iQ 【2008,2009,2010,2011,2012,2013,2014,2015,2016】

多彩なアイデアを凝縮したマイクロプレミアム

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


小型車の新しい可能性を提案

 2008年10月から販売が開始されたトヨタiQは、トヨタのモデルレンジとしては最もコンパクトなモデルだった。基本コンセプトは、標準的な体形の大人3名と子供が1名(あるいは多少のラゲッジ、ただしカタログ上の定員は4名)を乗せることができるAセグメントのコンパクトカーというもので、とくに走行性能において、小型車に匹敵するものを実現しようとしていた。

 車名の「iQ」とは、インディヴィジュアリティ(Individuality=個性的)とイノベーション(innovation=革新)、インテリジェンス(intelligence=知性)およびクオリティ(quality=品質)を意味する単語の頭文字を組み合わせている。小型だが高品質で高性能かつ個性的なスタイルを持ったクルマを示すものと言う。クルマを取り巻く環境が厳しさを増す中にあって、小型車のセグメントに新しい可能性を提案するトヨタの意欲作である。

各国のモーターショーでプロモーションを展開

 iQの発売までには、さすがのトヨタも慎重の上にも慎重を期していた。2007年9月のフランクフルトモーターショーにおいて初めてiQコンセプトと呼ばれる全く新しいコンセプトモデルを公開。続く同年の東京モーターショーでもiQコンセプトを展示して市場の反応を確かめていた。そして、翌2008年3月のスイスのジュネーブで開催されたジュネーブモーターショーで量産モデルのプロトタイプを発表、同じく2008年10月のパリサロンで最終的な量産モデルを発表している。まさに慎重そのもののプロモーション活動で、石橋を叩いて渡ったという訳である。

 これほどまでにトヨタがiQの発売に慎重だったのはトヨタにとって、この種のモデルは未知のモデルであったからに他ならない。マーケットの動向やターゲットとなるユーザー層のイメージなど、全く判らないものであり、そうした状況への対応策も存在していなかった。

クラスを超えた走りと優れたクオリティ

「Aセグメントのボディサイズでありながら、Bセグメントの走行性能を持ち、Cセグメントのクオリティを実現した」と強調するiQは、ホイールベースが2000㎜、全長が2935㎜、全幅1680㎜、全高1500㎜となっており、まるで巨大なサイコロの四隅に車輪を付けたような格好をしている。数年前から、省エネルギーやクリーン化志向の高まりなどもあって、とくにヨーロッパを中心にAセグメントと呼ばれる小型車への関心が急速に高まりつつあった。

 メルセデスベンツと時計メーカーのスウォッチが提携して開発したスマートなど、今までには考えられなかったコンセプトとスタイル、メカニズムを持った小型車が登場。スマートが2000年12月に日本で正式販売が開始された時の価格は、2人乗りのスマート フォーツーが154万3500円だった。Aセグメントのコンパクトカーとはいえ、上級クラスと同等のプライスタグを掲げたのだ。つまり小さいことを、新たな付加価値と捉えていた。iQ も同様だった。iQはトヨタのAセグメントへの本格チャレンジであり、メーカーとしての先進性を象徴する存在として開発されていた。

巧妙な手法のパッケージング

 iQは従前の小型車開発の常識には囚われない、自由な発想の下で開発が進められた。
「コンパクトだが、我慢はない」という、意表を突いた開発目標を掲げて、開発がスタート。スタイリングデザインを含めて、全体の開発はトヨタのヨーロッパのデザインスタジオとしてフランスに設立されたED2によって行われた。軽自動車的な匂いがしないのは、そのためである。

 ホイールベース2000㎜、全長2985㎜のサイズでは、4シーターにこだわるより、スマートのように、2人乗りで余裕を持たせた方が良いように思われるが、そこがiQの他とは違うところ。大きなスペースを占めるエンジンやトランスミッションを極力小型化して構造を工夫、サスペンションの構造を小さく効率的なものとし、さらに前席床下に薄型の燃料タンクを置き、パワーステアリングを電動式にすることなどメカニズムの凝縮化で前後のオーバーハングを可能な限り切り詰め、4個の車輪をボディーの4隅に追いやることを可能とした。

 これにより4シーターのスペースを生み出している。また、後部座席には上下の位置調節が可能なヘッドレストが設けられ、小さいながらもトランクスペースさえ備わっていた。後部座席を前方に倒せば、トランクスペースはさらに拡大できるなど、まさにアイデアの塊でもある。その先進性が認められ、2008~2009年の日本カー オブ ザ イヤーを獲得している。

たった890kgの軽量ボディ。日本仕様はリッターカー!

 フロントに横置きされ、前2輪を駆動するエンジンは、デビュー当初では日本国内向けとして排気量996㏄の直列3気筒DOHC(1KR-FE型、出力68ps/6000rpm)1種のみとなる。ただし、欧州市場向けには直列4気筒の1.3Lガソリン仕様や、ターボチャージャー付きディーゼルエンジン仕様も用意されていた。トランスミッションはSuper-CVT-iと呼ばれる電子制御による無段階変速。サスペンションは前がストラット/コイルスプリング、後がトーションビーム/コイルスプリングの組み合わせ。ブレーキは前がベンチレーテッドディスク、後がドラムでサーボ機構を持つ。ステアリングは電気式のパワーアシスト付きで、最小回転半径は3.9mとなっている。車重は890㎏と軽い。iQは日本市場ではネッツ店系列の専売車種となっていた関係で、ノーズ部分とトランクリッドに装着されるエンブレムは、ネッツ(Netz)のイニシャルであるNを図案化したものとなっている。一方、輸出モデルのものは世界共通のトヨタのエンブレムが付けられる。

1.3リッターをラインアップに追加

 その後、iQはメカニズムやスタイリングなどに基本的な変更はなかったが、2009年8月から日本市場向けに130Gレザーパッケージと呼ばれる豪華高性能仕様が加えられた。エンジンをヨーロッパ仕様と同じ1329㏄の直列4気筒DOHC(1NR-FE型、94ps/6000rpm)とし、内装を革張りとしたもの。また、2009年6月には英国のアストンマーチンがiQをベースにしたシグネットを生産。さらに、電気自動車(EV)仕様の開発も本格化している。

 すでに台数としては飽和状態に近くなり、あらゆる方向へと多様化がより一層進むクルマ社会と自動車メーカーの中で、他には存在していない個性的なコンセプトを持つトヨタiQは、大いに注目された。