カペラ・カーゴ 【1988,1989,1990,1991,1992,1993,1994】
サードシートを持つミディアムワゴンの実力派
1988年3月に5代目カペラのラインアップに加わったワゴン版のカーゴは、実直な設計により幅広いファンを獲得。思わぬロングライフ&人気モデルとなった。5代目カペラは4WS(4輪操舵システム)など時代に先駆ける先進メカニズムを満載して登場した。しかしセダン系から約10ヵ月遅れて登場したカーゴは、実用ワゴンとしての使い勝手を徹底的に追及し、あえて先進メカニズムの投入を見送っていた。
カペラ・カーゴが登場した1988年は、まだワゴンはファミリーカーとして一般的な存在ではなかった。4WDシステムを持つスバルのレオーネ・ツーリングワゴンといった少数の成功作はあったものの、ワゴンは商用車であるバンの豪華版、限られた人向けのモデルという位置づけにすぎなかった。
カペラ・カーゴも“カーゴ”というサブネームが示すように主力は商用バンだった。ボディの前半はセダンと共通だったが、後席の後半から一段高くなったルーフライン、リアのオーバーハングを伸ばしたプロポーションは、すべて充分なラゲッジスペースを確保するための工夫だった。しかし、この広いラゲッジスペースが、ワゴンのカペラ・カーゴに新価値をもたらした。
カペラ・カーゴはラゲッジスペースに2名掛けのサードシートを設け、7名もの乗車定員を実現した。ラゲッジスペースにサードシートを備えるのはアメリカンワゴンの特徴で、日本車でもセドリックやクラウンのワゴンが採用していた。しかしカペラなどミドルクラスのワゴンでサードシートを備えた例はなかった。
カペラ・カーゴはサードシートを配置することで“生活を豊かに演出するワゴン”という独自のポジションを確立する。サードシートとはいっても今日のミニバンとは異なり後ろ向きに座る、いわば補助席に過ぎない。実用性はそれほど高いとはいえなかった。それでもサードシートは魅力的だった。セダンはもちろん、従来のこのクラスのワゴンでは味わえないプラスαの余裕を感じさせた。
カペラ・カーゴはスタイリッシュでもあった。欧州調のデザインテーストを崩すことなく、セダン以上に伸びやかな造形にまとめていた。ルーフ部まで大きく回り込んだラウンディッシュなリアウィンドーなどワゴンらしい演出も巧みで、楽しい週末を自然と連想させたのである。サードシートとともに、このスタイリングは大きな武器だった。
ワゴン版のカペラ・カーゴは当初1789ccのF8型・直列4気筒OHC12V(97ps/14.6kg・m)を搭載したGL-Xの1グレード構成で、トランスミッションこそ5速MTと4速ATが選べたものの駆動方式はFFのみ。4WDの設定はなかった。しかしメーカーの予想を上回る販売セールスがカペラ・カーゴを活性化させた。
1989年6月に経済性の高さとパワフルさで定評を得ていたプレッシャーウェーブ・スーパーチャージャー仕様のRF型・直列4気筒ディーゼル(82ps/18.5kg・m)搭載車を追加設定。このRF型ディーゼルは、僅か2000rpmで最大トルクを発揮し、ガソリンエンジン以上にパワフルな加速を約束した。燃費性能も優れており、ランニングコストはリッターカークラスと同等だった。
1990年になるとフルタイム4WDシステムとパワフルなFE型・直列4気筒DOHC16V(AT:145ps/19kg・m/MT150ps/18.8kg・m)を組み合わせたGTグレードが登場する。GTは高水準の走りを求めるユーザーニーズに応えたスポーティモデルだった。ちなみにGTは4WDの駆動機構を収めるためサードシートを装備することができず、定員は5名だった。
カペラ・カーゴは、セダン系がクロノスと名称を改め1991年10月にモデルチェンジしてもそのまま販売を継続。1994年10月にはエクステリアを大幅にリファインし、ネーミングもカペラ・ワゴンに改めた。好調な販売は、バブル崩壊後の厳しい販売環境のなかでも変わることはなく、マツダの経営をしっかりと支えた。カペラ・カーゴは、ユーザーに寄り添うまじめな設計の大切さを改めて教えてくれた隠れた名車である。