PAネロ 【1990,1991,1992,1993】

アメリカンテースト満載の小型スペシャルティ

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ヤナセが販売した個性派スペシャルティ

 いすゞと米国GMの共同体制から生まれた小型スペシャルティモデルがPAネロである。具体的にはいすゞが米国GMに「ジオ・ストーム」としてOEM供給していたモデルの日本仕様で、ピアッツァ・ネロの後継モデルとして輸入車ディーラーの老舗であるヤナセが販売を担当した。

 PAネロのセールスポイントは大胆なスタイリングにあった。アメリカ市場をターゲットに定めていただけに角形4灯式のセミリトラクタブル式ヘッドランプを持つロングノーズシルエットは鮮烈そのもの。大型ガラスハッチを持つリアエンド処理も個性的だった。ボディサイズこそ全長4180×全幅1695×全高1315mmと小型車枠に収まっていたが、その存在感は国産車のなかで飛び抜けていた。

超個性的なクーペフォルム

 長めのフロントオーバーハングに対し、極端に短いリアオーバーハングを持つプロポーションは、決してバランスに優れた造形とはいえなかったが、独特の味わいがあった。フロントマスクのデザインにはGMの人気スペシャルティカーであるシボレー・カマロの影響が見て取たる。

 販売ディーラーのヤナセは、カマロを含めGM車の販売もしていたから、この点は好都合だったようだ。ヤナセは、カマロのイメージを持った手頃なサイズのスペシャルティカーとしてPAネロを販売する戦略を立てる。

 なおPAネロの“ネロ”はイタリア語で黒を意味する。いすゞ版には当初設定のなかった黒いボディカラーを前面に押し出した先代のピアッツァ・ネロ(1981年デビュー)に由来するネーミングだが、PAネロは黒(エボニーブラック)だけでなく、コバルトブルーマイカや、鮮烈なフレッシュイエロー、フレームレッドの合計4色からボディカラーを選べた。

メカニズムは3代目ジェミニを踏襲

 PAネロのメカニズムは3代目ジェミニと基本的に共通である。サスペンションはリアに“ニシボリックサスペンション”と呼ぶナチュラル4WS機構を盛り込んだ4輪ストラット式で、ブレーキは前がベンチレーテッドタイプの4輪ディスク式を採用。ステアリング機構はパワーアシスト付きのラック&ピニオン式となっていた。

 GMのなかで “ジオ・ブランド”は個性的な小型車を揃えていたが、なかでもストームは最右翼。スタイリングだけでなくメカニズム面でも最も進んだ存在だった。しかもPAネロはストームでは上級版のみが搭載する1588ccのDOHC16Vユニット(4XE1型)を標準エンジンに選んでいた。4XEI型は140ps/7200rpm、14.5kg・m/5600rpmというパワフルなスペックもさることながら、レッドゾーン8000rpm以上のハイレスポンスを誇るスポーツ心臓である。

 車重が約1トンと軽量だったこともありパフォーマンスは刺激的で、5速マニュアルトランスミッションはもちろん、4速オートマチックを選んでも運動性能は秀逸だった。

過激な速さを持つイルムシャーRの衝撃

 PAネロは、1991年3月にさらに速さに磨きを掛ける。最高出力180ps/6600rpm、最大トルク21.2kg・m/4800rpmを誇るDOHC16Vターボ(4XE1ターボ)を積んだイルムシャー160Rをラインアップに加えたのだ。イルムシャー160Rは強靱な心臓に対応して足回りを欧州の著名チューナーであるイルムシャー社が調律。タイヤも195サイズの50偏平タイプを選んでいた。駆動方式はプラネタリー式センターデフとブスカスカップリングを組み合わせたフルタイム4WDである。ボディカラーはエボニーブラック、ノースホワイト、ミスティックブルーマイカの3色から選べた。

 160Rは室内もハードなスポーツ走行に対応するスペシャルな仕上がりで、シートはレカロ製のフルバケット、ステアリングはモモ製本革巻きを装備する。イルムシャーRの馬力当たり荷重は僅か6.61kg/psとリアルスポーツに匹敵し、とくに加速の鋭さは超一級品だった。手なずけるには相応のテクニックを必要としたが、鮮烈なスタイリングに相応しいパフォーマンスを持つ駿馬に仕上がっていた。