングドアによって“ミニスーパーカー”に見えた。乗降時にガルウイングを開けると、周囲の視線を釘づけにした。ガルウイングドアはルーフ部もガラスを配して開放感を演出。しかしその構造上サイドウィンドウの開口部は狭く、チケットウィンドウと呼ばれる52×13cm分が手動で開くだけだった。

 走りに対する配慮は徹底していた。エンジンはアルトワークス、カプチーノと共通の657cc直3DOHC12Vターボ(64ps)。後車軸直前に横置き搭載され、アルトワークス用5速MTが組み合わされた。足回りは前後ともストラット式。前後重量配分は前44/後56の理想的な設定で、ロック・トゥ・ロックが僅か2.2回転のクイックなステアリングと組み合わされ、超シャープなハンドリングを披露した。走りのイメージはクルマというより、レーシングカートのイメージに近かった。

速さは1.6Lクラス。歴史に残るマイクロスポーツ

 キャラのスポーツ性能は抜群。絶対的な加速力に優れているだけでなく、1155mmの車高を生かした圧倒的に低い着座ポジションもあって感覚的なスピード感も圧倒的だった。まさに人車一体のビビッドな走りが楽しめた。とくに山岳ワインディングロードの走りはピカイチ。熟練したドライバーの手に掛かると1.6ℓ級スポーツを凌駕する速さを披露した。
 痛快な走りを味わうと、荷物が積めないとか、乗り心地がハードとか、騒音が高い、という欠点は些細なものに感じられた。しかし、やはりその魅力を理解するユーザーは少数派だった。キャラは約1年間で500台ほど販売されただけで販売を終了する。

 しかし、キャラ(そしてAZ-1)の評価は、熱狂的なマニアの支持によって、販売終了後に高まる。ミッドシップレイアウト、高回転型ターボエンジン、強靭なスケルトンモノコックボディ、軽量&コンパクト設計、そして圧倒的な存在感を放つガルウイングドア。キャラほど、ピュアにスポーツカーの理想を追求した例は世界的に見ても稀だ。ましてそれを軽自動車規格という超マイクロサイズで実現したのである。日本が誇るマニアックカーとして今後、ますます再評価されるに違いない。

ボディパネルはオール軽量プラスチック。

 キャラのボディ構造はユニークなスケルトンモノコック構造。ボディパネル内側の骨格に強度を持たせ、ボディパネルはまさに外皮という位置づけ。ボディパネルはすべて軽量なプラスチックで構成された。

 成形の自由度が高いメリットを生かしCd値0,36の優れた空力特性を実現するとともに、錆の心配を排除。またパネル自体に復元性を持たせ、軽度のショックではダメージを受けない工夫を施していた。ちなみにAZ-1では、オリジナルと別デザインのボディパネルを用意し、自在にイメージチェンジが図れるようにしていたが、キャラにはその用意がなかった。もっともキャラとAZ-1は、事実上同じクルマなのでAZ-1用ボディパネルは、そのままキャラに装着することができた。