フィット 【2013,2014,2015,2016,2017,2018,2019,2020】

すべてを刷新した第3世代の革新コンパクトカー

会員登録(無料)でより詳しい情報を
ご覧いただけます →コチラ


3代目は世界のコンパクトカーの新ベンチマークを目指して−−

 ホンダ・フィットは2001年の初代モデルのデビュー以来、国産コンパクトカーのマーケットリーダーとして市場で高い人気を獲得してきた。センタータンクレイアウトによる高効率パッケージを武器に、2代目ではハイブリッド仕様を設定するなど、つねに進化を続ける。だが2010年代に入ると市場環境の変化への対応を求められるようになる。主たる変化は2つ。上級モデルからのダウンサイジングが進んだこと、そして税制面で有利な軽自動車の質が高まったことだった。

 コンパクトカーに対する要求性能のハードルがいっそう高まるという事態に対し、次期型フィットの開発陣は“攻めのモデルチェンジ”を計画する。目指したのは、四輪車の「スーパーカブ」。スーパーカブは1958年の発売以来、延べ160カ国以上で販売される世界的な2輪車のロングセラー商品だ。歴代フィットが実現してきたパッケージ効率や低燃費など、コンパクトカーとしての普遍的価値を圧倒的に進化させることで、スーパーカブのように世界中で愛されるグローバルな新ベーシックカーを具現化しようとしたのである。
 掲げた開発コンセプトは、「The World Best Functional Compact」。具体的には、“空間〜高効率なスペース”“燃費〜クラス最高水準の燃費”“かっこよさ〜デザインと走りの質の高さ”という3点を、新しい発想と技術で徹底追求することとした。

新型はセンタータンク式プラットフォームを全面刷新

 3代目フィットの根幹となる基本骨格には、伝統のセンタータンクレイアウトのパッケージングをいっそう進化させた新設計のプラットフォームを採用する。フロントセクションはフレームのストレート化を実施して衝突安全性をアップ。フロアフレームは薄型化した燃料タンクを下方から包むように配置する。また、パワートレインマウント位置の統一化を行い、多様な動力源の搭載を可能とした。重量も従来ユニットに比べて約12%の軽量化を達成する。コンポーネント自体は4つのモジュールで構成する方式を導入。キャビン以降の作り替えをより容易にすることによって、様々な車両デザインへの対応を実現した。

 組み合わせるボディには、780MPa級以上の超高張力鋼板を拡大展開するなどして衝突安全性能の向上と軽量化を高次元で両立させた新G-CONボディを採用。また、工法にはインナーフレーム骨格や新スポット溶接ガンを取り入れる。さらに、ドア構造は従来のサッシュ後付式から一体プレス式に一新し、軽量化および高剛性化とともに質感の向上も成し遂げた。

 一方、足回りに関してはフロントにトレール量およびキャスター角を増やしたマクファーソンストラット式を、リアにトレーリングアーム長の短縮化を図ったうえでクラッシュドパイプ構造としたトーションビーム式をセットする。ダンパーはサイズを従来比で約10%拡大。同時にリアダンパーのマウントは、バンプストップラバーとロッドの入力を分離したタイプに切り替えた。ボディサイズは、従来FF車比で全長が55mm長く(3955mm)、全幅の1695mmと全高の1525mmは共通で、ホイールべースは30mm長い(2530mm)ディメンションとなる。一方で、ボディ形状を工夫するなどして前後席ヒップポイントの距離を80mm、室内幅を前席35mm/後席20mm、前2席間を20mm拡大した。

地球環境に優しい3種のパワートレーンを新開発

 パワートレーンは“EARTH DREAMS TECHNOLOGY”を投入した新開発ユニット3機種を採用する。純ガソリン仕様は、アトキンソンサイクル化した省燃費指向のL13B型1317cc直列4気筒DOHC16V・i-VTECエンジン(100ps/12.1kg・m)と、燃料噴射を直噴化しパワーを追求したL15B型1496cc直列4気筒DOHC16V・i-VTECエンジン(132ps/15.8kg・m)をラインアップ。トランスミッションは新フルードの採用や油圧制御機構のユニット化、小径シャフトおよび薄肉プーリーなどの導入による軽量化、そしてレシオのワイドレンジ化を図った新開発のCVTをメインに、L13B型には5速MTを、L15B型には6速MTを設定した。

 ハイブリッド仕様は完全新設計。アトキンソンサイクルのLEB型1496cc直列4気筒DOHC16V・i-VTECエンジン(110ps/13.7kg・m)にH1型モーター(22kW/160N・m)を組み合わせた新開発の1モーターハイブリッドを採用する。エンジンとモーターの間には乾式クラッチの7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み込み、モーター走行時の高効率化やエネルギー回生量の増大を図った。また、リチウムイオンバッテリー内蔵のIPU(インテリジェントパワーユニット)や電動サーボブレーキシステム、フル電動コンプレッサーといった先進機構も導入し、燃費性能を効果的に引き上げる。この新ハイブリッドシステムは “SPORT HYBRID i-DCD(intelligent Dual-Clutch Drive)”と名乗った。駆動システムについては、FFと4WDの2タイプを用意。4WDは従来のデュアルポンプ式からビスカスカップリングのリアデファレンシャル式に一新した。

