R/S1(コンセプトカー) 【1985】

モーターサイクルの痛快さを狙ったMRスポーツ

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開発陣の夢が結実したMRスポーツ登場

 1985年の第26回東京モーターショーのスズキブースには1台の深紅のスポーツカーが展示され、来場者の目を釘づけにした。「R/S1」とネーミングされたミッドシップスポーツである。1985年当時のスズキはアルトやセルボといった軽自動車がメインモデルだった。小型車もカルタスで一定の人気を獲得していたが、実用性を主眼にしたモデルで、スポーティな印象は希薄といえた。

 R/S1は、スズキのブランドイメージを一新する意欲作だった。モーターショーに出品されるコンセプトモデルには、メーカーの技術レベルの高さをユーザーにアピールしたり、近い将来の生産車の商品性をテストするなど、多様な使命が課されるが、R/S1は「スズキの技術陣の夢の結実」という側面が強かった。市販を前提にしたコンセプトモデルではなく、エンジニアが「自分で乗りたいスポーツカー」を作ったという印象だったのだ。それだけにスタイリングもメカニズムも自由な発想に溢れており、非常に魅力的だった。

パワーユニットはインジェクション仕様1.3LDOHC16V

 R/S1は「スポーツカーのあるべき姿とは?」というシンプルな命題から開発がスタートしたという。スタイリングは往年のイタリアンスポーツであるアバルトのような流麗なイメージでまとめられ、オープンエアが楽しめるようルーフレス構造を採用していた。ボディの前後を絞り込んだスタイリングは実にスタイリッシュだった。機能性にも優れており、空気抵抗が低いだけでなく高速走行時には有効なダウンフォースを生み出すように工夫されていた。またフロントノーズ上にはラジエターへのエアを調節する可変アウトレットを設置。機能的なアイテムをスタイリッシュに仕上げることで本格スポーツカーらしいアクティブな印象を訴求することに成功する。ボディサイズは全長×全幅×全高3670×1650×1090mmとコンパクト、車重は720kgと超軽量だった。

 駆動方式は、エンジン横置き方式のミッドシップ。パワーユニットは、カルタス用の1.3L直列4気筒ユニットを4バルブDOHC化したもので、出力スペックは未公表だった。しかし1986年にカルタスに追加設定されたDOHCエンジンは97psの最高出力だったから、それと同等以上のポテンシャルを持っていたと推察できる。燃料供給装置は当時最先端の電子制御燃料インジェクション機構が組み込まれていた。ちなみにキャビン後方にマウントされたエンジンは、リアウィンドウ越しに見えるように演出されていた。

モーターサイクルの経験を活かしたMRハンドリング!?

 サスペンションはフロントが新開発のダブルウィッシュボーン式、リアはストラット式の4輪独立タイプ。当時開発エンジニアは「アクセルでクルマの姿勢をコントロールできるのがスポーツカーの醍醐味」と語っており、シャープなセッティングが施されていたことは間違いない。ブレーキは4輪ディスク式で、タイヤは前195/50VR15、後205/50VR15のワイドシューズを装着する。

 インテリアはタイトな2シーターレイアウト。サポート性を重視したシートには、前方から取り入れたエアがシートクッションとシートバックに導かれる独自のベンチレーション機能が付き、メーターパネルは速度やエンジン回転数、各種警告表示を6inのCRTパネルに表示するシ先進ステムを採用していた。コンセプトモデルながら実用性も吟味されており、リアエンドには実用的な容量を持ったトランクスペースを配置する。

 R/S1をメーカーは「モーターサイクルのように身体と一体化するライト&ピュアスポーツ」と表現していた。4輪スポーツカーの分野では新参者だったが、2輪スポーツバイクでは豊富な経験を誇ったスズキだけに、R/S1の走りはいままでにない新鮮な味わいだったに違いない。残念ながらコンセプトカーに留まったが、もし市販されていれば心に残る名車になっただろう。