ソアラ 【1981,1982,1983,1984,1985,1986】

先進技術を結集した最高級スペシャリティクーペ

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欧米の上級クーペをライバルに想定

 日本国中が未曾有のバブル景気へと向かいはじめていた1981年2月、トヨタ自動車は日本車初の本格的な高級スペシャルティカーとなるソアラを発売した。5人乗り2ドアクーペのスタイルを持つ大型車だ。車名のソアラ(Soarer)とは、最高クラスのグライダーの呼び名であり、大空を音もなく滑空する、優雅な乗り心地とスタイルを象徴していた。ソアラの直接的なベースとなったのは、1980年11月に大阪で開催された大阪国際モーターショーに出品展示されたコンセプトモデルのトヨタEX-8。ただしEX-8は、コンセプトモデルとは言うものの、事実上は数カ月後の1981年2月にほとんどそのまま発売されるソアラのプロトタイプとなっていた。

 トヨタがソアラを開発した主な理由は、欧米のメーカーが特に力を入れていた上級クラスのスペシャルティカーやパーソナルカーをトヨタとしてもラインアップに加えることであった。したがって、ソアラの開発過程でライバルとして意識していたのは、ヨーロッパ車ではメルセデス ベンツSLCクラスであり、BMW6シリーズであり、ジャガーXJ-Sなど。アメリカ車ではフォード サンダーバードであり、キャデラック エルドラドなどであったという。

考えられる先進技術を存分に投入

 トヨタの自動車技術の全てを盛り込んだ、いわばショーケースとしての役割を与えられたソアラは、当然ながらエンジンからシャシー、サスペンションに至るまで、すべてが新設計となっていた。ボディは、フルモノコック構造の2ドアクーペのみの設定で、グレードは2800GT、同エクストラを筆頭に、2000VⅠ、同VⅡ、同VR、同VXの6グレードとなっていた。ボディサイズはホイールベースが2660㎜の設定。メルセデス ベンツSLCよりは大分短くなっているが、アウディのクーペやBMW6シリーズよりは若干大きい。全長4655㎜、全幅1690㎜、全高1360㎜のサイズは、国産クーペモデルとしては異例なビッグクラスとなっている。スタイルは当時のプレス技術の粋を感じさせる直線基調のシャープなもので、端正な美しさを見せていた。

 インテリアは贅をつくしたと言える豪華装備が満載されていた。最大の目玉はタッチパネル方式を採用したオートエアコン、走行速度から目的地到達時間を予測できるドライブコンピューター、さらに音声で警告を発するエレクトロニックスピークモニター、電子制御クルーズコントロール、デジタル表示のインスツルメンツパネルなどがそれである。いずれも今では特に目新しいものではないが、40年前にこうした装備を持ったモデルを完成していたのだから、人々を驚かせるには十分だった。

珠玉の2.8リッター6気筒DOHCを搭載

 駆動方式はフロント縦置きエンジンによる後2輪駆動。エンジンはソアラ専用に開発された、排気量2759㏄の直列6気筒DOHC(5M-GEU型、出力170ps/5600rpm)をメインとして、排気量1988㏄の直列6気筒SOHC(1G-EU型、出力125ps/5400rpm)もあった。

 ソアラに搭載されたストレート6&DOHCの形式を持つ5M-GEU型エンジンは。ソアラの大きなセールスポイントだった。1981年のデビュー当時、トヨタにはすでに2つのDOHCエンジンがあった。それらはカムリやセリカなどに搭載の18R-GEU(2リッター直4DOHC、135ps/17.5kg-m)と、レビンなどに搭載の2T-GEU(1.6リッター直4DOHC、115ps/15.0kg-m)。どちらも直列4気筒であった。ソアラに搭載の5M-GEU型エンジンは、トヨタにとって久々の6気筒DOHCエンジン。1967年に登場したトヨタ2000GT用の3M型以来の6気筒DOHCだった。ちなみにトヨタ初のDOHCエンジンの3M型は、1988ccの排気量を持ち、3基のソレックスを装着。最高出力150ps/6600rpm、最大トルクは18.0kg-m/5000rpmを発揮していた。EFIと2759ccの排気量を持った5M-GEU型エンジンは、3M型に比べて、20ps/6kg-m上回るスペックを持っていた。

足回りは4輪独立システムを採用

 トランスミッションは5速マニュアルと4速オートマチックを選ぶことができた。油圧パワーアシスト付きのラック&ピニオン式ステアリングはトヨタ車としても初めて採用されたものであった。サスペンションは前がマクファーソンストラット/コイルスプリング、後ろはセミトレーリングアーム/コイルスプリングの組み合わせ。

 ブレーキは全グレードが4輪ベンチレーテッドディスクでサーボ機構を持つ豪華版とされた。標準装備となるタイヤが2800GT仕様では195/70HR14となっているのが時代性を示している。

国産ライバルを瞬く間に一蹴

 1981年6月にはインタークーラー付きターボチャージャーを装備した排気量1988㏄エンジン(M-TEU型、出力160ps/5400rpm)搭載モデルなどが加わる。さらに、1985年1月のマイナーチェンジに伴い、2.8リッターエンジンを2954㏄の直列6気筒DOHC(6M-GEU型、出力190ps/5600rpm)に変更するなどモデルライフ中、多くのリファインが実施された。

 ソアラは発売されるや大きな人気を集め、生産が注文に追い付かない活況を見せた。メーカーの市場に受け入れられるか否かの心配は杞憂に終わったわけだ。初代ソアラは、数カ月先行して発売された日産レパードの対抗馬としての位置付けもあったが、910系ブルーバードの派生モデルとなったレパードより、そのスペシャルティ度は数段上だった。レパードより高価な設定だったが、価格差は問題とならず、ソアラは日本における高級スペシャルティカーの市場を席巻してしまう。トヨタ一流のクルマ造りのセオリーと販売手法の完全な勝利であった。国産車の歴史の中でも特筆される存在の一台である。