スカイラインTI 【1977,1978,1979,1980,1981】
本格派の走りを追求した4気筒モデル
2000GT以上にマニアックな存在、それがスカイラインTIだ。TIは、軽量コンパクトな4気筒エンジンを搭載したシリーズで、TIというシリーズ名称は、1977年に登場した5代目モデルから加わった。もともとスカイラインは4気筒エンジンを搭載したモデルがオリジナル。6気筒ユニットを積む2000GTはスペシャル版である。しかし、3代目の通称“ハコスカ”以降、販売面でもイメージ面でも、スカイラインといえば2000GTの印象が強くなっていた。5代目の4気筒シリーズが新たにTIを名乗ったのは、アイデンティティの再確立という意味合いが強かった。
4気筒エンジンを搭載したスカイラインは完成度が高く、動力性能面でも、ハンドリング面でも、非常にバランスが取れた存在だった。2000GTシリーズが魅力的だったのは、ベース車となった4気筒シリーズの高い実力があってこそだったのだ。しかし、販売面ではその実力が理解されない。開発陣はジレンマを抱えていた。解決策がTIの新シリーズ名だった。4気筒スカイラインの魅力を象徴する新名称が付けば、ユーザーが魅力を認知しやすいという読みである。
ちなみにTIとはTouring Interbationalの略で、カタログでは「国境を越えロングドライブを楽しむヨーロッパで求められ、育てられてきた車名。俊足と経済性と快適な乗り心地というトータルバランスのすぐれたクルマを象徴する呼称です」と説明されていた。意味的には長距離クルーズを快適かつ俊敏にこなすGT(Grand Touring)とオーバーラップする。しかし “経済性”という文言を組み込んでいることがTIの独自性といえた。
TIシリーズには1600と1800の2種の排気量シリーズが用意され、ボディタイプもセダンと2ドアハードトップを設定するなど、非常にワイドな構成だった。1600が搭載するパワーユニットはキャブレター仕様のL16S型直4OHC(100ps/13.5kg・m)。1800はキャブレター仕様のL18S型直4OHC(105ps/15kg・m)と電子制御インジェクション仕様のL18E型直4OHC(115ps/15.5kg・m)の2種から選べた。ちなみにインジェクション仕様の115psという最高出力は2000GTが搭載するキャブレター仕様のL20型直6OHCと同等である。
TIの特徴は、引き締まったプロポーションだった。エンジン長の短い直4ユニットを搭載するだけにノーズは短く、全長はセダン、ハードトップともに4400mm。2000GT系と比較すると200mmもコンパクト。キャビンやトランク回りのプロポーションは基本的に2000GT系と共通だったから、TIは200mmノーズが短かいことになる。しかもTIは軽量だった。ほぼ同じ装備内容のハードトップ同志で比較しても、TIは1065kg(1800TI-E・Lタイプ)、2000GTは1190kg(GT-E・Xタイプ)とその差は125kgもあった。重量の違いはエンジンに起因するものがメインだったから、前車軸重量が100kg以上違ったことになる。前後の重量バランス面でTIは2000GTより圧倒的に優れていた。TIは後輪サスペンション形式が、2000GTのセミトレーリングアーム式ではなく、よりオーソドックスな4リンク式のリジッドとなっていたが、それでもワンディングロードの操縦性は、TIのほうがシャープで意のままに走るイメージが強かった。
軽快な走りを好むドライバーにTIは2000GT以上に好評を博した。なかでもTIシリーズのトップグレードのTI-E・Sタイプは走りのレベルが高かった。TI-E・Sタイプは、専用調律のサスペンションと、70偏平のワイドラジアル、サポート性に優れたスポーツシートなどを標準装備し、BMWやアルファロメオといった欧州製スポーツセダンに匹敵する、高いポテンシャルを秘めていたのだ。ちなみに実験で使用されたテスト車の台数は130台以上、テスト走行距離は延べ460万kmにもなったという。
スカイラインの設計者の桜井眞一郎氏はスカイラインの魅力を「初めて乗っても、長い間、乗り慣れたクルマのような感触を持っていること、いわば設計者の魂が宿ったクルマ」と表現していたが、TIはまさにそんな味わいを持つクルマだった。適度にパワフルで、しなやかな乗り心地と、軽快なハンドリングを実現した上質モデル、それがスカイラインTIの本質だったのである。残念ながらTIの新シリーズ名を冠した5代目も販売面では脇役的な存在で、主役はあくまで2000GT系だった。しかし4気筒モデルをしっかりと作り込んでいたことにスカイラインの良心が込められていたともいえた。