三菱デザイン2 【1963,1964,1965,1966】

自動車事業懇談会がもたらしたデザインの再構築



「自動車事業懇談会」の設置

 米国カイザー・フレイザー社の「ヘンリーJ」のノックダウン生産や独自設計の国民車となる「三菱500」の開発など、乗用車市場への進出に並々ならぬ意欲を燃やした新三菱重工業。同社は1960年10月になると、名古屋製作所を名古屋自動車製作所と名古屋機器製作所に分離する。さらに翌1961年には名古屋自動車製作所と京都製作所。さらに水島自動車製作所を加えた3事業所の連携を図る「自動車事業懇談会」を設置し、乗用車の開発によりいっそう注力する体制を整えた。

 懇談会において、大きなテーマのひとつに据えられたのが乗用車デザインの刷新だった。既存の三菱500や600は、虚飾を排した合理的なスタイルが識者から高く評価される一方、市場では簡素すぎて見栄えがしないと評され、販売成績は伸び悩む。市場に受け入れられる乗用車デザインを創出するためには--。最終的に懇談会の首脳陣は、米国GM社のデザインセンターに所属し、当時は休職してデザインコンサルタントの仕事を希望していたハンス・S・ブレツナーに白羽の矢を立てる。交渉の結果、ブレツナーを名古屋自動車製作所の技術部に招聘することに決定。新しく開発する乗用車のデザイン面で辣腕を振るってもらうこととなった。

フラットデッキデザインを採用した「コルト1000」

 三菱500および600の後を担う小型乗用車は“A20”の生産型式に決定し、車体が名古屋自動車製作所、エンジンは京都製作所において開発が進められる。そして1963年7月になって、「コルト1000」として市場に送り出した。
 肝心のスタイリングについては、前述のブレツナーの助言を受けながら、当時流行のフラットデッキ形状の3ボックス・4ドアデザインを構築する。さらに、ヘッドライトを含む豪華なフロントグリルや大型タイプのフラッシャーランプ、伸びやかで直線的なサイドライン、広いガラスエリアなどを採用し、近代感覚あふれる上品なエクステリアに仕上げた。

 コルト1000はルックス以外にも注目点が目白押しだった。搭載エンジンは水冷式のKE43型977cc直4OHVユニット(51ps/7.3kg・m)。ハイカムシャフト方式ハイスキッシュ燃焼室やラムマニホールドなどの新技術を盛り込み、リッター当たりの出力はクラス最強の52.2ps/Lに達する。また、足回りには複動式油圧ダンパーを組み合わせるなど、快適な乗り心地を実現した。

米国流高級車デザインを纏った「デボネア」

 小型乗用車の開発を進める一方で、懇談会では「高級車の企画も手がけるべき」という提案が出される。当初は開発および販売体制の未熟さを考慮して海外メーカーとの技術提携を模索し、具体策としてイタリアのフィアット社が造る「フィアット1800/2100」の生産を検討した。見本車を入手して走行試験を行い、組立計画なども実施した同社だったが、一方で新三菱重工が米国キャタピラー社との建設機械製造販売についての合弁会社設立の認可申請を通産省に提出していたことから、同省より「海外メーカーとの提携は、どちらかひとつに絞ってほしい」と促され、最終的に懇談会で高級車はフィアットとの提携ではなく、自社開発が決定する。スタイリングに関しては、コルト1000以上にブレツナーが深く関わることとなった。

 “A30”の名称で開発が進められた三菱ブランドのオリジナル高級車は、1963年10月開催の第10回全日本自動車ショーにおいてプロトタイプの「コルト・デボネア」が披露され、翌1964年6月に「デボネア」の車名で市場デビューを果たす。スタイリングに関しては当時のアメリカ製高級車の流行を独自解釈で取り入れ、モノコックボディをベースに伸びやかな前後フラットデッキやエッジを立たせたサイドライン、丸目4灯式のヘッドランプに押し出しの強い大型グリル、L字型の個性的なリアコンビネーションランプ、ブレツナー・デザインの特徴ともいえるリアフェンダー部のロケットランプなどを採用した。一方、エンジンについては新開発のKE64型1991cc直6OHV(105ps/16.5kg・m)を搭載。ミッションにはタッチの軽いダイヤフラム式クラッチを有するオーバードライブ付き3速フルシンクロMTを組み合わせていた。

国産初のファストバックスタイル「コルト800」

 高級車をリリースする一方、開発陣はコルト・シリーズの拡大展開も画策する。その中でスタイリング的に注目を集めたのが、1965年11月デビューの「コルト800」だった。
 コルト800は当時の欧州市場で流行の兆しを見せつつあったファストバックスタイルを国産車でいち早く取り入れる。同時に、アメリカ車風のテールフィンや伸びやかなサイドライン、存在感たっぷりのフロントグリルなどでオリジナリティを主張した。搭載エンジンは水島自動車製作所が企画した水冷式2サイクルの3G8型843cc直3ユニット(45ps/8.3kg・m)で、低速から高速にいたる全域で高性能を発揮する。

 斬新なスタイルで注目を集めたコルト800は、デビュー後も積極的にバリエーションを増強。KE43型エンジンを積む1000Fシリーズやハッチゲートを備えた3ドア、さらに4ドアを追加設定し、多様なユーザーにアピールしていった。