ワゴンR 【1993,1994,1995,1996,1997,1998】
軽自動車の楽しさを再発見させたトールワゴン
1993年9月、それまでの軽自動車とは全く異なる発想で開発されたトールワゴン・パッケージの軽自動車が登場した。スズキのワゴンRである。ワゴンRが、他の軽自動車と違っていたのは、商用ワンボックスやピックアップからの派生モデルではなく、独立したユーティリティワゴンとして最初から開発されていたことだった。このような開発過程を持った軽自動車はそれまで無かった。
ワゴンRの車名に付けられた「R」の意味は、革新を意味する英語のレヴァレーショナリイ(Revolutionary)、あるいは快適さを意味するリラクゼーション(Relaxation)のイニシャルであるという。これだけでも、ワゴンRというクルマがどのような意図で開発されたかが分かる。
ワゴンRのカタログには「クルマは人の友達として、これからも無限の可能性をひらくに違いない。ワゴンRはその中心となる、クルマより楽しいクルマを目指して開発した」と誇らしげに記載されていた。
もっと広く、もっと使いやすく、もっと美しく、大人4人がゆったり乗れて、荷物をたっぷり積めて、遊び心もいっぱいに……と、いろいろな夢を盛り込んだ結果がワゴンRだった。そしてカタログでは「生活の真ん中で楽しさを創造する、その人。普段のなにげない生活を大切にし、毎日の生き方そのものが自由な、その人。そんな人たちに愛用されるパーソナルな道具が、ワゴンR」と説明した。
ワゴンRの既成概念に縛られない発想は、人間重視の開発姿勢が生みだしたもの。それが従来にない機能に結実し、大ヒットに繋がったのである。
ワゴンRは、軽自動車の最大サイズのスチール製ボックスに4個の車輪とエンジンを搭載した実用スタイル。完全なフルフロンテッド(キャブオーバー)型とせず、フロント部分に多少のノッチを付けてドライバーと助手席を後退させたのは、前面からドライバーまでの距離を大きくして衝突安全性を確保するためとドアの直下に前輪を置かないようにして、乗降のし易さを狙ったものだ。もちろん、既存のエンジンを横置き搭載したFFレイアウトのパワートレーンの利用と乗用車的な雰囲気を盛り込むためでもある。
面白いのは、サイドドアが左側に2枚、右側に1枚しか無いことだ。軽自動車サイズのボディの剛性を向上させる苦肉の策(?)ではあるが、実用上はこれで十分なのである。ただし後にコンベンショナルな両側2ドアのボディが追加され、そちらが主流となった。リアのテールゲートはボディ幅一杯の大型サイズで、2本のガス式ストラットで支えられ、開け閉めは楽だ。
インテリアは一般的な軽自動車のデザインを大きく踏み出すものではないが、2列4人分のシートは天井が高い分十分なスペースがある。また、後席は前方に折り畳めるのはもちろんだが、助手席シートバックも前倒しできるだけでなく、座面も前方に跳ね上げることができ、自転車やサーフボードなどのレジャー用品を始めとする長尺モノの積載に重宝した。
デビュー当初のワゴンRのバリェーションは、車形が1車形であることもあって、主に装備の違いで4グレードがあった。駆動方式は、フロントエンジン、フロントドライブ(FF)のほか、スズキ独自開発のロータリー・ブレード・カップリング方式のフルタイム4WD仕様も設定していた。
エンジンは基本的にはセダンのセルボ・モードと共用する水冷直列3気筒SOHC12バルブで、排気量657ccで10.5の圧縮比と電子制御燃料噴射装置を装備し、55ps/7500rpmの最高出力を得ている。これは、セルボ・モードとは異なるチューニングとなっており、低回転、高トルク型としてワゴンR の使われ方により適したものとなっている。
トランスミッションは5速マニュアルと3速オートマチックの設定。サスペンションは前ストラット/コイルスプリング、後・トレーリングアーム/コイルスプリングの組み合わせでスポーティーな走りも楽しめるように考えられていた。
軽自動車という限られたサイズの中で、あれもこれもと欲張ったクルマが多い中にあって、背の高いユーティリティワゴンという、革新的とも言える明快なコンセプトの下に開発されたワゴンRは、最もシンプルなRAの79万8千円から4輪駆動システムを装備した最高グレードのRG-4の106万8千円までと、十分に魅力的な価格設定もあり、発売されるやたちまちトップセラーとなった。
ワゴンRの人気の理由。それは、虚飾を可能な限り廃し、必要十分な装備と性能に徹したことにある。軽自動車の場合は、安価なことは必須条件でもあるが、無駄を削り取ったことでコストも低く抑えることが可能となったわけである。1993年のデビューから2010年までの生産台数は350万台を超え、現在も安定した販売を誇っている。日本的な名車と言って良い。