ティーノHV 【2000】

100台限定で販売された環境対応型ハイトワゴン

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日産製ハイブリッド車の開発

 地球温暖化の問題がクローズアップされ、エルニーニョ現象や海水温の上昇、世界規模での異常気象などがマスコミで騒がれ始めた1990年代の中盤。自動車業界では省エネルギーやCO2削減などが研究テーマとなり、新しい動力源の開発に凌ぎを削っていた。
 その状況下で日産自動車は、内燃機関(エンジン)の省燃費化や排出ガスのクリーン化を積極的に推進し、ULEV(Ultra Low Emission Vehicle=超低排出ガス車)や“NEO Di”と称する直噴エンジンを生み出していく。同時に、エンジン+モーターを動力源とするハイブリッドカーやモーターのみのEV(Electric Vehicle)の開発も鋭意、展開した。

 ハイブリッドカーについては、次世代のパワートレインを積み、同時に日産の中心車種になる予定のハイトワゴン、「ティーノ」をベースとすることに決まる。ちなみに、当時の開発者に話を聞いた際は、「検討段階ではマーチなどのコンパクトカーをハイブリッド化し、燃費性能を市場にアピールする提案もあったが、このカテゴリーでは後発ということで、違った形のハイブリッドカーを製造したほうが得策と判断し、ティーノを選択した」という。また、「大口顧客の官庁筋から、プリウスよりもっと荷物が積めるハイブリッドカーがほしいという要望があったことも、ワゴンタイプのティーノを選んだ理由だった」そうだ。

動力源には“NEO HYBRID”を採用

 ハイブリッドカーの動力源に関しては、“技術の日産”の名に恥じない先進のハイブリッドシステムが企画される。モーターは交流同期電動機で、17kWの最高出力を1390〜5600rpm、155Nm(15.8kg・m)の最大トルクを0〜700rpmの回転域で発生。組み合わせる主電池には、ソニーや新神戸電機と共同で開発したマンガン系正極リチウムイオンバッテリー(3Ah)を2個、直列に搭載した。また、減速時にはモーターが回生発電を行う機構も盛り込む。

 開発陣はエンジン側にも注力する。既存のQG18DE型1769cc直4DOHCをベースに圧縮比を12.0にまで引き上げ、同時にインテークバルブの閉じ時期を遅くして高い膨張比を実現した“ミラーサイクル”エンジンを生み出したのだ。パワー&トルクは101ps/5200rpm、14.4kg・m/4000rpmを確保した。エンジンとモーターの出力切り替えについては、専用タイプの電磁クラッチを採用する。また、ミッションには専用セッティングのハイパーCVTを組み込み、緻密な制御によるスムーズな加減速と低燃費を実現した。

 “NEO HYBRID”と呼ぶ新しい動力源を完成させた開発陣は、装備面についても工夫を凝らした。外装ではLED式のリアコンビネーションランプや15インチアルミロードホイール、ブルー色で仕立てた“Tino”“NEO HYBRID”の専用エンブレムなどを装着。内装にはグラフィックエコモニター(システムモードおよびパワーモード)/エネルギー履歴画面/エネルギーメーター画面を表示するマルチファンクションディスプレイを組み込む。さらに、パワーステアリングやブレーキブースターには電気式を採用した。

ネット受付当日に販売予定台数の予約を達成

 2000年3月23日、日産から新しいハイブリッドカーの「ティーノ・ハイブリッド」が発表される。車両価格は315万円で、販売台数は100台限定。購入予約は翌4月の14日よりインターネットで受け付けることとし、購入者にはコンパスリンク対応アダプター+ハンズフリーシステムの無料提供/コンパスリンク入会手数料および6カ月間会費の無料化/24時間サポートサービスの1年無料、という特典をつけた。
 ネットでの受け付けを開始したティーノ・ハイブリッドは、その当日に販売台数分の予約を受注する。ユーザー傾向は個人:法人および自治体が60:40で、平均年齢は46.4歳。購入動機には、「大人5名が乗れるハイブリッドのワゴンだから」「CVT技術や高性能リチウムイオン電池に興味を覚えた」などの意見が寄せられた。

 少量生産ながら、“技術の日産”の意地を見せたティーノ・ハイブリッド。しかし、当時は会社自体が経営再建のための“リバイバルプラン”を推進していた最中だったため、結果的に高コストのNEO HYBRIDの拡大展開は見送られる。後に実施されたのは、トヨタ自動車からハイブリッド技術の供給を受けるという戦略。そして先進の環境対応車の独自企画に関しては、EVの開発をメインにシフトしていったのである。