“EXCITING H DESIGN”をテーマに車両デザインを創出

 スタイリングに関してはホンダの新デザインコンセプトである“EXCITING H DESIGN”をテーマに、フィットらしさを受け継ぎながらダイナミックに進化した。“クロスフェードモノフォルムエクステリア”と開発者が呼ぶ新型は各部の造形にもこだわり、フロント部はソリッドウイングフェイスやエアロ形状のバンパー、LEDタイプのヘッドライト、内側に絞ったうえでボンネットの先端に伸びていくAピラーなどで先進的かつ個性あふれるマスクを演出。

 サイドビューは彫りの深い溝とその下の豊かな曲面、さらにシャープな造形のグラスエリアを組み合わせることによってドラマチックな表情を生み出した。また、ルーフのピークを従来よりも前進させると同時に、ノーズ高の引き下げやリアピラーおよびバックウィンドウの傾斜角を強めるなどしてハイテンションなフォルムを創出する。リアセクションはテールゲートにコンビネーションランプの一部を設置したり、リアサイドフェンダーからバンパーへと流れるような一体ラインを構成するなど、オリジナリティあふれる造形で仕立てる。装備面では、ハイブリッド仕様に空力特性を高めた専用ホイールキャップを、スポーティグレードにテールゲートスポイラーやサイドシルガーニッシュといったエアロパーツを装着した。

 インテリアは、従来からの特長だった広さや快適さはそのままに、上質感と運転のしやすさをさらに高めた“ソフィスティケイテッドフューチャリスティックコクピット”を具現化する。室内寸法は同カテゴリー最大級の長さ1935×幅1450×高さ1280mmを確保。同時に、多彩なアレンジを可能とした“ULTR SEAT(ウルトラシート)”を装備する。また、ハイブリッド仕様ではエコ運転をサポートするコーチング機能やティーチング機能、マルチインフォメーションディプレイをメーターパネル内にセットした。

「すべての価値が、ひとつの車に」のキャッチでデビュー

 3代目となるフィットは、“フィット3”と呼称して2013年9月に市場デビューを果たす。キャッチコピーは「すべての価値が、ひとつの車に」。車種展開はL13B型エンジンを搭載する13G/13G Fパッケージ/13G Lパッケージ/13G Sパッケージ、L15B型エンジンを採用する15X/15X Lパッケージと専用サスペンションやエアロパーツで武装したスポーティグレードのRS、そしてハイブリッド仕様のHYBRID/HYBRID Fパッケージ/HYBRID Lパッケージ/HYBRID Sパッケージで構成する。

 13G SパッケージとRSのCVT、HYBRID Sパッケージの7速DCTには、パドルシフトを組み込んだ。また、安全装備のVSA(車両挙動安定化制御システム)やヒルスタートアシスト機能、エマージェンシーストップシグナルを全タイプに標準化。新開発のシティブレーキアクティブシステムと前席用i-サイドエアバッグシステム+サイドカーテンエアバッグシステムは、“あんしんパッケージ”としてタイプ別に設定した。
 注目の燃費性能については、ハイブリッド仕様でクラストップのJC08モード走行36.4km/L (FF)を達成する。また、13G系で同26.0km/l (CVT、FF)、15X系で同21.8km/L(CVT、FF)という好燃費を実現していた。

1年のあいだに5回のリコール。信頼性の回復に力を注ぐ

 全面新設計で登場したフィット3は、発売1カ月の受注が月販目標の約4倍となる6万2000台超を記録し、さらに10月単月の販売台数では2011年4月以来となる車名別ランキングの首位に輝く。続く11月と12月、翌2014年1月もトップを獲得した。しかし、2月になると一気に第7位にまで落ち込む。その要因は、2013年10月と12月、そして2014年2月と、主にハイブリッド車の7速DCTの不具合に起因したリコールを立て続けに届け出たことにあった。さらに、2014年7月にはエンジン制御コンピュータ(ECU)プログラムの不適切、10月には点火コイルおよび電源供給回路の不具合によりリコールを届け出る。

 1年ほどの間に5回のリコールという、前代未聞のミスを発生してしまったフィット3。主な原因としては、DCTを開発した独シェフラー社とのコミュニケーション不足とメカニズム自体の熟成不足、i-DCDシステムの複雑性、そして当時のホンダの急激なハイブリッド技術の拡大展開(1モーター方式のi-DCDのほか、2モーター方式のi-MMDや3モーター方式のSH-AWDを開発)などが指摘された。
 度重なるリコールの対応として、経営面では当時の伊東孝紳社長と役員12人の報酬の一部を3カ月返納するというペナルティを課し、同時に品質改革担当役員を設置するなどの変更を行う。一方で開発現場では、i-DCDシステムなどの改善に懸命の汗を流した。フィット3は、まず2014年10月に純ガソリンエンジン仕様の一部改良を行い、安全装備および快適装備の充実化を図る。遅れて12月には、ハイブリッドモデルも同様の改良を実施。さらに2015年9月になると、シリーズ全体におけるエクステリアデザインの変更やボディカラーの追加、快適装備のさらなる充実化などを敢行した。
 ハイブリッドシステムの完成度や新規の海外サプライヤーとの共同開発体制など、苦心しながら多くのことを学ばせたフィット3。ホンダにとっては、育てるのに手がかかった“名車”だった。