エクサ 【1986,1987,1988,1989,1990】

クルマ版“着せ替え人形”

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バブル景気の助走期となった80年代中盤、
日本の自動車メーカーは豊富な開発資金をバックに
車種ラインアップの拡大を積極的に図っていく。
日産はパルサーの一車種だったエクサを1986年に一新。
独立車種としての販売を開始した。
好景気を背景にした車種展開の拡大

 後にバブル景気と呼ばれる1980年代中盤から1990年代頭にかけた好景気は、日本の自動車メーカーにとって大きな変革期となった。豊富な資金を背景に車種ラインアップや事業展開の拡大が実施され、海外を含む工場や販売店、そしてクルマの種類が急速に増えていく。

 なかでも日産自動車の攻勢は目立っていた。1990年代には技術の世界一になるという「901運動」を掲げながら、新車の開発を積極的に押し進めていく。その一環として活用されたのが、米国カリフォルニア州に設立したニッサン・デザイン・インターナショナル(NDI)だ。短い期間で効率的に車種を増やすためには、日本のデザイン部とNDIの両方を有機的に機能させる必要があった。

北米市場での販売台数を増やすためにも、現地マーケットの嗜好を熟知するNDIで国際戦略車をデザインするほうが得策だ。新規の開発体制は、やがてユニークな量産車の開発へと昇華していった。

ユニークな着せ替えボディー

 1986年5月、海外市場での人気が高いパルサーがフルモデルチェンジし、3代目のN13型系へと移行する。初代と2代目はとくにヨーロッパ市場での評価が高く、累計生産台数の4割近くが欧州圏に輸出されていた。そのために新型は、欧州の嗜好にあわせた合理的でシンプルなクルマに仕上げられる。

 一方、嗜好が異なる北米市場に向けては新たな戦略を打ち出す。3代目パルサーのシャシーをベースに、北米ユーザーの好みに合わせたスタイリングを構築しようとしたのだ。デザインを担当したのはNDI。同社はアメリカで人気のあるスポーティな2ドアボディを基本に、クーペやTバールーフ、ワゴン風などの様々なスタイリングを考案する。

そして最終的には、クーペ、Tバールーフ、キャノピー(リアにハッチルーフを付けたワゴン風ボディ。外すとトラック風になる)、キャンバスハッチなどのボディパターンが1台で楽しめる“着せ替え車”を完成させた。
 デザイナーは細部にもパルサーとの違いを設けた。ヘッドライトは先進的なリトラクタブル式で、空気抵抗抵抗係数は0.34(クーペ)を実現する。日本側の主導で手掛けた内装はスポーティなイメージを重視。3本スポークステアリングやバケットタイプのシートなどを組み込んだ。さらに可倒式の後席はパルサーよりも簡略化し、乗車定員を4名にして前席重視のアレンジに仕上げた。

 ここまでデザイナーがこだわってインパクトの強いモデルが出来たのだから、日本で販売する際はパルサーの一車種ではなく独立車種としてリリースしたい−−。新しい着せ替え車は、従来のパルサー・エクサのサブネームを流用して、「エクサ」の単独名でデビューすることが決定する。また北米市場では、パルサーの知名度の高さを生かして「パルサーNX」のネーミングで販売する決断を下した。

日本でのグレード構成は――

 3代目パルサーの登場から5カ月ほどが経過した1986年10月、渾身作のエクサが日本デビューを果たす。バリエーションは2種類で、ノッチバックスタイルの“クーペ”とワゴン風ボディーの“キャノピー”を用意した。1台ですべてがまかなえなかったのは、日本の法規上、着せ替えボディーが認められなかったからだ。ただしTバールーフは標準、クーペ、キャノピーともにリアハッチは取り外し可能で、キャンバスハッチをオプションで装着することができた。

 エクサを含むパルサー・シリーズはこの年の日本カー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれ、そのユニークなクルマ作りは高く評価される。しかし、販売台数は予想外に伸びなかった。速さに特化したわけではなく、使い勝手が突出していいわけでもない。ボディーが変わるといっても、日本仕様では制限がある。つまり日本のユーザーには、エクサの個性が魅力的に映らなかったのだ。

 日産はテコ入れ作として、装備充実のLAバージョンや廉価仕様の1.5Lモデルなどを相次いで追加する。しかし販売成績はそれほど改善しなかった。結局、90年8月に実施されたパルサーのフルモデルチェンジに合わせて、エクサは消滅してしまったのである。

COLUMN
エクサをデザインしたアメリカのNDIとは
 1970年代から1980年代にかけての日産自動車は、海外事業に非常に積極的だった。日本トップの自動車メーカーであるトヨタに迫るためには、トヨタが苦手な分野、すなわち海外市場での展開を拡大することが必須と判断したためである。日産は工場などの建設はもとより、1979年4月には米国カリフォルニア州にニッサン・デザイン・インターナショナル(NDI)を設立。メイン市場である北米の嗜好に則したクルマをデザインするようになった。NDIが手掛けた主な作品は今回ピックアップしたエクサのほかにYD21型テラノ、1986年10月のマイナーチェンジ以降のZ31型フェアレディZ、U13型ブルーバード・4ドアセダン、B13型NXクーペなどがある。