グロリア 【1959,1960,1961,1962】

“戦後初の国産大型乗用車”を謳った上級サルーン

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高品質・高性能な国産大型乗用車の開発

 日本屈指の技術力を誇る富士精密工業は、1957年4月に新世代の小型乗用車となる「プリンス・スカイライン」(ALSI)を発表する(発売は同年6月)。グレード構成はスタンダードのALSIS-1とデラックスのALSID-1を用意。搭載エンジンは当時の小型車枠に合わせて1.5リッター(GA30型1484cc直4OHV)を採用していた。

 「国際的な競争力と先進的な性能を持つ車」という開発コンセプトを掲げたスカイラインには、多くの独創的な技術が盛り込まれていた。基本骨格は「梯子型フレームとフレームレス構造の両方の良い点を兼ね備えた」と称するバックボーン・トレー式フレームのセミモノコックボディを新設計。スタイリングについても華やかな演出のフロントグリルやテールフィン、サイドモールなど当時のアメリカ車のトレンドを積極的に取り入れた。

 サスペンションはフロントにトーションバー式スタビライザーをセットしたウィッシュボーン/コイルスプリングを、リアにはリジッドアクスルとスイングアクスルの長所を組み合わせたド・ディオンアクスルの半楕円リーフスプリングを採用する。新設計のド・ディオンアクスルはデファレンシャルギアをフレーム側に装着し、同時に左右の車軸をド・ディオンチューブで結んでリーフ(90mm幅の3枚リーフ)で固定する構造であったため、バネ下重量の軽減と重心の引き下げを果たすことができた。ちなみに、この足回りの設計を主導したのは、後に“ミスター・スカイライン”と呼ばれることになる櫻井眞一郎氏だった。スカイラインは発売後、順調に販売台数を伸ばしていく。

皇太子のご成婚を記念して「グロリア」と命名

 スカイラインの企画を推し進める一方、富士精密の技術陣は新たなカテゴリーの新型車、具体的には3ナンバークラスの普通乗用車の開発に取り組む。きっかけは同社の会長でブリヂストンの創業者でもある石橋正二郎氏の長男の幹一郎氏が、「大型の高級車を造ってほしい」と富士精密に要請したこと。幹一郎氏は大のクルマ好きで、国産の大型乗用車がないことに不満を持っていたのだ。この意向を受けた富士精密は、設計部長の田中次郎氏を主担に据えて普通乗用車の開発に邁進し、1956年にはプロトタイプのBNSJを完成させる。4ドアセダンのボディサイズは全長4740×全幅1765mmで、エンジンはGB1型1862cc直4OHV(75ps/14.5kg・m)を搭載。当時の小型乗用車はエンジン排気量が1.5リッターまでだったので、BNSJは車格とエンジンともに立派な3ナンバー規格に仕上がっていた。この意欲作は、同年開催の全日本自動車ショウに出展されて大注目を集める。しかし、BNSJが市販に移されることはなかった。当時はタクシー需要を中心にどうにか国産小型車の販売が軌道に乗り始めた時期で、3ナンバーの普通乗用車の量産化などは考えられなかったのだ。

 結果的に2台の生産をもって開発が打ち切られたBNSJ。一方で、普通車造りのノウハウを蓄積した技術陣は、次の一手に打って出る。新世代の小型乗用車であるスカイラインの主要コンポーネントを使った普通乗用車を製作しようとしたのだ。これには、新設計のボディやバックボーン・トレー式フレーム、ド・ディオンアクスルを特徴とする足回りなど、排気量の大きいエンジンと組み合わせても十分な性能を発揮できるという技術陣の判断があった。搭載エンジンについてはGB1を改良したGB30型1862cc直4OHVを採用し、パワー&トルクは80ps/14.9kg・mにまで引き上げる。スタイリング面ではグリルの形状を変え、同時に新方式のゴールデン・ベルトラインの装着で、より豪華なムードに仕立て直した。インテリアでは、西陣織を使用したシートやセンターアームレスト、ルームハンガーなどを新設して上級感を引き立てた。

 スカイラインの普通乗用車版という性格を有した新型車は、「プリンス・スカイライン1900」の車名を付けて1958年開催の全日本自動車ショウで初公開される。発売は翌1959年2月に開始。車名については同年4月に皇太子明仁親王(平成天皇)のご成婚が予定されていたことから、これを記念して“栄光”を意味する「グロリア」(BLSIP-1)に改名した。ちなみにグロリアは、ご成婚月に皇太子殿下に納入されている。

より華やかで高性能な旗艦モデルへと進化

 プリンス初の普通乗用車はデビュー後も鋭意、年次改良が行われた。
 1960年2月にはデュアルヘッドランプや新造形のフロントグリルなどを組み込んだBLSIP-2に進化する。搭載エンジンもGB3型に切り替わった。社名をプリンス自動車工業に変更した翌1961年2月には、吸排気系の改良を施してパワー&トルクを94ps/15.6kg・mにまで引き上げたGB4型エンジンを採用するBLSIP-3に移行。最高速度は140km/hに達し、制動機構には新たにデュオサーボをセットした。

 1962年9月になると、グロリアは全面改良が実施されて2代目のS40型系に切り替わる。ここからはスカイラインと完全に分離し、独自のボディを採用して車格をいっそう引き上げたのである。