360カスタム 【1963,1964,1965,1966,1967,1968,1969】

乗用車イメージを持った高級ライトバン

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カスタム前史。コマーシャルの存在

 1963年8月に登場したスバル360カスタムは、名車スバル360のライトバン・バージョンである。
 スバル360のラインアップには1960年に、コマーシャルという名の商用車がデビューしていた。コマーシャルはそのネーミングからも分かるように商用貨物車、ライトバンの一種だった。しかし荷物を積むためのリアゲートは存在しなかった。基本ボディフォルムは360セダンと共通。リアウィンドウを含めたルーフ後半をキャンバスタイプの開閉式とし、リアのサイドウィンドウ部分をそっくり外側に倒れるようにしたモデルだった。コマーシャルは、後席部分に荷物を積みやすいよう工夫を施した簡易ライトバンだったのである。リアにエンジンを搭載し、なおかつモノコック構造ボディを採用したスバル360の場合、リアゲート付きのライトバンを作るにはボディを新規に設計し直す必要があった。コマーシャルは本格ライトバン登場までの“つなぎ”として企画されたモデルだった。

ライトバンの真打ち、カスタムの登場

 カスタムは、スバルが考えるライトバンの“真打ち”だった。カスタムには、1961年に登場し、瞬く間に人気モデルとなった軽キャブオーバートラック、サンバーの技術が生きていた。サンバーはトラック・ユーザーの酷使に耐えるように、車体を頑丈なフレーム構造としていた。エンジンや足回りなどメカニカルコンポーネントの多くを360と共用しながら、タフさを徹底追求していたのである。

 カスタムは、一見すると360セダンのボディ後半部分を改造してリアゲートを配置したライトバンに見えた。だがボディの構造面では、サンバーのフレーム付きシャシーにライトバンボディを架装したモデルといえた。最大積載量は250kg。各部は多くの荷物を積んでも音を上げないよう頑丈な作りとなっており、車重は360より約50kg重い450kgに増加していた。
 エンジンは排気量356ccの空冷直列2気筒(18ps/3.2kg・m)。トップスピードはセダンよりやや劣る85km/hだった。

 ラゲッジスペースは、3通りの使い方ができた。リアエンジン方式のため、低いラゲッジフロアーにならない欠点を逆手にとり、多彩な使い方が可能なライトバンに仕上げていたのだ。後席は、シートバックをエンジンルーム上面位置とつなげたり、前席側に折り畳める構造を採用。後席シートバックをエンジンルームとつなげると荷室長1195mmのフラットスペースが、前席側に折り畳むと最大荷室高932mmを誇る2段フロアスペースが出現した。さらに後席を立てた状態でも、荷室長710mmのスクエアスペースを確保。4人乗っても日常使用には十分な広さの荷室があった。積み荷に合わせてアレンジ自在な荷室は、ユーザーに好評を得る。

優れた乗り心地、スバル製ワゴンの原点!?

 カスタムは乗り心地のよさが自慢ポイントだった。サスペンション形式はセダンと共通のフロントがトレーリングアーム式、リアがスイングアクスル式の4輪独立タイプ。当時“スバル・クッション”と呼ばれたソフトな設定で、舗装路はもちろん、未舗装の田舎道でも快適な乗り心地を提供した。車重がセダンより重いことも乗り心地にプラスをもたらしており、セダン以上に落ち着いた印象だったという。ブレーキも強力だった。フロントブレーキには制動力に優れたユニサーボ式を採用。荷物を満載した状態でも安全に止まれるように配慮していた。

 カスタムは、多彩な荷室アレンジ、タフさ、そして良好な乗り心地を持った完成度の高いスバル360だった。おしゃれな印象のスタイルも含め、ライトバンというより、ワゴンと呼ぶのが似合うクルマだった。上質さをイメージさせる“カスタム”というネーミングを与えていたのには相応の理由があった。事実メインユーザーは、ヘビーなビジネスユーザーではなく、平日は小口配送に活用し、休日は家族や仲間とドライブを楽しむ個人商店主だったという。スバルは後年、ワゴンのトップメーカーに成長する。その原点はスバル360カスタムだったのかもしれない。