フロンテ7-S 【1977,1978,1979】

2サイクルと4サイクルが選べた新規格軽セダン

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段階的に軽自動車の新規格に移行

 1970年代中盤の軽自動車は、解決しなければならない問題が山積していた。段階的に厳しくなる排出ガス規制、交通戦争という名称まで生み出した死亡事故の増加、そして高速道路網の整備に起因したクルマに対する高性能化の要求−−。これらの難題を克服するために、時の運輸省(現・国土交通省)は軽自動車の規格改定を実施する。

 1976年1月、新しい軽自動車の車両規格を定めた運輸省令が施行される。ボディサイズは従来の全長×全幅×全高3000×1300×2000mmから同3200×1400×2000mmに拡大。エンジン排気量は360ccから550ccへとアップされた。ボディが大きくなり、エンジンパワーも増強された軽自動車。この規格改定に対し、鈴木自動車工業は段階的に新規格に移行する方針を打ち出した。

最初にエンジン排気量を443ccに拡大

 1976年6月には軽自動車の新規格に合わせてボディを大型化し、同時に内外装の意匠も変更したフロンテ7-S(SS10型)を発売する。
 搭載エンジンには規格一杯の550ccではなく443ccの2サイクル3気筒ユニット(T4A型、26ps/4.7kg・m)を採用し、独自のSuzuki TC(Two Catalyst=2段触媒方式)を組み込むなどして昭和50年排出ガス規制をクリアする。ちなみにこの当時、2サイクルエンジンの存在を疑問視する声がそこかしこで上がっていた。鈴木自工以外のメーカーは2サイクルで排出ガス規制に対応するのをあきらめ、4サイクルに一本化する方針を決めていたからだ。

これに対して鈴木自工は2サイクルの利点、使用パーツが少なくて軽量に仕上がり、メンテナンスが簡単で故障も少なく、同排気量なら4サイクルよりもパワーが出せるメリットを重視し、排出ガス規制に対しては創意工夫で何としても克服するという気概を見せた。7-Sのデビュー時には「どっこい生きている」という辛辣なキャッチフレーズの下、2サイクルエンジン搭載車であることを主張した。

 フロンテ7-Sは車両デザインも凝っていた。丸みのあるオーバルシェルのボディは2ドアと4ドアの2タイプをラインアップし、ともにガラスハッチを組み込むオープンバックで仕立てる。ボディサイズは全長3190×全幅1395×全高1300mm、トレッド前1210/1185mmにまで拡大。安全性を高める目的で強力バンパーや大型リアコンビネーションランプなどを装備した。インテリアは居住スペースのワイド化とともに、インパネのデザイン変更やシート表地の見直し、装備類の充実化などを実施する。さらに室内全体をソフトな色調で統一し、見た目品質や居心地のよさを一段と引き上げていた。

フルスケールの2/4サイクルエンジンを設定

 フロンテ7-Sのデビューから1年ほどが経過した1977年6月、鈴木自工は新規格の550ccエンジンに対応した新モデルを発売する。フロントグリルに“4”のバッジを貼付した4サイクルシリーズ(SS11型)をラインアップに加えたのだ。注目のパワートレインは、月1000台の枠内でライバル社のダイハツ工業から供給を受けた4サイクルエンジンのAB10型547cc直列2気筒OHCユニットで、パワー&トルクは28ps/3.9kg・mを発生した。またこの時、443cc・2サイクルエンジンが最も厳しいとされた昭和53年排出ガス規制に適合する。キーとなった技術は2段式の酸化触媒と2次吸気の供給システム。触媒はモノシリックタイプで、ハニカム状に孔が開いたセラミックの表面に触媒金属を付けていた。同時に、触媒が過熱しないように大容量のエアポンプを使って十二分に2次空気を触媒床に送り込むシステムを採用する。鈴木自工の技術陣がこのシステムを開発していなければ、4輪車の2サイクルエンジンは昭和53年規制の時点で消滅していただろう。

 1977年10月になると、2サイクルエンジンがいよいよフルスケール化されて市場デビューを果たす。新2サイクルシリーズ(SS20型)のエンジン型式はT5Aで、排気量は539cc。パワー&トルクは28ps/5.3kg・mにまでアップし、そのうえで10モード走行燃費は17.5km/Lを実現する。もちろん、昭和53年排出ガス規制にも適合していた。
 世界一厳しいといわれた昭和53年排出ガス規制を2サイクルと4サイクルの2ユニットでクリアしたフロンテ7-S。2本立てエンジンの車種展開は、自社開発の4サイクルエンジン(F5A型543cc直列3気筒OHC)を積んだ次世代フロンテ(1979年5月デビュー)に引き継がれていったのである。

“新しい時代への架け橋”と謳ったフロンテ7-Sの7つの特長

 新規格に移行したフロンテ7-Sの「7-S」は、Sを頭文字とする7つの特長を有したクルマであることを意味していた。具体的には①Space=+100mmのワイド化によってゆとりの室内を実現 ②Safety=大型バンパーやリアコンビネーションランプ、ワイドトレッドなどによって走行安全性が向上 ③Sense=デザインを一新した安定感のあるスタイルと色調を統一したハイセンスな室内 ④Save money=10モード走行燃費18km/L(T4A型エンジン搭載車)の好燃費。税金と保険料も割安の優れた経済性 ⑤Silent=エンジンやドライブシャフトの改良、2重防音パッドの採用などにより静粛性がアップ ⑥Stamina=ハイトルク化により出足・加速・登坂に十分なスタミナ ⑦Suzuki TC=スズキ独自の排出ガス浄化システムの採用という内容。これらを具現化することによって、新型フロンテは軽自動車の“新しい時代への架け橋”なったのである。