ホンダECO3 【1996,1997,1998,1999,2000,2001,2002,2003,2004,2005,2006,2007】
燃料電池を搭載した次世代車「FCX」の開発と進化
本田技研工業は内燃機関に代わる新しい動力源として、1980年代後半から電気自動車(Electric Vehicle=EV)の開発を本格化させ、1996年4月には独自開発の高効率DCブラシレスモーターにニッケル水素電池を搭載した「HONDA EV」を発表する。1充電での航続距離は10・15モード走行で210km、最高速度は130km/hに達したホンダ製EVは、量産型の「EV Plus」となって翌1997年9月からリース販売を開始し、日本やアメリカの官庁などに納車された。
ひとつの区切りをつけたEV。一方、本田技研の開発陣はさらなる高みを目指す。水素と酸素を化学反応させて電気エネルギーを生み出す次世代のパワートレイン、いわゆる燃料電池(Fuel Cell=FC)の開発に邁進する方針を打ち出したのだ。EVの弱点である航続走行距離の短さの払拭はもちろん、ハイレスポンスで力強い走り、さらにメンテナンス性などを考慮したうえでの燃料電池の選択だった。
先行開発部門のスタッフは、EV Plusで得た独自のノウハウを活用しながら、1990年代後半から2000年代の期間を目一杯に使って燃料電池車の開発に没頭する。実験車の車名は、「FCX」と呼称した。
1999年9月、「FCX-V1」「FCX-V2」という2タイプの燃料電池実験車が公開される。車体はともにEV Plusをベースとし、動力源はホンダ製の永久磁石型交流同期モーター(49kW)を搭載。そのうえで、V1にはバラード製PEFC(固体高分子型)の燃料電池スタックと水素燃料および水素吸蔵合金タンク(La-Ni5)を、V2にはホンダ製PEFC(固体高分子型)の燃料電池スタックとメタノール燃料およびオートサーマル改質方式を導入した。純水素型のV1とメタノール改質型のV2という、2種類の燃料電池車による実験は、後に効率性に優れる純水素型に主力が置かれるようになった。
2000年9月になると、進化版の「FCX-V3」が発表される。V3では制御装置を含めたFCシステムや永久磁石型交流同期モーター(60kW)の小型化などによって4名乗りのキャビンを創出。バラード製PEFCの出力は60kWから62kWにアップし、使用燃料には高圧水素を採用した。また、新たに瞬発的放電に優位なウルトラキャパシタを導入。持続的発電に優れる燃料電池との組み合わせによって、発進性および加速性の向上やエネルギー回生の引き上げ、充放電ロスの低減などを実現した。
FCXの改良はまだまだ続く。2001年9月には航続距離300km、最高速度140km/hを誇る「FCX-V4」が登場する。燃料電池スタックのPEFCは78kWまで出力アップ。水素供給システムでは新設計の高圧水素タンクを搭載して約350気圧の水素充填を可能とした。また、空気供給系には高電圧電源モーター駆動のエアポンプを装着し、適切な圧力と流量の空気を燃料電池スタックに送り込む。さらに、ウルトラキャパシタの高効率化も実施。発進・加速時の出力アシストと減速時のエネルギー回収をいっそう向上させた。
FCXの開発は、2002年10月に発表したプロトタイプによって、ひとつの区切りを迎える。V4をベースにメカニズムの信頼性と効率性を高め、ボディをコンパクト化し、内外装のデザインや装備も見直したプロトタイプが、国土交通省の公道走行認可を取得したのである。市販までに残る開発過程は、実際の使用条件における走行確認および最終調整だけとなった。
公道での走行実験開始からおよそ2カ月後の2002年12月、FCXはついに市場デビューを果たす。リース形式で最初に納車されたのは日本の内閣府とアメリカのロサンゼルス市庁。日本での納車時は当時の代表取締役社長である吉野浩行CEOが小泉純一郎首相に直接キーを手渡した。
FCXはその後、リース販売先を官公庁や民間企業に拡大させ、さらに2004年には箱根駅伝や屋久島ゼロエミッションプロジェクトなどに参加する。2005年6月にはアメリカのカリフォルニア州において個人向けのリース販売も開始した。
生産台数とPR活動の拡大を続ける本田技研のFCXプロジェクト。一方、開発現場では燃料電池車のさらなる発展を目指して、ミディアムクラスの新型車を企画していく。システムでは“V Flow(バーチカル・ガス・フロー)FCスタック”と呼ぶ新セル構造を採用した機構を開発。従来の燃料電池スタックに比べて容積出力密度で50%、重量出力密度で67%向上し、システム自体の軽量・コンパクト化と高効率化を達成した。さらに最高出力も100kWにまでアップする。
V Flow FCスタックを採用した新しい燃料電池車は「FCXコンセプト」の名称で走行実験が繰り返され、2007年11月のロサンゼルス・オートショーではより市販版に近い「FCXクラリティ」を公開する。新しいスタックに加えて、水素と空気の流路を波形形状とする“Wave流路セパレーター”を導入した新システムは、燃費や航続距離、さらに機構自体の効率性の面で世界トップレベルのFCパワートレインに仕上がっていた。