プレリュード 【1996,1997,1998,1999,2000】

ドレッシーな熟成のスペシャルティ

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非日常が日常的に味わえる存在

 1997年11月に登場した5代目のプレリュードは、歴代プレリュードの集大成ともいうべき完成度の高いモデルだった。プレリュードは日本にスペシャルティカーというジャンルを確立した1台である。とくに1982年デビューの2代目モデルは圧倒的な支持を受け、ベストセラーモデルに君臨する。

 2代目モデルの人気の秘密は、端正でスポーティなスタイリングと、4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションが生むハイレベルなハンドリング。そして巧みなパッケージングにより意外なほどの実用性を実現していたことにあった。価格も内容を考えるとリーズナブルといえた。スペシャルティカーは、スポーティな風合いと贅沢さを満喫できるかどうかが価値を決めるが、2代目プレリュードは模範的な回答だったのだ。非日常の特別な雰囲気を、日常的に味わえることにプレリュードの価値があった。

最強タイプSは220psをマーク!

 5代目プレリュードは、2代目が構築した価値を、時代が求める洗練を加えながら見事に具現化していた。スタイリングはロングノーズの2ドアクーペ。2代目とは違ってリトラクタブル式ヘッドランプではないが、低く押さえたノーズ高と、ノッチバック形式のリアフォルムを持ち、プレリュードに期待される伸びやかなイメージを発散した。デザインのテーマは“光と影”。ボディサイドのエッジを際立てたのが特徴で、ラインは陽光の変化にしたがって微妙に表情を変えた。誰もが美しいと感じる、クーペらしいクーペだったのだ。

 エンジンも魅力的だった。全車が余裕を重視した2.2Lの直列4気筒ユニットを搭載し、グレードによりチューニングを変え最適な走りをプロデュースしていた。最もスポーティ指向のタイプS用は、専用ピストンの採用で圧縮比を11.0に高め、入念なポート研磨と高速型VTECを持つ DOHC16VのH22A型。220ps/7200rpm、22.5kg・m/6500rpmのハイスペックを誇りトランスミッションは5速MTのみが組み合わされた。爽快な吹き上がりと鮮烈なパワーが印象的な生粋スポーツユニットである。

 上級版のSiR用はVTEC機構を持つDOHC16Vで、出力&トルクは200ps/6800rpm、22.3kg・m/5500rpm。フルフロートピストンやアルミオイルパンなどの採用でパワフルさとともに超一級の静粛性を身に付けたことが特徴だった。販売主力モデルのSi用はVTECなしのDOHC16V。自然吸気ユニットならではの自然な吹き上がりを誇り、160ps/6000rpm、20.5kg・m/5200rpmを実現した。ベースグレードのXi用はSOHC16Vだが、優れた燃費経済性が魅力だった。スペックは135ps/5200rpm、19.6kg・m/4500rpmである。SiR、Si、Xiには5速MTの他にマニュアルモード付きの4速ATが設定されていた。

新次元のコーナリングを実現したATTS!

 足回りは熟成の4輪ダブルウィッシュボーン式で、3代目から導入された4WS(4輪操舵)機構もよりリファインして設定した。4WS仕様は低速時に後輪舵角が最大8度となり4.7mの最小回転半径を実現する。ちなみに4WS未装着車の最小回転半径は5.5〜5.7m。小回り性が際立っていた。

 220psのハイチューン・ユニットを搭載したスポーツモデル、タイプSにはエンジンパワーをフルに路面に伝達する秘密兵器が装着されていた。コーナリング時に左右の駆動力を最適配分し高い旋回性能を実現するATTS(アクティブ・トルク・トランスファー・システム)である。コーナリング時には外輪を内輪よりも増速させることにより、クルマが内側に曲がろうとする力を補助する機構だ。具体的には横G、舵角の各センサーから旋回量を求め、エンジンECUと車速センサーが割り出す駆動力に掛け合わせ、その結果に応じてATTSユニット内のクラッチを制御、左右輪の駆動力を最適配分していた。

 実際にドライビングするとタイプSのコーナリング性能はミラクルだった。ステアリング操作だけで、自分の意図したラインをトレースしていく。オーバースピードでコーナーに進入してもATTSが駆動力を最適配分してくれるのでアクセルを戻す必要はなかった。

スポーティで居心地のいい室内

 室内の仕立ても見事だった。前席のヒップポイントを従来モデルより10mm高め爽快な視界を確保しながら、ヘッドクリアランスを後席で35mm改善。35mmのホイールベース延長と前席シートバックフレームの改善により足元スペースも拡大していた。しかも室内スペースの拡大は、15mmのボディ幅を縮小したうえで実現していたことに価値があった。

 インテリアのカラーリングにも心が踊った。メーターやスイッチなどを集約したインパネアッパー部を機能的なブラックで統一しながら、インパネロア、ドアパネル、シートなどのラウンドスペースをレッド基調とし、室内に身を置くだけで高揚する空間に仕上げたのだ。ラウンドスペースの配色はレッドだけでなくブラックも選べたが、5代目プレリュードに似合っていたのは断然レッドだった。一般的に地味な印象の強い国産車のインテリアにあって、5代目プレリュードの華やかさは際立っていた。

 曲げ剛性で55%、ねじり剛性で40%もアップしたしっかりとしたボディとも相まって5代目プレリュードは、ちょっとしたドライビングでも誰もが高い質感を実感できた。しかし販売成績は思いの外低調だった。クルマが悪かったのではない。誕生した時代が悪かったのだ。5代目プレリュードがデビューした1996年はバブル景気がとうにはじけ、クルマに実質機能が求められた時代だった。贅沢さよりも実用性。具体的にはミニバンがもてはやされた。5代目プレリュードは大人の味わいを持つハイグレードなスペシャルティカー。それを求めるユーザーはもはや少数派だった。