アルシオーネ 【1985,1986,1987,1988,1989,1990,1991】

鮮烈造形。スバル初スペシャルティ

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1980年代半ばの日本の自動車市場は、
スペシャルティカー・ブームで賑わっていた。
各メーカーから最新の2ドアクーペが
続々とリリースされ、大注目を集める。
そんな中、満を持してスバルが送り込んだのは、
エアロルックをまとった個性的な1台だった。
米国市場に向けたスペシャルティカー

 1985年1月、富士重工業(現SUBARU)はアメリカで自社初のスペシャルティカーを発表する。XT1800と名づけられた2ドアクーペは、低いノーズとリトラクタブル式のヘッドライト、極端なウエッジシェイプのスタイリングで人々を驚かせた。タイヤがなければ宇宙船と間違えるかもしれない……そんなジョークまで囁かれる。このスタイルは、何も奇抜さだけで採用したデザインではなかった。空気抵抗係数、いわゆるCd値はFFモデルで0.29。当時としてはトップの数値だった。
 アメリカでの発表から4カ月後、日本でもスバル初のスペシャルティカーがデビューする。車名はXTではなく、アルシオーネを名乗った。スバル星団で最も光り輝く星=アルシオーネ。クルマの位置づけをストレートに表したネーミングだった。

スバル渾身の最新技術を盛り込む

 アルシオーネのシャシーは、基本的に同社のレオーネのコンポーネントを使用する。主要パーツにはスバルの最新技術を目一杯に盛り込んだ。足回りは電子制御のエアスプリングを装着したエレクトロ・ニューマチック・サスペンションを採用。2段設定のハイトコントロールと4輪オートレベリング機構に加え、マルチアジャスト式のステアリングシステムも組み込む。駆動方式はパートタイム4WDとFFの2タイプを設定。エンジンは専用チューニングの1781ccの水平対向4気筒OHCターボを搭載した。

 インテリアのデザインも斬新だった。ステアリングはL字型のスポークを持つ新タイプ。その左右にはサテライトスイッチが整然と並ぶ。デジタル表示のメーターやガングリップタイプのシフトノブ、斜めに傾斜を持たせて囲まれ感を演出したインパネとドアパネルのコンビネーションなども人目を引いた。クルマというより航空機のコクピットを思わせる。そんな表現がピタリと当てはまるアレンジだった。
 飛行機屋が作った斬新なスペシャルティカー。しかし日本での販売成績はそれほど奮わなかった。奇抜すぎる内外装に、ユーザーがついてこなかったのである。レオーネの面影が残るエンジンや駆動システムなども、スペシャルモデルとしてはマイナス要因だった。

スバル初の6気筒エンジン登場

 1987年6月、富士重工は旗艦スペシャルティカーにふさわしいエンジンとドライブトレーンを搭載した、とっておきの1台を発売する。グレード名はVX。ER27型2672cc、水平対向6気筒エンジン(150ps/21.5kg-m)を搭載し、駆動方式はACT-4と呼ぶ電子制御式フルタイム4WDを採用していた。専用デザインのアルミホイールや内装パターンも、フラッグシップモデルにふさわしい出来栄えだった。

 走りは、太いトルクを生かした骨太の加速と安定した走行性能を実現する。ダートや濡れた路面などの低μ路を走れば、他メーカーのスペシャルティカーを圧倒した。そして何よりフラット6エンジンとフルタイム4WDという高性能のキーワードが、ファンの注目を大いに集めた。「水平対向エンジンと4WD技術のスバル」というイメージをアピールするうえで、アルシオーネの存在意義は非常に大きかった。

COLUMN
ライバルはポルシェ959!?
 大排気量フラット6エンジンに電子制御式のフルタイム4WD。アルシオーネのこのアイコンは当時、思わぬライバルを想起させた。VXグレードがデビューする1年10カ月前のフランクフルト・ショーで発表されたポルシェのスペシャルモデル、“959”だ。959のエンジンは水冷式の2850cc・水平対向6DOHCツインターボ(450hp/51.0kg-m)で、VXのER27型エンジンの出力を大きく上回っていたが、フルタイム4WDの機構は非常に似通っていた。2車とも油圧多板クラッチをセンターデフに使い、電子制御で駆動を配分していたのである。違いは駆動の元となる動力源の搭載位置と細かな機構だけだった。