ランサー・エボリューションⅠ/Ⅱ/Ⅲ 【1992,1993,1994,1995】

ラリーでの勝利を目指して誕生した俊足4WDターボ



WRCはF1と並ぶモータースポーツの頂点

 F1と並ぶモータースポーツの頂点がラリー競技(今日のWRC=世界ラリー選手権)である。たとえばモンテカルロラリーは1911年に第1回が開催され、アルパインラリーは1914年に始まったという具合に、その歴史は古い。WRCは1987年から市販モデルをベースとしたグループAのマシンで争われることになった。グループAとなってからは、マシン開発にかかるコストが大幅に引き下げられ、メーカーは積極的に参加するようになる。

 三菱自動車は、グループA規定の発効に伴い、市販型のギャランVR-4をベースとしたラリーマシンを開発、篠塚健次郎選手などのドライブでWRCに挑戦する。そして、大きく重いことが欠点だったギャランVR-4に代わり、より実践的なマシンとして開発されたのが、1.8Lエンジンを積むランサーGSRをベースとして、1992年に9月に発表した“ラン・エボ”ことランサー・エボリューションだった。

ギャランの後継となったランサー・エボリューション

 ギャランVR-4と比べてはるかに軽量なランサーは、ラリーマシンとしてのポテンシャルが高いと判断された。コンパクトなランサーのボディとひとクラス上の1997ccのVR-4のDOHC16Vターボエンジンを組み合わせれば、最強のラリーマシンが誕生すると計算したのである。ランサー・エボリューションは、当初からWRC出場へのホモロゲーション(認定)取得のための特別な市販モデルとして企画された。2500台の限定販売であったが、それは発表されるやわずか3日間で完売するほどの人気を集めた。三菱では急遽2500台の追加販売を決定した。当時のグループA規約では、ラリーマシンのベースとすることができるモデルは、過去の1年間に2500台を生産しているものでなければならないとされていた。ランサーはこの規約を楽々とクリアーしたのだ。

 ランサー・エボリューションには装備を充実させたGSRグレードと、スパルタンなRSグレードの2タイプがあった。搭載するエンジンは250ps/31.5kg・mを発揮する4G63型の1997ccターボで、トランスミッションは5速マニュアルが組み合わされた。

凄味を増した各部ディテールはすべて意味がある

 グループAは、ベースとなる量産車の基本的なスタイルを変えることは許されていない。したがってランサー・エボリューションのスタイリングは基本的には標準仕様のランサーGSRと同じものである。ただし、フロントバンパーに大きく開けられたエアインテークやインチアップしたワイドタイヤの装着に備えた前後ホイールアーチ、大型化されたリアスポイラー、さらにエンジンフードに開けられた大小の熱気抜きのためのルーバーなどを見れば、これがただのランサーでないことは容易に想像できた。エンジンルームやリアトランクの中などには、サスペンション強化とボディの剛性向上のためのストラットタワーバーやブレースが付加されている。

 インテリアのデザインも基本的には標準仕様のランサーGSRにほぼ等しいものであり、センターコンソールにはオプションで円形の油圧、油温などのメーター類を加えることができた。GSRグレードのシートはラン・エボのためにレカロの特別製バケットがドライバーズシートと助手席に装備された。

圧倒的な加速!トップスピードは230km/h

 高性能化の要となるエンジンは、4G63型と呼ばれる排気量1997ccの直列4気筒DOHC16バルブにインタークーラー付きターボチャージャーを装備、250ps/6000rpmの最高出力と31.5kg・m/3000rpmの最大トルクを得る。無論、圧縮比の向上をはじめ、ナトリウム封入型のバルブやピストン、コンロッドなど可動部分の軽量化と言った細かなチューンアップが加えられている。トランスミッションは量産型に等しいものとされ、5速マニュアル型のみの設定となる。駆動方式にはビスカスカップリング(VCU)をLSDに使ったセンターデフ式のフルタイム4輪駆動システムが搭載されていた。ブレーキはフロントに2ポットキャリパーの15インチ・ベンチレーテッドディスク、リアが14インチのディスクで、GSRグレードにはABSも装備された。サスペンションはスプリングやショックアブソーバーの容量アップなどの手が加えられている。タイヤは前後同じサイズで195/55R15である。

 ランサー・エボリューションは、エンジンの大排気量化やボディ各部の強化、さらにサスペンションやブレーキの高性能化に加えて、4輪駆動システムの搭載などにも関わらず、車重は1240kg(GSR)と標準型ランサー1500(前2輪駆動)セダンよりもわずか90kgの増加に抑えていた。性能的には物凄いもので、あるデータによれば0〜400m加速は13.9秒、最高速度はリミッターを解除すると230km/hに達したという。

進化を繰り返し世界トップの戦闘力をキープ

 ランサー・エボリューションには、競技用車両のホモロゲーション取得のためのモデルにありがちな粗雑さは全くない。ボディ強化のために装備された後輪サスペンションのタワーバーのため、後席のトランクスルー機構が省かれていることや装備されるタイヤが15インチサイズにインチアップされている(オリジナルのランサーGSRは14インチ)ことなどがエボリューションモデルとしての変更点だが、相違点は僅かなものである。販売価格は273万8千円(GSR)となっていた。圧倒的な性能とWRCでのステイタスを考え合わせれば、十分にリーズナブルと言えるものだ。発売開始後僅か3日間で2500台を完売し、慌てて2500台を増産したのも当然であった。

 ランサー・エボリューションをベースにしたラリーマシンは、1993年のモンテカルロラリーから実戦にデビューする。2台のラリー・ランサーはデビュー戦ながらそれぞれ4位と6位に食い込み、高いポテンシャルを見せつけた。念願のWRC初優勝は1995年のスウェディッシュラリー。氷点下20度の氷と雪の世界でランサー・エボリューションは抜群の速さを披露しエリクソン選手が見事に優勝を飾る。2位にも同じランサーのマキネン選手が入った。

 市販モデルは実戦から得たさまざまなノウハウをつぎ込んで進化した。1993年12月には最高出力を260psにアップしたエボリューションIIが登場。さらに1995年1月、最高出力270psのエボリューションIIIに進化したのだ。WRCで鍛え上げられた進化する駿馬、それがランサー・エボリューションの本質だった。日本車では希有な生粋のサラブレッドである。