パルサーX1ツインカム 【1986,1987,1988,1989,1990】

新世代スポーツ心臓を積んだ俊足ハッチ!

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待望のDOHC16Vモデルの誕生!

 1986年5月に生まれ変わった3代目パルサーには、マニア待望の新グレードが設定されていた。3ドアハッチバックに用意されたミラノX1ツインカムである。新開発のCA16DE型1698cc直列4気筒DOHC16Vユニットを積むスポーツグレードだ。

 1984年10月にデビューしたトヨタ・カローラFX-GT、同年11月に登場したホンダ・シビックSiを契機に、パルサーが属する小型ハッチバック分野ではDOHC16Vユニットが圧倒的な人気を集めるようになっていた。1シリンダー当たり吸気2/排気2の4バルブ構成やDOHCレイアウトのハイメカニズムが生む圧倒的なパワー、そして高い技術イメージがマニアを魅了したのである。事実カローラFX-GTの4A-GEU型(1587cc、130ps/15.2kg・m)も、シビックSiのZC型(1590cc、135ps/15.5kg・m)も超高回転域まで軽快に吹き上がり、パフォーマンスは純スポーツカーレベル。回すほどに澄み渡るエンジンサウンドもごきげんだった。だが、日産には1.6リッタークラスのDOHCエンジンの持ち駒がなかった。2代目パルサーにもスポーツグレードは用意していたが、それはターボだったのだ。

全域高性能を追求した爽快スポーツ心臓

 2代目パルサーの1487ccの排気量から115ps/17kg・mを発揮するE15型ターボ・エンジンは十分にパワフルだった。しかしイメージ的には“特別なエンジン”ではなかった。実用ユニットのE15型をリファインした “普通のエンジン”に過ぎなかったのである。実際には緻密なノックコントロールやシリンダー毎の燃料噴射システムを持つなど、E15型ターボは特別なエンジンだった。しかしユーザーの目にはそう映らなかったのである。このため2代目パルサーは、スポーツマニアに人気の高いモデルではなかった。走りを求めるユーザーはカローラFX-GTやシビックSiを積極的に選んだ。

 日産はこの状況を打破するため新世代のDOHC16VエンジンであるCA16DE型を総力を挙げて開発。3代目パルサーに搭載した。パルサー・ミラノX1ツインカムのCA16DE型のスペックは最高出力120ps/6400rpm、最大トルクは14kg・m/5200rpm。数値的にはクラスの平均レベルに過ぎなかった。しかしこれはあえてカタログ数値上のピークパワーを求めず、使用頻度の高い中低速域のパワーを太らせた結果だった。実際は全域高性能を目指した爽快なスポーツ心臓と言えた。

高い完成度は最新制御技術の賜

 CA16DE型は点火システムにはイグニッションコイルで発生した強力な2次電圧を、直接各シリンダーのプラグに配電するNDIS(ニッサン・ダイレクトイグニッション・システム)を採用。さらに低回転から高回転までそれぞれの回転域で理想の燃焼を実現する電子制御可変吸気コントロールシステムNICSを組み込んでいた。NICSはインテークマニホールド(吸気ポート)にブランチ遮断弁を設置。それを開閉することによって、低速ではポート面積を絞り込み霧化を促進。高速ではポート面積を広げ効果的な吸気を促進する機構だった。

 DOHCエンジンは高回転域で鋭いパンチ力を示すものの、低速で非力な印象を与えるエンジンが多かった。CA16DE型はその弱点をNICSで解消したのだ。さらに深紅に塗られたエンジンヘッドや、2本だしマフラーなど “特別なエンジン”であることを視覚面でも演出していた。ちなみにマフラーは、周波数分析によって耳障りな音だけをカットし、力強いサウンド成分だけを残す専用サウンドチューンを施していた。

 実際にCA16DE型を搭載したミラノX1ツインカムの走りは活発だった。町中でもワインディングロードでもドライバーの望みどおりの走りを披露した。しかし速さは一級品なものの、全域で洗練されていたため、かえって感覚的にマイルドな印象を与えたのも確かだった。どこからアクセルを踏んでも均質な加速を示すスムーズさがドライバーを錯覚させたのだ。最新技術が生みだしたマジックと言えた。パルサーX1ツインカムは、気が付くと予想以上にスピードが出ているクルマの代表だった。完成度の高いエンジンの性格と、高い静粛性、しっかりとしたボディの作りもあって、欧州製スポーツモデルにも似た走り味を示したのである。

日産スポーツ心臓の主力に成長したCA16DE型

 パルサーに積まれてデビューした新世代スポーツ心臓のCA16DE型は、続々と搭載車種を増やしていった。1986年8月にはサニーの3ドアハッチバックとRZ-1と呼ぶクーペにツインカム・シリーズを設定。同年10月にはモデルチェンジしたエクサ、ラングレー、リベルタビラにそれぞれCA16DE型を搭載したスポーツモデルを設定する。ちなみにこのタイミングで従来は5速MTだけだったトランスミッションに4速ATを加え、幅広いユーザーがCA16DE型の魅力を味わえるようになった。搭載車種の増加にともなってCA16DE型の改良も進み、回転フィールは一段とシャープになり、静粛性も高まった。CA16DE型は瞬く間に日産の主力スポーツ心臓として完成度を増していったのである。